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「私は、貴女と街を見て回るなどしたくはありません」


 はぁーっと、アルヴィン様が大きなため息をつく。


 「では、私は城に戻るとします。リイナ姫、申し訳ありませんが、この先は兄上に案内を任せま……」

 「えええっ!?」


 アルヴィン様の言葉を聞いて、私は思わず大声を出した。

 横では、イル様も声を出さずとも驚いている。


 「アルヴィン……それは、なんの冗談だ」


 アルヴィン様に、そう耳打ちするイル様。

 あの……聞こえてますけど。それに、耳打ちなど必要ありません。今更それ以外の反応をイル様に期待していませんから。


 「いえ、私的にも兄上とリイナ姫が一秒でも長く二人っきりでいるのは嬉しくないのですが……。というより、私はアリスよりもリイナ姫と共にいたいのですが……。アリスが私を呼ぶというのは珍しいので。行ったほうが良いかと」

 「いえ、ならば、私も……」


 私も城に戻ります。そう言いかけた私の横で、イル様がため息をついた。

 

 「良いです。姫はこのまま観光を続けてください。アルヴィンに変わり私が案内しますから」

 「な……。私は別に……」


 イル様も、私と街を見るのは嫌なはず。なのに、なぜわざわざ止めるのだろうか。

 それを小声で聞いたら、イル様は二度目のため息をついた。


 「姫、姫の言っていることは事実です。私は、貴女と街を見て回るなどしたくはありません。ですが……ここは、私の国です。貴女がアルヴィンに惚れてもそうならなくても、この国に嫁ぐのですから、その魅力くらい見せるのが婚約者(わたし)の役目でしょう?」

 

 イル様の説明に、ああ……、と、私は頷いた。

 確かに、私はこの国に嫁ぐことになるし、その相手がイル様かアルヴィン様だったら、少しでも楽しみを見つけておいた方が良いかもしれない。


 「そうですね。……では、よろしくお願いします」


 私のその言葉に、イル様ははいと頷く。

 少し面白くなさそうな顔をして、アルヴィン様は城の方へ歩いて行った。


 

              ********



 アルヴィン様と別れ、イル様を街を歩き始めて数十分。

 

 「あれが、パン屋です。主人の兄が作っているという小麦を練って作られるパンはとても美味と評判で、時々城にも届けにきます。その隣は仕立て屋ですね。アリスと母上の行きつけの店です。独特な色合いで作られるドレスは上流階級の貴族の女性には好まれぬようですが、アリスと母上は好むそうです。そしてその隣が果物屋で、あそこは季節ごとに旬の果物がいち早く―――」

 「ちょ、ちょっと待ってください」


 イル様の怒涛の説明を、私は遮った。

 今まで我慢してきた。でも―――待ってください、イル様。一言だけ言わせてください。


 「その説明の仕方、やめて頂けませんか……?」

  

 こうこうこういう風に店を売り込みなさい、そんな台本に書かれたような説明の仕方。ええ、分かりやすいです。でも……つまらない。

 普通、他人に紹介するときは自分の感想を織り込むものではないでしょうか?


 「やめて頂けないかと言われても……。今の説明で、店のことはちゃんと伝わっていると思うのですが」

 「そういうのではなく……たとえば、イル様はその果物屋で何か食べたことがありますか? その味はどうでしたか? そんな感想を入れて説明してもらった方が理解できますし。それに、普通はそうやって自分の好きなお店を紹介するのでは?」


 私の言葉に、なぜかイル様は顔をしかめる。

 今、何も変なことは言わなかったと思うのですが。


 「それを―――感想を聞いて、あなたはどうするのですか?」

 「……えっ?」

 

 急に質問を投げかけられ、私はきょとんとした。

 

 「いや、その方が店の魅力が分かりやすいですし……。イル様も、実際にその店を利用した人の話を聞いた方が分かりやすいでしょう?」

 

 私の言葉を聞いたイル様はくるっと背を向ける。

 そして、そのまま何も言わず果物屋でリンゴを買った。『お代は要りません』という女主人に、無理に銅貨を渡している。

 そして、リンゴを買ったイル様は私に渡した。

 

 「私はこの店を利用したことがありますし、おいしいと感じました。姫、今一口食べて頂けますか」

 「えっ、えっ?」


 一体、イル様は何をしたいのか。

 いまいち……いや、全然わからないけれど、とりあえず私はリンゴを齧った。 

 口の中に広がる、上質な甘み。程よい水分が含まれていて、とてもおいしい。


 「おいしいです。……けれど、なぜ今食べてと……?」


 私の言葉に、ため息をつくイル様。

 そして、少し呆れた顔で言う。


 「姫は、百聞は一見にしかず、という言葉をご存知ですか? 私がどんなに口で『おいしい』と言っても、姫にとっては違うかもしれないでしょう。事実を自分で確かめもせず、他人(ひと)の言葉だけで判断をするなんて―――私は、しませんが。旨い、不味いなどと感想を聞いたら、先入観が入ってしまいますし」

 

 言い終わると、イル様は私を見てもう一度ため息をついた。


 「ですから、私は人の意見などに振り回されたくはないのです。もちろん、国を治める者として、国民の声に耳を傾けるのも大切だとは知っていますが。―――もし、仮に、このまま姫が私の妃となるのなら、姫も人の意見ばかりを聞いて、ふらふらしないで欲しいのです」


 かっこ良い事を言った……のだろうか。

 私は、いつも通りに腹が立ったけれど。


 「そうですか。ご安心くださいませ、私はちゃんと自分の考えで動いてます!」

 

 私は強い口調でそう言うと、すたすたとイル様の先を歩く。

 顔は見えないけど、イル様が再びため息をついた気がした。











 

なんだか迷走中です。

このあたり、のちのちとんでもない改稿をするかもしれません。

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