「幾千の星の輝きも、貴女の前では陰るというものです」
「アリス、呼んだか?」
急に、私のすぐ隣から声がした。
声の主は、アルヴィン様。彼は、今の今まで実の妹から批判されていたことを知っているのだろうか。
「あら、アルヴィン兄様。別に、なんでもありませんわ」
イル様への態度はどこへやら、アリス様はふいっとアルヴィン様から顔を背ける。
「アリス、なんでお前はいつも……。そんなに私のことが嫌いなのか? あのな、私は何も、アリスに嫌われるようなことをした覚えはないんだが……」
「あーら、アルヴィン兄様。毎日毎日町の娘を変えているのはどなたですの?
私からすれば、アルヴィン兄様は兄様とも思いたくないほど、はしたないお方ですもの。
アルヴィン兄様もイルお兄様を見習って、少しは態度を改めては如何ですか?」
唇を尖らせて、アルヴィン様を睨むイル様。
なんなんだろう……この兄弟……。結局、
「……リイナ姫。アリスは放って、私と共にバルコニーに出ませんか?
我が城から見る星空は、レフシア王国の自慢の一つなんですよ」
アルヴィン様はアリス様を無視して私に話しかける。
「星空、ですか? そうですね、それは是非見たいです……一人で」
私はにこっと笑いながらも、“一人で”の部分を強調する。
このイル様とアリス様のところから解放されるのは万々歳だが、アルヴィン様といっしょに星空を眺めるなんて、冗談じゃない。
でも……、
「アルヴィン様、これはどういうおつもりですか?」
アルヴィン様の手は、私の手をがっしりと握っている。
しかも、見た目以上に強い力。どんなに力を込めても、私の手はぴくりとも動かない。
「美しい星空は、是非美しいリイナ姫と共に見るべきだと思いませんか?」
「思いません」
私はきっぱりそう答えると、ぐいぐいと手をひっぱる。
でも、アルヴィン様の手は力が強くて離れない。馬鹿力というのだろうか。馬鹿は、頭だけで結構なのに。
そんな失礼なことを考えながらも、私は手を引っ張り続ける。
「……アルヴィン様、いい加減お手をお放しください」
「いいえリイナ姫。私は決して、この手を放したりなぞいたしません。ええ、そうです、永久に。
綺麗な星空に在る月の神でさえ、私達の中を裂くことは出来ないでしょう」
アルヴィン様の口から紡がれた言葉に、私は思わず固まる。
変態だとは分かっていたけど、まさかこれほどまでとは……。今までにないくらい、鳥肌が立った。
「な、なななな……」
ナミ、と呼ぼうとする。でも、そういえばいつの間にか私の傍にナミの姿は無い。
きっと、ユアンとどこかで……。私はそう考えて、心の中でため息をついた。
「……あっ、あの、アルヴィン様!」
はっと思いついて、私はある一点を指差して言う。
「ほら、あそこにとても美しい女性がいますよ。レフシア王国の貴族の方でしょうか?
とても綺麗ですね。私、あんなに綺麗な方になんて、会ったの初めてです!」
さっきのアリス様の言葉―――「一日一日女をとっかえひっかえの兄様を!? 貴族であろうと奴隷であろうと、美しい娘がいると聞いたらどこへでも飛んでいく兄様」―――を、思い出したのだ。
きっと、美しい女の人がいると聞いたら、そっちに飛んでいくはず―――!
「そうですか? リイナ姫、ご心配はいりません。この世に貴女より美しいものなどいませんよ。
貴女は天界の女神に等しい―――。もしや、貴女は空からこの地へやってきたのでしょうか……?」
いや――――――っ! と、心の中で私は叫ぶ。
一体、アルヴィン様の思考はどうなっているんだろう。王子でなければ、あまりの変態さに衛兵に捕まっているんじゃないだろうか。
「さあリイナ姫、ここは五月蠅い。二人で、美しき星空を見に行きましょう。
もちろん、幾千の星の輝きも、貴女の前では陰るというものですが」
アルヴィン様はそう言って、私の肩を抱いて歩き出す。
もう、無駄な抵抗をして精神的に疲れるのはやめよう。
「そうですね、アルヴィン様」
私は、もう流れに身を任せることにした。
アルヴィン……いやーっ! と、作者も喚いています。←
うーん、作者はもののけのアシタカとか植物図鑑の樹みたいな男の子が好きなのに、なぜこの作品に出てくる男性キャラは……こうなのでしょうか(苦笑)。
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