「大丈夫ですよ。兄上ですから」
少し離れたところから聞こえた悲鳴に、私もイル様もアルヴィン様も振り返る。
今のは確かに、アリス様の悲鳴。
「何が……」
あったのでしょうか、そう言いかけた時、アリス様の姿が見えた。
青い顔をして、私たちの方へ一直線に駆けてくる。そしてその後ろ数十メートルに見えるのは――――数頭の狼。
「アリス!?」
イル様とアルヴィン様が、狼に追われている妹を見て叫ぶ。
「あ、アリス様っ!?」
もちろん私も。アリス様は無事なのだろうかという心配と共に、たくさんの疑問が頭の中を支配する。
なぜここの狼がいるのだろう。アリス様はなぜ走って逃げるだけの気力が残っていたのだろう。
何より、人間の、しかも女性が、狼から逃げられるだけの脚力を持っていることに驚く。
さすが、イル様とアルヴィン様の妹。一癖も二癖もある。
アリス様の危機なのに、そんなことを考えてしまう。
「アリス、大丈夫か?」
そんなことを考えている間に、アリス様は私たちの所までたどり着いたらしい。
イル様に捕まり、肩で荒く息をしている。
「い、イルお兄、様……っ、なぜか、急に、狼がっ、森から……ッ」
アリス様の報告を聞いたイル様は、鋭い瞳で狼を睨む。
そして、追いついた一頭をあっという間に切り殺した。そして、
「アルヴィン! 姫とアリスを連れて城へ戻っていろ! 私はすぐに追いつく!」
アルヴィン様にそう叫ぶ。そして、
「姫はお前と同じ馬に乗せろ! アリスは乗馬が上手いが、姫は馬に乗れん!」
そう続ける。いつもなら反論するけど、今はそんな暇はない。
イル様の言葉にアルヴィン様は迷いもなく頷き、私を抱き上げて馬に乗せた。そして、アルヴィン様も私を支える形で後ろに乗る。アリス様も、素早く隣の馬に乗った。
そんな間にも、素早く狼を切り殺すイル様。
「えっ、ちょっ、アルヴィン様!? イル様を置いて行くのですかっ!?」
「兄上なら大丈夫です。今すべきことは、リイナ姫とアリスを危険のないところへ連れて行くことですから」
アルヴィン様はそう言うと、すぐに馬を走らせた。
反論する暇もなく、離れて行くイル様の姿。
アルヴィン様が馬を止めたのは、庭園からかなり離れた所でだった。
ここで兄上を待ちましょう。そう言うアルヴィン様は、いつも通りの顔。
「え、ちょっ、ここで待つって……。なぜ、そんな平気な顔をしていられるんですか!?
イル様が、貴方のお兄様がお一人で、あのたくさんのオオカミを相手にしているんですよ!?」
本気で心配している私に、アルヴィン様は笑いかけた。
「大丈夫ですよ。兄上ですから」
その余裕の笑みは、イル様を信頼しきっている笑み。
その笑顔を見るとなぜか、イル様なら大丈夫、そう思えた。
そしてイル様はアルヴィン様の宣言通り、傷一つない姿で、あっという間に帰ってきた。
イル様が帰ってくるまでの間、少し、思った。
このまま、彼が死んでしまったらどうしよう、と。
会いたくはないけれど、消えて欲しくはない。
嫌いだけれど、死んでしまうのは嫌。
恋でも愛でもないこの感情は、一体何なのだろう。
更新が遅れて申し訳ありません。
うわあ、リイナ、貴女、いい加減イルに恋愛感情持って欲し(ry。
…はい、書いてるのは私です。
人気投票、現在一位はリイナ。そして次に、イルを押えナミです。
ナミ、きっと登場させるから…ちょっと待ってて。←
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