「イル様と、二人っきりだなんて御免です」
絶対に口付けなんてしない、宣言をした翌日。
朝食を食べ終えた私の元に、お妃様からの手紙が届いた。
内容は、本日は応接間にてお過ごししてはいかがでしょう、なんて、簡単なもの。
急にどうしたのだろうと思いながらも、断る理由もないからそれに従う。
そして――――、私が深く後悔した。
応接間には、不本意そうな表情を隠すこともなく座っている、イル様のお姿があったのだから。
***
「イル様……、何故、ここに……」
応接間に入った私を見て、一瞬固まるイル様。
そしてすぐに、いつもの大きなため息をつく。
「……母上の仕業です」
「……お妃様の?」
問うた私に、イル様は頷いた。
そして――――、苦虫を噛み潰したような顔で言う。
「母上はどうしても――――、私と姫をくっつけたいらしいのです」
ちらりと私を見て……、もう一度、ため息。
今更だけど、人の顔を見てため息をつかれるのは良い気分じゃない。
けれど、今はそれ以上に、
「く、くっつけたい、ですか……」
それが気になる。
お妃様が私とイル様の結婚を推奨していることは、昨日の会話でもう分かっていたけど。
そういえば、私とイル様の結婚に賛成の人はお妃様が初めてではないだろうか。
ナミは言わずもがなで反対だし、アルヴィン様も……、言い辛いけど、私と結婚する気になっているし、アリス様はイル様を渡す気はない。ナミの恋人ユアンは……、反対でも賛成でもない、といったところ。
だから、私とイル様をくっつける可能性――――もちろんくっつく気はないけど――――を持っているのは、お妃様ただ一人。
「……でも、だからってなぜここに……」
別に、応接間でイル様と二人っきりになっても、話すことなんてあるはずもありませんし。その言葉は、心の中で呟く。
けれど……、それは、イル様にはお見通しだったようで。
「姫はさぞ怒っているでしょう。私とここに二人きりとは」
そう言われた。隠す気もないので、こくりと頷く。
そして、
「……私もです」
大真面目な顔で、イル様もそう言う。
……何度も思うけど、これが婚約者同士の会話とは思えない。
「……ところでイル様、結局ここに二人きりになってしまったわけですけど、どうするんです?」
イル様とここに二人きりなのはとても嫌だけど――――、お妃様の言葉だから、無下には出来ない。
それはイル様も同じようで、どうしたものかと思案している。
「……ではせめて、何かしましょうか」
イル様がそう言いながら、部屋の仲を見回す。
しばらくして、指差したのは――――チェスだった。
「アルヴィンともアリスともよくします。どうせなら、姫ともどうでしょう」
そう言われ、イル様に馬鹿にされるのが嫌で頷いたけれど―――――。
実は私、チェスのルールを知らないんだった。
くっつかないなら閉じ込めてしまえ。←
しかし、それでもくっつかないのがこの二人なのです。←
私的なイメージ的には、喧嘩し合ってる中学生の男女なんです(笑)。