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「私は“婚約者”として姫を助けただけだ。好意など欠片もない」


 「イル様……」

 

 まさか、こんなに“婚約者”らしいことをしてくれるなんて……。

 一瞬、そう思った。でも、

 

 「嫌いだとしても? イル様、それは今必要ないんじゃないですか?」


 イル様の言った“嫌い”という単語が引っかかる。イル様が私を嫌いだってことはもちろん知ってるけど、今言わなくても良いじゃない。

 傍目から見たら、完璧な名シーンなのに。


 「私は嘘をつく男ではないので。助けたので別に良いでしょう?」

 「た、助けてもらえたのはありがたい……ですけど! でも、ここはやっぱり名シーンにしなければ皆の期待が……ッ!」

 「誰が期待しているのですか。ここには私と貴女とこの刺客しかいないのですよ」

 「そ、そうですけど……」

 

 刺客は、そんなやりとりをしている私とイル様をぽかんと見つめる。

 

 「あんたら……あれなのか、喧嘩するほど仲が良いっていう……そうだ、痴話喧嘩!!」

 「……はい?」

 

 なんで急に“痴話喧嘩”って言ったのか、というより、どうしてその結論に至ったのか分からない。 

 でも、一つだけ分かったこと。

 私とイル様の考えが、初めて一致したってこと。この刺客に対して。


 「……お前には首謀者を聞こうと思って生かしておくつもりだったが……」


 イル様は目を肉食獣のように光らせ、剣を振る。刺客の刀が、いとも簡単に吹っ飛んだ。

 刺客の首元に、剣の刃が当てられる。


 「私と姫の間のことを“仲が良い”というとは……なんたる侮辱。死罪だ」

 「……は!? なんで!? ちょ、王子サマ!?」


 イル様の言葉に、刺客は慌てる。

 

 「だって、あんたら婚約者だろ!? そこの王女サマがさっき王子サマのことを“嫌いだ”って言ってたけど、やっぱあれ違うだろ? 俺、なんかおかしいこと言ったか!?」

 

 おろおろと言う刺客。

 だめ……それ以上言ったら、私がキレる。


 「ねぇ……どこを、どう見たら、私達が仲良く見えるの?

 イル様と仲良いように見られるなんて、こんな侮辱は無いわ! 私は、こんな最低な人とは仲良くならないの! 貴方は目がおかしいの? それとも頭?」

 「は!? ちょっと、王女サマ!?」


 ゆらり、と私は刺客に近づく。


 「姫、こいつをどうしましょうか。先程“死罪”と言いましたが……それでは、足りぬ気がします」


 イル様が私に訊ねる。私も、死罪じゃ足りないと思う。


 「イル様は、どうしたいとお思いですか? 私は、こんなに不快にさせられたのでこの刺客にも同じような思いをさせたいと思うのですが」

 「それは名案ですね。では、死よりも惨いものを教えてやりましょう」


 イル様はふっと笑って頷く。

 その時、扉が開いてナミが入って来た。


 「姫様、お茶をお持ちしました……って、えぇぇっ!? イル様!? どうしてここに!? 姫様のせっかくのイル様といないお時間を……じゃない、姫様の一人のお時間を邪魔するおつもりですか!?」

 

 ナミは首元に刃を当てられている刺客に気付かないようだ。

 というより、イル様がいるってことでいっぱいいっぱいなのかもしれないけど。


 「姫様、イル様は何の御用が……って、この男性はどなたですか!?」

 

 私の傍まで来て、やっと刺客の存在に気付く。

 

 「刺客だ。私が姫を助けたが、何か文句が?」

 

 イル様がナミを軽く睨んで言う。

 ナミは刺客とイル様、そして私を順番に見つめる。そして、


 「い、イル様が姫様を助けた!? 信じられません!」

 

 そう叫んだ。イル様は、は? と聞き返す。


 「だから、イル様が姫様を助けたなんて信じられません! イル様が、そんな良いことを行う……いえ、違います、あの、だから……とにかく信じられません!」


 途中、とてつもなく失礼な事を言いかけたナミ。

 私はため息をついて言う。


 「ナミ……。信じられない気持は分かるけど、本当にイル様が助けてくれたのよ。今回ばかりは、お礼を言わなきゃならないわ」


 私の言葉に、ナミもやっと納得したようだ。


 「姫様が言うなら……イル様、このたびは姫様を助けて頂き、ありがとうございます」


 そう言って、イル様に頭を下げる。

 

 「私は“婚約者”として、姫を助けただけだ。決して、姫に好意を抱いたわけではない。

 好意など、欠片もない。それを忘れないでくれ」


 イル様はナミにそう言うと、部屋を出て行った。

 刺客は、いつの間にか縄で縛られている。


 「助けて頂いたのはとてもありがたいですが……やはり、失礼ですね!!

 好意など欠片もないだなんて、失礼にもほどがあります」


 ナミはイル様の出て行ったドアを睨みつけながら言う。


 「……ねぇ、ナミ」


 私は縛られている刺客を見つめて呟いた。


 「私ね、この刺客に凄く侮辱されたの。イル様と“仲が良い”って。

 こんなこと言われたなんて、耐えられない。不快で不快でしょうがないの。だから……ナミ、貴女の思いつく限りの方法で、この刺客を死よりも惨いことにしてあげてくれないかしら」

 「姫様とイル様が“仲が良い”と言った? 信じられないくらい失礼なことですね。

 分かりました。私に、お任せ下さい」


 ナミはそう言って、にやっと笑った。

 それは、私にとっては天使の微笑み、刺客にとっては悪魔の微笑みだった。















今回は、けっこう早めに更新出来ました!


次は、とうとうレフシア王国の王城に到着……予定です。



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