「shall we donce? リイナ姫」
「姫様!」
ドレスを着替えていたら、ナミがばたばたと入って来た。
私が宴の為のドレスに着替えているのと同じように、ナミもいつもの侍女の服ではなく、貴族階級のドレスを着ていた。
「あの、私、こんな、このドレス! 私はただ、姫様のお世話をすれば、それでいいんですけど……ッ!」
おろおろと、自分の桃色のドレスを触るナミ。
髪型はいつも通りのポニーテールだけど、とても可愛い。
「大丈夫よ、似合ってるから。貴女も、今日くらいは仕事を忘れたら?」
「ひ、姫様! でも、やっぱり私はこういう席は……」
「ユアンと、宴を楽しみなさい」
「はい、姫様!」
「……」
ユアンと楽しみなさい、と言った瞬間の、即答。
ナミらしいけど、素直で良いとは思うけど、少し呆れてしまう。もっとも、ユアンユアンって言ってなきゃ、ナミじゃないけどね。
「姫様は、今日もとても綺麗ですよ。賓客の皆様が、絶対驚きます!」
ナミは、白いドレスの私を見て、にっこりして言う。
「ありがとう。……そういえば、ナミ、あのね、話したいことがあるんだけど……」
「はい? 何ですか?」
きょとんとしたナミに、私はアルヴィン様のことを話した。
味方は、増やしていた方が良い。ナミは思った通り、話を聞くと顔を真っ赤にして怒った。
「なんですか、それは! 確かに姫様は美しいですが、その言い方、アルヴィン様は変態じゃないですか! 姫様に対して、イル様の弟の分際で口説くだなんて!」
「本当に気持ち悪いの。しかもね、イル様が私の事を“立てば芍薬座れば牡丹、動く姿はラフレシア”って言ったんだって」
私のこの言葉に、ナミの怒りはヒートアップする。
「何ですってっ!? イル様……これは、許せません! 私、今からユアンに一番切れ味の良い剣を借りて、それでイル様の首を……ッ!!」
「うんうん、そうそう。そしてそれを100に切り刻んで海に捨ててその海を燃やし尽くして!」
「はい、姫様! では、さっそく剣を借りて来ますね!」
「そうよ、早くいってらっしゃい! ……って、だめだめだめぇっ! 私その気満々だっだけど、そんなことしたらナミが殺されちゃう!」
「いいえ、構いません。姫様の為なら、そしてイル様を殺すためならこの命、喜んで差し出します!」
「ナミ……」
私は涙を滲ませ、ナミの手を握る。
こんなに良い侍女、他にいない。でも、
「……あのな、ナミ、俺は剣を貸さないぞ?」
ふいにドアの方からそんな声がした。声の主は、ユアン。
少し呆れた顔で、私とナミを見てる。
「な、なんでよ、ユアン。姫様のためなのよ? ユアンだって、大切な姫様がこんな目にあってるだなんて、許せないでしょ?」
ナミはそう言いながら、ユアンに向かってずかずか歩く。
「そりゃあ、アルヴィン陛下は気持ち悪いと思うけどさ……ナミ、お前がそれやったら、大問題だから」
何気に、アルヴィン様のことを“気持ち悪い”と言うユアン。
ユアンもユアンで、これがしられたら大問題だ。
「姫様の為なの!」
「だめだ。お前が捕まったら、俺はどうしたら良い? ナミ、なぁ、お願いだ。そんなことやめてくれ。俺は、お前と絶対に離れたくない」
「ユアン……」
「ナミ……」
……って、待ってよ。待って。
なんで、いつの間にか二人の間にラブラブシチュエーションが誕生してるの!!
「……はぁ」
私がピンクオーラに包まれている二人を見てため息をついた時、宴を告げる鐘が鳴った。
******
「あら、あれがルーン王国のリイナ王女?」
「噂通り、美しい」
「ほう……あのように美しい王女がこの世にいるとは」
そんな声が聞こえる中、私は大広間の大階段をゆっくり下りる。
綺麗なカーブの階段は、装飾も細やかでとても美しい。
でも……私は、コケないように、という心配でいっぱいだ。だって、今来ている夜会用のドレスはとても裾が長い。今にも踏みそうだ。
「姫、お手を」
イル様が、階段の一番下で微笑んでいる。もちろん、“演技”だけど。
手を出してエスコートしてくれそうなのも、国民への顔向けの為。
だから、私も『結構です』と断るわけにはいかない。
「ありがとうございます、イルさ――――」
にこ、と微笑んで、手を伸ばす。その時……恐れていたことが起きた。
つまり……ドレスの裾を踏んでしまった。
ぐらり、と大きく傾く身体。
「きゃぁっ!」
ぐるんと視界が回転して、私は前に大きく倒れ込む。
でも……床に転んだ衝撃は、感じなかった。
「……あ」
イル様が、私を抱えている。
状態は、いわゆる“お姫様抱っこ”。周りの人が、ほう……と声を漏らす。
助けてくれたのは、嬉しい。
でも……イル様にお姫様抱っこをされるなんて……嫌! でも、
「あ、ありがとうございます、イル様」
これは言わなければいけない。
イル様はそれを聞くと、にこりともせずに私を下ろした。
「次から、気を付けてください」
そう言う。あら、今回はいらいらすることを言わないんだ。
そんな期待を持った。なのに……、
「貴女は、何度転べば気が済むんですか」
そう、他の人には聞こえないように囁く。
「な……ッ」
顔を真っ赤にして、私はイル様を睨んだ。
イル様は、涼しげな顔。本当に、嫌な男。助けてもらった恩なんて、光の速さで私の頭の中から消えた。
どう返してやろうか悩んでいたところ、
「リイナ姫、兄上、ここにいましたか」
そんな、変態の声がした。
「アルヴィン様。どうも」
にこっと微笑んで、頭を下げる。
顔が引きつっていないか心配だ。
「おお、これはこれは。夜会の時は、また一段と美しい。
貴女が動くと、まるで世界一の宝石に命が吹き込まれたようです」
アルヴィン様は、そう言って私に微笑む。
鳴呼……気持ち悪い!
私は、心の中でそう叫ぶ。でも、アルヴィン様は私の心の叫びに気付くはずも無い。
「ところでリイナ姫、この後ダンスがあるのですが……」
微笑んだまま、そう言い始める。
んん? と悪い予感がした。
そして――――アルヴィン様は、ふわっと私に手を差し出した。
「shall we donce? リイナ姫」
アルヴィン、ああ、書くたびに変態になる……←
……というより、イルとリイナ、もう15話目なのに全然進展がありません……←
そして、この世界での言葉について。
リイナの国、ルーン王国とイルの国、レフシア王国。そしてその近隣国は“日本語”を話します。
「shall we donce」のような英語は、海の向こうの国で使われている……この地球でいう、“英語”です。
リイナ達は日本語を喋っていますが、国の状勢的にはヨーロッパです。
分かりにくくてすいません。
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