「これは兄上からリイナ姫を奪うチャンスです」
「さて……リイナ姫を街に放って行ってしまった兄上は、一体なにをしているんでしょうね?」
城につくと、アルヴィン様がふいにそう言った。
そして、私の手を握ったまま歩き始める。
「えっと、あの、アルヴィン様、もう城につきましたし、手を握ってもらう必要は……。私、お部屋に帰ります」
そう言いつつ、私はアルヴィン様の手を自分の手から離す。
朝から、アルヴィン様とイル様ばかり。もう限界だ。やっと、部屋に帰って落ち着ける。そう思ったのに、
「お待ちを、リイナ姫」
なぜ、アルヴィン様は私を呼び止めるんだろう。
「何でしょうか?」
笑顔を浮かべて、首を傾げて私は聞く。
アルヴィン様はにっこりと笑い、私の手を握りなおす。……お願いします、離してください。
「兄上とアリスの元へ行きましょう。リイナ姫も、兄上に対して文句の一つや二つ、あるでしょう?」
「えっと……まぁ……、一つや二つと言うか、十も百もありますけど……」
もごもごと口ごもる私を見て、決定ですね、とアルヴィン様は笑った。
えっと、文句はあるけど、イル様のお部屋に行くなんて……。心の中でそう呟いても、
「では、行きましょう。私にとっても、これは兄上からリイナ姫を奪うチャンスですし」
アルヴィン様はきらきらとしたオーラを纏ってそう言うと、強引に私の手を握り、足取りも軽くイル様の部屋へと急ぐ。
アルヴィン様、それが目的なのですね。そう、心の中で呆れ気味に呟く。でも……一つだけ、アルヴィン様にお教えしなければなりません。チャンスも何も、イル様は寧ろ“奪ってほしい”といつでも思っているに決まっていますよ?
******
「兄上、アルヴィンです。失礼します」
こんこんとノックをし、アルヴィン様は扉に向かって言う。
それを見て、
「り、リイナです。失礼しますっ」
と、私も慌てて言った。
姫!? という、少し驚いた声が内側から聞こえる。扉を開けて中へ入ると、チェス盤を挟んで、向かい合っているイル様とアリス様。
「姫……なぜ、私の部屋に?」
絶対に、来たくないはずでは? 口に出してはいないが、そう目で聞かれる。
ええ、そうなんです。来たくなかったんです。アルヴィン様に強引に連れていかれたんです。私も目でそう言ってから、ふとアリス様へと視線を移す。途端に、
「アルヴィン兄様、リイナ様、なぜここに……。私は今、イルお兄様とチェスを楽しんでいたんですのよ? 邪魔しにきましたの?」
頬をぷうっと膨らませて、そう睨まれた。喋っていることは置いておいて、頬を膨らませているアリス様はとても可愛い。
「……楽しんでいた? アリス、これが? どう見ても、お前が兄上にぼろ負けしているようにしか見えないが?」
「あ、アルヴィンお兄様は黙っていてくださいませっ!」
アルヴィン様の指摘に、頬を真っ赤にして怒るアリス様。チェスのルールは知らないけど、私にも分かる。アリス様の白い駒は、イル様の黒い駒よりずっと少ない。
そんな考えを読まれたのか、アリス様は今度は私に噛み付く。
「い、良いんです! イルお兄様と二人きりでチェスをしたという事実が、私には嬉しいんですもの!」
怒った猫のような剣幕に、私はただ頷くしかなかった。
そして、やはり、と心で呟く。
やはり、アリス様も十分おかしな方だ、と。
更新が遅れて申しわけありません。
そして、謝罪がもう一つ。
高校の忙しさとネタが出ないのとで(←)週一更新は難しい……というか、無理です←おい。
でも、のんびりとでも執筆を続けますので、どうか羽月をこれからもよろしくお願いします。