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「ご冗談も休み休み言ってくださいませ!」


 「姫、アリスが失礼を。アリスも、場を考えないところがあるのです」


 イル様はそう言って、私に頭を下げる。

 嫌な男だけど、こういうところはちゃんとしているらしい。


 「あ、いえ……。アリス様は、イル様のことがとても好きなのですね 」

 「そうですか? まあ、とても慕ってくれますが… …」


 イル様はそう呟いて、アリス様をちらりと見る。アリス様の頬が赤く染まった。


 「イル様は、アリス様をどう思っていらっしゃるんですか? 」


 私は微笑んでイル様に訪ねる。うまくいけば、私との結婚を無しにしてくれることを祈って。

 でも、イル様の答えは

 

 「アリスは、ダンスも歌も楽器も、学問も出来る子です。

 場を考えない、というところを除けば、誇りに思える妹ですよ」


 というもの。……妹、ではなく女の人、って見てくれないだろうか。


 「ほら、あの、イル様はアリス様を女の方としては見ないのですか?

 アリス様はイル様を凄く好きなようですし……」

 「そうです! イル様、姫様はもっと良い方と結婚しますからイル様はアリス様と!」


 私の横から急にナミが顔を出して、言う。

 

 「わっ、ナミ。びっくりした。でも、そうよね。そうです、イル様」


 思わぬ援護射撃にびっくりしながらも、私は頷く。

 イル様はというと―――なぜか、こめかみに手を当ててため息をついていた。


 「姫、貴女は私の婚約者なのですよ。本意はどうであれ、そんなことを言うのはどんなものかと」

 「そ、そうですけ、ど……」


 反論しようとして、イル様の言っていることが正論であることに気付く。

 反論しようにも、言葉が見つからない。


 「……」


 黙り込んでしまった私を見て、イル様は再びため息をついた。


 「……婚約者に対してため息をつくのもどうかと思いますが」


 む、と思って私がそう言うと、


 「その婚約者を殴ったのはどこのどなたですか? 姫」


 イル様は表情を変えずにそう返す。

 それは……ッ、と言いかけたのを遮ったのは……今度は、ナミではなくアリス様だった。


 「今なんといいましたかっ!? 殴った!? この女狐姫がイルお兄様を殴ったですって!?

 イルお兄様、それは本当ですの!? この女狐姫! 謝りなさい!

 今すぐ床に這いつくばって土下座をし、イルお兄様に心からの謝罪をするのですわ!」


 甲高い声でそう言いながら、私に指を突きつけるアリス様。


 「あ、あの、アリス様……」

 「何をもごもごと言っているのです! 今すぐなさい!」

 「あの……えっと……落ち着いてくださ……」

 「私は落ち着いていますわ! 落ち着いていないのは貴女ではなくて? イルお兄様を殴るだなんて、発狂したとしか思えませんわ! イルお兄様の美しいお顔に、傷がついたらどうするつもりでしたの!?」

 

 あまりのアリス様の迫力に、私は返す言葉が見つからない。

 それを助けたのは―――やはり、イル様だった。


 「アリス。さっきも言っただろう。たくさんの賓客の前だ。

 それに、姫はお前の姉上になる女性だぞ」


 アリス様の口に手を当てて、そう言うイル様。

 はい、とアリス様はしゅんとした。


 「申し訳ありませんでした、イルお兄様……。でも、やはり、私は納得できませんわ!

 この女狐姫がイルお兄様を殴ったなんてっ! イルお兄様、私なら絶対にお顔を殴ったりしませんわ!」


 じいっとイル様を見つめるアリス様。

 私は心の中でひそかに、この二人が上手く行くことを願う。


 「アリス……。言っただろう、この姫は私の婚約者だと。生まれた時から決まっていた許嫁だと。

 お前にも、婚約者がいるだろう。……この宴には来ていないが、確か隣国の……」

 「私はイルお兄様をお慕いしているのですわ!」

 「……あの、アリス様」


 二人の会話を聞きながら、私はおずおずと話しかける。

 さっきから少し疑問に思っていたこと。それは―――、


 「アリス様は、アルヴィン様のことは―――?」


 アリス様が、なぜこんなにもイル様にだけぞっこんなのかということ。

 アルヴィン様も兄……よね?

 でも、私の質問を聞いた途端、アリス様は顔色を変えた。

 イル様と話しているときはピンク色で、天女のようだったのに今はどこからどう見ても鬼女にしか見えない。


 「アルヴィン兄様? まぁ女狐姫、よくもそんなことを私に尋ねますのね。

 私はアルヴィン兄様を慕ったりなどしませんわ! あんな、女たらしの兄様を!? 一日一日女をとっかえひっかえの兄様を!? 貴族であろうと奴隷であろうと、美しい娘がいると聞いたらどこえでも飛んでいく兄様を!? ご冗談も休み休み言ってくださいませ!」


 まるで怒り狂った獣のように、それだけを一息で言ったアリス様。

 それを聞いて、再び思ったこと。


 「……そんなアルヴィン様と、アリス様と、イル様。本当に血の繋がりはあるのかしら……?」


 兄弟だと分かっていても、それを疑うほどの性格の持ち主たちだった。


 











更新が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。

テスト、という地獄に行っていたので……←


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