「私とイル様にとっては、大きな進歩でしょう?」
目の前に置かれる、黒と白のチェス盤。そして、私の白い駒と、イル様の黒い駒。
相手の駒を獲るゲームだってことくらいは知ってる。
けれど――――、獲った駒って、自分の駒になって使えるの? それとも使えないの?
そもそも、どうやってとるの?
ぐるぐると疑問が廻る中、ゲームが始まった。
「姫、どうぞ。白からです」
「……へっ? あ、はい」
慌てて盤の上の白の駒を手に取り――――、固まる。
とりあえず、前列の一番数が多い駒を持った。
果て、これは何マス動かせるのだろうか。
「……姫?」
「あ、はい!」
イル様の声ではっと我に返り、慌てて駒を置く。
置いたのは、駒の元いた位置から四マス進んだところ。
……気のせいだろうか、イル様のため息が聞こえた気がした。
「……姫、進めすぎです」
「……へっ?」
「ですから、進めすぎです。もしや、ルールを知らないのですか?」
ぎくりとして、ちらりと彼の顔を見る。
……大丈夫、私のことを馬鹿にしている色はない。
チェスのルールを知らないくらいで、さすがに馬鹿にはしないだろう。
「……まぁ、えっと、やったことがなくて……」
あは、と苦笑しながら呟くと、イル様はそうですかと頷いただけだった。
馬鹿にされなかったことに、心の中で安堵のため息を漏らす。
でも――――、その後に続いたセリフは予想外のものだった。
「では、お教えしましょう」
「……へっ?」
教える? イル様が?
きょとんとイル様を見つめても、彼の表情にふざけている様子はない。
「いや、えっと、そこまでしていただかなくても……」
「しかし……、何もせずに、姫と私がただの会話で時間を潰せるはずがないでしょう」
イル様のその言葉に、ぐっと詰まる。
確かに、ただ単に話しているだけなら、すぐに口論になってしまう気がする。
「それに、しばらくはこの部屋に二人でいないと、姫も私も面目が立ちませんし。仕方ないでしょう。姫が、別に何か時間を潰せるものを提案してくださるのなら別ですが」
イル様はそう言いながら、黒い駒を横に並べていく。
「そう、ですね。では……、よろしく、お願いします」
不思議なことになったけれど、とりあえず私は頭を下げた。
もっとも、婚約者同士で“なんとかして時間を潰す”のもおかしいけれど、私とイル様にしては大きな進歩だ。
そして今更、今まで一度も口論になっていないことに驚く。
今日は、上手く過ごせるかもしれない。
そんな、微かな希望が芽生えた。
記念すべき50話なのに、全然話が進んでな(ry。
い、いいんです、大きな進歩なんです、このお二人さんにとっては。
ただ、リア充…ごほん、恋人たちのクリスマスも、この二人には関係ないですが(笑)。
ちょ、ちょっとずつ、リイナとイルの間の距離が…近づいて…きま、した?←