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「殴った私に非はありますか?」

 「私は、ふざけた女性は嫌いなのですが」


 イル様がそう言った瞬間、場の空気が凍った。

 分かる。いくら天然で空気が読めないと言われる私だって分かる。

 この場の温度は、絶対0度以下だ。


 「……イル殿?」


 お父様が、震える声で呟いた。今聞いたことが信じられない、という口ぶりだ。

 でも、私にはよく分からない。イル様は“ふざけた女性が嫌い”と言っただけで、私を嫌いとは言ってないのに。


 「……イル様、何故今それを言うのですか?」


 私がきょとんというと……イル様は、さっきよりもっと怖い顔をした。

 待って下さい。それ、婚約者に向ける顔ではないです。

 

 「リイナ姫……私は、ふざけた女性が嫌いだと言ったのだ。今、ふざけた女性が貴方以外のどこにいる」


 イル様の言葉に、今度は私が固まった。

 え……今、私のこと嫌いって言った? 婚約者に? 初対面なのに?

 

 「り、リイナ……」


 お父様が、おろおろと私に話しかけてくる。

 でも……私の心は、いらいらでいっぱいだった。

 初対面の婚約者に、“嫌い”って何? あんたは、それでも、一国の王子かぁぁぁ!!

 心の叫びと共に、私は一歩踏み出した。

 そして、丸めた拳でイル王子の顔を殴る。美系が台無しになったって、構うものか。

 

 「きゃ……ッ」


 侍女の一人が、びっくりして声を上げた。

 お母様が呆気に取られて、


 「リイナ……女なのに、拳で……せめて、平手で……」


 と呟いているのを聞いて、私ははっとした。

 そうだ! 王女なのだから、平手じゃないと!! 拳だなんて、男の人の殴り方だ。

 よし、今更だけど、平手に変更しよう。

 そう思って、深く息を吸った時――――


 「リイナ姫。これはなんの御冗談ですか?」


 ごごごごごと燃え盛る炎の音が聞こえそうなイル様が、私を睨んだ。

 そこで、ふと思いだす。イル様は、私の婚約者だった……。


 「あ、あ、あ、……」


 お父様がパニックになって、言葉にならない声を漏らしている。

 あちゃー……どうしよう。この国最大のピンチとか、私招いちゃったのかな……。

 でも、と私は考え直す。

 先に喧嘩を売って来たのはイル様だ。私はそれを買っただけ。売られた喧嘩を勝って何が悪い。


 「失礼ですがイル様。先に私に“嫌い”と言ってきたのは貴方の方です。

 私はそれに怒ってイル様のお顔を殴っただけ。非なら、イル様にあるのでは?」


 ひ……、と、お父様が息を飲むのを感じた。

 イル様は、冗談の通じない堅物な方だと有名だ。

 それが何だ。だからって、私が彼にかなわない理由じゃない。私だって、天然だけど短気なんだ。

 

 「イル殿、娘が大変失礼を!! 娘は人とは少しばかりずれていまして……どうぞ、許してやってください」


 お父様、黙って。私は目だけでお父様にそう伝える。

 馬鹿な、とお父様も目で私に言ってきた。

 私は無視して、イル様の方を向く。


 「イル様。私に謝ってください。初対面で“嫌い”などとは、許しがたい愚行です」

 「なんと……私に、謝れと?」


 私より身長の高いイル様は、上から怖い目で私を見てくる。

 なんだか、悔しい。これからは、牛乳をたくさん飲むことにしよう。


 「ええ、もちろん。それが、人の常識でしょう? まさかレフシア王国の王子がそんなことも御存じないとは、驚きですわ」


 口に手を当て、私はほほほ、と笑う。

 イル様のこめかみが、ぴくぴくっと動いた。


 「まさか。そんなことあるわけがないでしょう。

 それより、私こそ初対面で婚約者に手を上げるようなものがルーン王国の王女だなんて、信じられないのですが」

 

 私達の周りを、完全燃焼の白い炎が包む。

 不思議だ。イル様といっしょにいると私の天然キャラがどんどん薄くなって言ってる気がする。


 「そうですか? お互い、不思議な国なのですね」

 「真に」


 そう言って、私達はいっしょに笑いあう。もっとも、その笑いは見ていて寒気のするものだっただろう。















お気に入り登録してくれた方、評価してくれた方、ありがとうございます。

本当に嬉しいです。


そして……お妃さま、ツッコミどころが違いますよね。

彼女も、実は少し抜けてたりします。


……ちなみに、“レフシア王国”。

この国名を考える時、頭の中に“ラフレシア”と浮かびました(おい)。

……ご存知でしょうか。世界一大きくて臭い花です。

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