「私は私なんですから!!」
「息抜きに、中庭でも歩きましょうか?」
イル様がふいにそう言った。
チェスのルールを覚えるのに四苦八苦していた私は、反論するはずもなくこくこくと頷く。
「ええ、是非」
出来るなら一人で歩きたいところだけれど、今日は仕方ないだろう。
そう自分に言い聞かせつつテラスに出ると、暖かい日差しが私を包んだ。
テラスの階段を下りて、中庭に降り立つ。
中心に噴水があり、それを囲むような美しい庭園。
「この中庭は、城の自慢の一つなんです」
イル様のその言葉にも、頷けてしまう。
私だって、イル様にあんなことを言われてたって王女で、女の子で――――、つまり、綺麗なものは好きなのだ。
「綺麗ですね……。わ、白鳥もいる……っ!」
「……姫、まさか鳥を追いかけるなんてことは……」
「そ、そんなことしませんっ!」
イル様の言葉に即反論しつつ――――、駆け出しそうになった足を慌てて抑える。
どうやらイル様はそれが分かったようで、はぁっと小さくため息をついた。
「……仕方ないでしょう。こんな美しい庭園に来たら、誰しも気分は高揚します」
少しむっとしながら、そう言い返す。
イル様はちらっと私を見て、
「……まぁ、姫らしいといえば姫らしいですが……」
そう、呟いた。
あれ、もしかして、少しは認めてくれた?
一瞬、そんな期待が胸を過ぎる。でも――――。
「……普通の王女なら、もう少し落ち着きを知っていますよ」
続けて言われたそれに、私の期待は吹っ飛んだ。
またしても失礼なことを言った上に、先程の“喧嘩は最後の一時間”約束はどこへ行ってしまったのか。
「よ、余計なお世話です! 良いんです、私は私なんですから!」
むっとして言い返し、イル様に背を向けずんずん歩く。
「大体イル様だって……。普通の王子なら、もっと紳士で、もっと優しくて、イル様みたいな酷いことは言いません!」
思っていたことを叫んで、少しすっきり。
ちょっと嬉しくなった私に……、後ろのイル様が控えめに言った。
「あの、姫――――。今の発言は置いておくとして……、前を見てますか?」
「……へ? それは、どういう……」
きょとんとした私の目に映ったのは――――、超至近距離の噴水。
瞼を閉じて歩いていたから、気が付かなかった。
あれ? と思う間もなく。
ばっしゃーんという派手な音と共に、私の視界は水で覆われた。
年内最後の更新です。
よくあるネタですが…、リイナなら、きっと落ちちゃうだろうなぁ、なんて(笑)。
どんどんなくなっていくストックが恐ろしい…。
では皆様、良いお年を!!