「びっくりして固まる姿は、とても可愛くいらっしゃいましたよ」
「よく来て下さった、リイナ殿!」
大広間で、玉座に座ったレフシア国王が豪快な声で言った。
「こちらこそ、お招きいただき光栄です」
私は膝を折って、にこっと微笑む。
国王はがはははと笑った。
「いやいや、やはり美人と名高いリイナ王女の微笑みは、目に良いですなぁ。
イルではなく、わしが惚れてしまう」
「まぁ、そんな……お上手ですね」
私はまだがははと笑っている国王に苦笑する。
イル様のお父様だから、大理石みたいな堅物だと思っていたけど……なんだろう、この、イル様との差は。イル様よりずっとテンションが高くて、明るい人じゃない。
一体どうしたら、この国王陛下からイル様が生まれるんだろう……。それとも、お妃さまがイル様似の方なのかしら。
「父上……御冗談はおやめください。母上がいるのですよ」
イル様はため息交じりにそう言った。
国王陛下と会った途端に、イル様の顔に浮かんだ疲れの色。
「知っとるわい。どうだリイナ殿、わしの妻もかなりの美人だろう」
国王陛下がそう言うのと同時に、お妃様が大広間に入って来た。
イル様と同じ、漆黒の髪。確かに、美人。でも……なぜ、黄色&ピンクの色合いのドレスを来ているんだろう……。漆黒の髪に似合わない。
残念すぎる。
「あら、リイナ様。ルーン王国から、よく来てくれましたね」
「お招き頂き光栄です、お妃様」
お妃さまは私ににっこりと微笑んで、国王の隣にくる。
すっごく美人。美人の微笑みは、凄く綺麗。とても綺麗、なんだけど……。やっぱり、一番気になるのは……。
黄色&ピンク、黄色&ピンク、黄色&ピンク、黄色&ピンク、黄色&ピンク…………。
「今宵は、歓迎の宴と致しましょう。リイナ様は、イルの婚約者ですものね。
リイナ様、何かお好きな食べ物はありますか? 出来るだけ用意させますが」
「バナナ&ストロ……あっ、いえ、別に何もございません。何でも好きです」
“バナナ&ストロベリー”と言いそうになった私は、慌てて言いかえる。危ない危ない。
「そうですか? では、こちらの侍女がお部屋まで案内致します。
リイナ様の侍女の方……ナミさん? ナミさんにも、お部屋をご用意しています。
ここではナミさんも大切なお客様、ごゆるりとおくつろぎください」
お妃様がそう言うと、二人の侍女が入って来た。
「リイナ様、ナミ様、案内致します」
「え、あの、私は姫様のお世話を……」
ナミがおろおろと私を見る。
「いいえ。ナミさんもお客様です。この城ではどうか、おくつろぎくださいませ」
お妃様はにこにこしてそう言っている。
そんなにもにこにこしてると、反対に怖い。
「ナミ、ここでは貴女もくつろぎなさい。ただ……時々、話し相手になってね」
私のその言葉に、ナミは『はい……』と頷いた。しぶしぶに見えたけど……私は、見逃さなかった。
侍女に『騎士のユアンと同じ部屋にしてもらえないでしょうか?』と言うのを。
********
「わあ、綺麗なお部屋ですね……」
侍女に案内された部屋は、清潔感のある上品な部屋だった。
寝ることが好きな私にとっては、人が三人は寝れるであろう大きなベッドが嬉しい。
「リイナ王女様は、イル様の大切な許婚ですもの。私達侍女一同、心こめてお部屋を整えさせていただきましたわ」
にこにこと、花でも飛びそうな勢いで言う侍女。
この人は、私とイル様の間の険悪なムードを知らないから言えるんだろう。
「そうですか……。ありがとうございます」
引き攣った笑みを浮かべて、私は礼を言う。
「では、私はここで失礼させて頂きますね。何か御用の際は、なんなりと私にお申し付けください」
侍女はそう言って、部屋を出て行った。
なんなんだろう……この、ピンクオーラの濃さは。
私はため息をついて、大きなベッドに寝っ転がる。その時、
「リイナ・レンスリット様? 入っても良いですか?」
という、男の声がした。
イル様の声では無い。第一、イル様なら無断で入ってくるだろう。
『貴女は王女なのにベッドにだらしなく寝転がるなんて……』とかなんとか言いながら。
「は、はい、どうぞ」
私は慌ててベッドから起き上がると、少し皺のついたドレスを伸ばす。
ドアが開いて、入って来たのは……、
「お初にお目にかかります、リイナ姫」
金髪……というより、クリーム色? っぽい髪の毛で、黄緑の瞳の青年。
長身なわりには華奢な体つき。でも……イル様とは違って、優男って感じだ。
「どなた、ですか?」
私の問いに、青年はこつこつと歩いてくる。
そして、私の手を取ってキスしてから言った。
「レフシア王国第二王子、アルヴィン・アヴィンセルです。以後、お見知り置きを」
……イル様には、弟がいたのか。
最初の感想はそれだった。次に、変な名前だなぁと失礼なことを思う。イル様より、“王子”っぽい外見だなぁとも思う。そして――――、
「い、今、キスしました?」
アルヴィン様の手にある自分の手を見つめて、私は訊ねる。
「ええ。こんなもの、挨拶でしょう?」
アルヴィン様はにっこりと微笑んで答える。
微笑んでいるのに……どこか、下町で娘をナンパしているような雰因気を感じる。
「もしや、リイナ姫はあまりなれてはいませんでしたか? これは、とんだご無礼を。
しかし……びっくりして固まる姿は、とても可愛くいらっしゃいましたよ」
アルヴィン様はそう笑って、私の頬を撫でる。ぞわっと背筋に寒気が走った。
ここは……この家族は、どうなってるの――――――――――――!!
新キャラ、第二王子のアルヴィン登場です。
彼は十七歳。最初は「アル」の予定だったんですが……やめました。
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