「姫様へのご無礼は神様が許しても私が許しません!!」
「……イル様、それは女性に言う言葉としてどうかと思いますが」
私は、ふるふる震えながら言う。ああ、どうしよう。右手が今にもイル様の顔にヒットしそうだ。
イル様の右頬が、左頬より赤いと思うのは、私の気のせいじゃないはず。
あれは、私が殴ったからだ。
だから、今回はなんとか怒りを治めねば……。そう私は、自分自身に言い聞かせる。
でも、自分に言い聞かせるのに必死で―――
「……イル様。姫様へのご無礼は神様が許しても私が許しませんよ」
私の隣でナミから青い炎が出ていたことに、気付かなかった。
私が慌てて隣を見ると、構えをとっているナミ。
「ちょ、ナミ!! だめでしょ!! 抑えて抑えて!!」
「いいえ姫様、止めないでください! 姫様を侮辱する者を殴るのは私の勤め!!」
「待ってーっ!! だめ、だめ、イル様は隣国の王子様よ!」
私はばたばた暴れるナミを、力づくで抑える。と言っても、怒ったナミの力は尋常ではない。
「ちょ……な、み……ッ」
「姫様、お手をお話下さい!! 私に、イル様を殴る許可をッ!!」
「そんな許可出せるわけないでしょっ!!」
喚きあう私達を、一歩引いて見ているイル様。
ちょっと、何してるんですか!
「イル様!! 早くお逃げください! ナミに殴られます!!」
「……そのようだが……まさか、隣国の侍女ともあろうものが、一国の王子を殴らないだろう」
そう言って、イル様はふっと笑う。
違います。それが殴るんです。その美しいお顔をこれ以上傷つけられなくないなら逃げてください。
と、私が心の中でそう言った瞬間にはもうアウトだった。
ナミが、私の腕の中を脱出し、イル様の方へ右手を突き出す。
ナミの力強い右ストレートは……空を殴った。
「……え?」
「あれ?」
私とナミは、きょとんと空を見た。
あそこにいたはずの、イル様は? イル様が、いない。
きょろきょろとする私の後ろから、
「……まったく、一体この国はどうなっているんですか」
ため息交じりの声が聞こえた。
「え、ええっ?」
慌てて後ろを振り向くと、そこにはイル様の姿。
何今の。瞬間移動?
「イル様……なぜ……え、早い……」
「……リイナ姫。貴女も貴方ですが、侍女も侍女ですね」
私の言葉を遮って、暴言を吐くイル様。
ちょっと、何? “貴女も貴女ですが侍女も侍女ですね”だぁ?
「……イル様、そこにお直り下さいませ」
「……は?」
イル様は、怪訝そうに眉をひそめる。
直らなくても良い。私は、すうっと息を吸った。
ナミみたいに、避けられないように猛スピードで。幼馴染で騎士のユアンに教えられたように、拳に全体重をかけて……。
「やぁっ!」
王女らしくないかけ声と共に、私はイル様に向かって拳を突き出した。
絶対当たる。そう思った。なのに……
「……リイナ姫。昨日のことと言い今日の侍女と言い貴女と言い、なんなのですか。
貴女は、私に喧嘩を売っているのですか?」
イル様は見事に避けて、醒めた顔で私を見ている。
私はぽかんと、自分の右手をイル様を交互に見る。
「え……なぜ……? だって、さっきのはユアンに教えてもらった絶対に殴れる方法……」
「……なぜ貴女は、婚約者に対して絶対に殴れる方法を使うのですか」
イル様はそう呟いて、再度ため息をつく。
「リイナ姫。私達は――非常に不本意ですが――婚約者なのですよ。
しかも、ただ婚約ではありません。私達は、それぞれの国の長。私達が決裂したら、戦まで考えられるのです。
ですから、その諍いの原因になるようなことは、やめましょう」
私はぽかんとして、そのイル様の言葉を聞いていた。
なんだ、けっこう大人じゃない。そう思う反面、自分が子供に見えるのが気にいらない。
「……分かりました」
私はそう呟いて、振り上げていた拳を下ろす。
イル様は頷いた。そして、口を開く。
「貴女に、お伝えしたいことがあるのです」
「はい?」
硬いイル様の表情に、私は嫌な予感がした。
そして……その予感通り。イル様の口から出た言葉は―――
「父上……レフシア国王より、“我が国にしばし、遊びに来ないか”と……」
ナミ……なんか、思ったよりも濃いキャラに←
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