「貴方にイルお兄様は渡しませんわ。この女狐」
「イル様の、妹君……」
私は、アリス様を見つめる。
やはり、外見は遺伝だ。イル様やアルヴィン様の美形を受け継いでいる。もちろん、女ヴァージョンで。
「私、イル様の婚約者であるルーン王国第一王女、リイナ・リンスレットです。よろしくお願いします」
にこっと笑って、私も挨拶を返す。
イル様の妹君とは言えど、仲よく出来そう。彼女の笑顔を見たときそう思ったのだ。
でも……、
「リイナ様、一言だけ、言わせてくださいませ」
それは、大きな間違えだって気付いた。
「貴方にイルお兄様は渡しませんわ。この女狐」
そんな言葉が、聞こえた。
「……ん?」
私はきょろきょろとあたりを見回す。
誰かが、喧嘩でもしてるのだろうか。でも、そんな様子は見えない。
「何きょろきょろしてるんですの。貴女のことですわ、この狐姫」
でも、やっぱり声は聞こえる。
この鈴を鳴らしたような、可愛らしい声は……。
「あ、アリス、様?」
私はきょとんとして尋ねる。
アリス様は、笑顔のまま。無邪気な笑顔は、とても可愛らしい。でも、さっきのは……。
「アリス様、一体どういう……」
「お言葉の通りですわ、狐姫」
私は狐姫じゃなくてリイナなんだけど……。
私の心の声に気付くはずもなく、アリス様は言う。
「イルお兄様は、私のものですわ。貴女との結婚なんて、私が絶対阻止します」
そういって、びしっと私に人差し指を突きつける。
そう言われて、思わず出た言葉。
「どうぞ、阻止してください」
それを聞いて、アリス様は目を丸くする。
それはそうだ。私はイル様の婚約者なんだから。でも、阻止してほしい。
「リイナ様? なぜ……? 貴女は、お兄様が好きじゃないんですの?」
きょとん、とした表情で、アリス様は私に尋ねる。
“狐姫”ではなく“リイナ様”なのは、動揺のせいだろうか。
「はい。もちろんです。アリス様の兄君ですから、悪く言うのも失礼とは思いますが……。
私には、あの方の魅力が分かりません。どうぞ、私たちの結婚を阻止したいのなら阻止してください。私は、心からそれを願っています!」
私はそういって、アリス様の手をがしっと掴む。
ここで私が頑張って、アリス様とイル様がくっつけば――――!
そんな、期待のこもった目で私はアリス様を見つめる。
「……」
アリス様は呆気にとられた顔で私を見て――――、
「なんですの! それは! お兄様の魅力が分からないっ!?」
そう、悲鳴に近い声を上げた。
アリス様の高い声は、大広間によく響く。人々の視線が一気に私たちに集まった。
「あ、アリス様?」
「リイナ様、貴女、お兄様の魅力が分からないと仰りましたか? よもや私の聞き間違いでは?」
アリス様は人の視線に気づくこともなく、続ける。
「まさか、この世にあの麗しきお兄様の魅力が分からない方がいようとは……!
どんな方も、お兄様に心惹かれずにはいられないというのに! 世も末ですわ!」
「あ、あの、アリス様……」
「アルヴィン兄様のことなら分かりますわ。兄様は娘を毎日毎日変えるような軽い男ですもの。
でも、お兄様は素晴らしい、文武両道で、今まで一度も娘に現を抜かすような方ではないですもの!
なのに、その魅力が分からない? リイナ様、ご冗談もほどほどになさいませ!」
私が口をはさむのを許さず、アリス様はそれを一息で言った。
そして、はーっと大きく息をつく。そして、私を睨んでもう一度口を開いた。しかし、
「リイナ様、貴女が―――」
「アリス」
アリス様の口は、誰かの手によって塞がれた。それは、
「イルお兄様……!」
アリス様の頬が、一瞬で真っ赤になる。
ふらり、と倒れかけたアリス様を、イル様は支え起こした。
「アリス……客人の前だ。皆の視線を一気に集めていたぞ。落ち着け」
イル様は少しため息をついてそう言う。
「はい、申し訳ございません、お兄様……」
素直に謝るアリス様。
今だけは、イル様に感謝。私は、心の底からそう思った。
あああ……アリスのキャラが濃い。
ここは異世界なので、兄弟婚もありです。確か、古代エジプトとかでも兄弟婚はあったみたい……です(?)
そして、更新に約一週間かかってしまった……!
すいません。次は、もう少し早く更新できますように―――!