「どうやら、私の恋路は厳しいようですね」
「……ということになったの」
お茶会でのことを、部屋で待っていたナミとユアンに話す。
反応は、正反対だった。
「なんですってっ!? アルヴィン様がそんなことを!?」
目を丸くして、大声を出すナミ。
そして、
「あはは、アルヴィン王子も必死だな。リイナのどこがそんなに良いのか」
けらりと笑うユアン。そんなユアンは、
「ユアン! 姫様のことをそんな風に言わないの!」
と、ナミに頭をはたかれる。
「ごめんナミ。でも……アルヴィン王子がなぁ……。なんか変な展開になってきたな……」
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すぅ……と、息を吸う。
目の前には、大広間の扉。今は、夕食の時間だ。
「……失礼致します」
そう言って、私は扉を開けた。その中には、もう見慣れたアヴィンセル王家の面々。
挨拶をして、席に着く。
「では、リイナ殿も到着したことだし、食べようか」
国王様のその言葉を合図に、豪華な料理が運ばれてくる。
かちゃかちゃという、ナイフやフォークの音。サラダを食べていると、(なぜか)また隣のアルヴィン様が話しかけてくる。
「リイナ姫、明日は何か用事はお有りですか?」
「むぐ……あ、明日、ですか―――?」
サラダをほおばっていた私は、慌ててそれを飲み込む。
王女なのに、なんて思わないでほしい。おいしいものは、口いっぱいに頬張りたい。
「明日は……はい。何も、予定はありませんが……」
私がそう頷くと、アルヴィン様はぱっと顔を輝かせた。
そして、きらきらとした笑顔で、
「では、明日は私と共に町へ行きませんか?」
と尋ねた。げほ……と、私は思わず咳き込む。
「町へですか? あ、アルヴィン様と……?」
目を丸くして尋ねる私に、アルヴィン様は笑顔のまま頷く。
「ええ。―――私では、お嫌ですか?」
「あ、あの……いえ……」
本当は、こくっと頷きたい。真っ向から肯定したい。
でも、やはり肯定するわけにはいかず―――、
「町へ行くの、楽しみですわ」
そう、微笑むしかなかった。
そんな私たちの様子を見て、豪快に笑う国王様。
「アルヴィン、必死だな」
「笑わないでください、父上。時間制限は7日間しかないのですよ? 私だって、必死になります」
少し、むくれたような顔をするアルヴィン様。
「ははは、すまないなアルヴィン」
国王様は、口では謝りながらもまだ笑っている。はぁ、とアルヴィン様はため息をついた。
「イル」
ひとしきり笑うと、国王様はふいにイル様へ話を振った。
七面鳥を食べていたイル様は、国王様を見た。
「なんでしょう、父上」
「お前は、何も感じないのか?」
その問いに、は? という顔をするアルヴィン様。
国王様は、呆れたような顔をする。
「だから、リイナ殿はお前の婚約者だろう。そのリイナ殿と、お前の弟のアルヴィンが町へ行くんだぞ」
「それは―――」
イル様は気まずそうに、視線をさまよわす。
「そうですね。しかし、アルヴィンも本気で姫のことを好いているようですし、今はただの婚約者であり、アルヴィンの兄である私が、止めることも―――」
「イル、お前がそんなことを言ってどうする。それではリイナ殿に愛想を尽かされてしまうぞ」
イル様の言葉を遮って、国王様はそう言う。
もう、愛想を尽かしています。そんなこと、言えるわけもない。
そんなことを思っている間に、話はどんどん進む。
「父上、父上は私の邪魔をしすぎです。兄上とリイナ殿の仲ばかりを応援するのではなく、私とリイナ姫仲も応援してくれませんか」
アルヴィン様は、ため息交じりに国王様を見た。
「最初に言っただろう。わしは、リイナ殿とお前ではなく、リイナ殿とイルが良いと思うと」
「……そうでしたね」
国王様の言葉に、頷きながらも項垂れるアルヴィン様。
「どうやら、私の恋路は厳しいようですね」
……私にとっては、厳しくて結構だけど。
いつの間にやら、もう27話なのですね。
……こんなにかかってもくっつかない主人公ってどうなんだろう。