「正直言って、イル様のことはとても嫌いです」
「狼に襲われたっ!?」
耳が敗れるんじゃないかというボリュームで、そう叫んだのはナミ。
「ちょっと、ナミ、声が大きい……」
「あっ、申し訳ありませんっ!」
耳を押さえて注意する私に、ナミは慌てて頭を下げる。
「でも、あの、狼に襲われたって……」
「ええ。まぁ、イル様が全て退治してくれて、私はアルヴィン様とアリス様と一緒に逃げたんだけど……」
私の報告を聞きながら、ナミは思案顔をする。
「このお城の庭園なのでしょう? なのに、なぜ狼が出たんですか?」
「そう! そのことよ。今日城に戻ってすぐ、イル様達と、国王陛下とお妃様の元に行ったの。そしたら……」
*
「まぁ、よくあることですよ」
苦笑しながら、そう言ったのはお妃様。
「……えっ?」
予想外の答えに、呆然とする私。
その様子を見て、お妃様はころころと笑う。
「今日の狼は、突然紛れ込んだものではないと思いますよ。おそらく、リイナ様とイルの婚約を、よく思わない者の仕業でしょう」
お妃様の言葉で、そういえば、と私は思い出す。
この国に来る途中にも、私とイル様の婚約を邪魔しようとする者がいた。
「あの……、邪魔する者も多いですし、いっその事、この婚約話を白紙に戻しては? ほ、ほら、この方が、両国にとって良さそうですし……っ」
微かな希望を込めて、言った言葉。
しかしそれに対して帰ってきたのは、国王様の豪快な笑い声だった。
「リイナ殿、そんなに怯えなくとも大丈夫ですぞ。一国の王子と王女の婚約なのだから、こんな邪魔が入るのも当然。良く思わない貴族もいるでしょう。しかし、ちゃんとイルが、リイナ殿を危険から守りますよ」
いえ、だから、一番の危険じゃないのは、私とイル様の婚約を取り消すことで……。それを言うこともできずに、私はただ曖昧に微笑む。
微笑んでいると……、お妃様から、
「リイナ様。……そんなに、イルのことがお嫌いですか?」
そんな、予想外の質問。
何も喉に入れていないのに、咽てしまう。ここでイル様がハンカチを差し出すのは、お決まりの事。
そして、私がそれを受け取るのもお決まり。……仕方がない。どうしても、毎回毎回ハンカチを持っていくのを忘れてしまうんだから。
ハンカチで口元を拭きつつ、お妃様の質問にどう答えようかと頭を廻らす。
そして、慎重に言葉を選びつつ、答える。
「そうですね。……えっと、まぁ、好きとは言えない、と言うか……。まぁ、あの、時々、というよりいつも、イル様に対しては腹が立ちすぎて……。嫌い、と言っても、間違いではない、と言いますか……」
もごもごと言いながら、だんだん正直な気持ちになっていく。
言葉がまとまらなくて、歯痒い。だから―――――、
もう、正直に言うことにした。
「正直言って、イル様のことはとても嫌いです」
私がそう言った瞬間、しんと静まり返る場。
そして、イル様が額に手を当てつつ、
「姫――――、正直に言い過ぎです」
そう、苦虫を噛み潰した様な顔で言った。
八月の更新がこのままだと一回になりそうだったので、更新。
うああ、ストックやばいやばい。と、頭の中パニックな私です。
そして、イラストコーナーを設置しました。
皆様から頂いた素晴らしいイラストを展示してます。
イラスト描いてくださる方、いつでも大募集中です←図々しい。
ちなみに作者に、「ここのシーンのこいつとこいつ描いて」とか「こいつ描いて」みたいなのも募集中です。
……ただ私、イラスト描くの、好きなのですが、アナログでド下手です(笑)。
それでも良いって方は、感想欄にてお書きください。