第15章 ~誰が足跡を残したのか~
霧は消えたが、疑問は残った。
翌朝、太陽は清らかに昇った。塔の中庭は夜露に輝き、リンゴの樹は何もなかったかのように果実を揺らしていた。けれど中庭に出ると、レナはすでに起きていて、門のそばに膝をつき、地面を調べていた。
「もっと足跡か?」と俺。
「違う。逆」
「逆って?」
彼女は入口近くの土を指さした。痕跡があった——ブーツの跡ではなく、何かが引きずられた痕。森へ向かって、細い溝を土に残している。
「誰かが自分の痕跡を消そうとした」とレナ。「でも、急いでた。枝か布を引きずって古い足跡を覆った」
「なら、誰であれ、俺たちが知ってるって知ってる」
「そう」
「そして、もっと上手く隠れようとしている」
「あるいは、何かを準備している」
彼女の隣に膝をつく。土の溝は浅いが、はっきりしていた。東へと続いている——ヴァルゲルの方角、しかし追跡者が目撃された方角でもある。
「追うべきか?」と俺。
「いいえ」
「なぜ?」
「自分の痕跡を隠したいなら、追われたくないから。そして追われたくない者はたいてい逃げている。あるいは罠に誘い込もうとしている」レナは立ち上がった。「どっちにしても、追うのは最悪の選択」
「なら、どうする?」
「待つ。塔を強化する。次にミリが来たら、もっと情報を求める」
「待つのは得意じゃない」
「気づいてた」
もう一度、溝を見る。その中に何かがあった——土に引っかかった、ごく小さな欠片。二本の指で摘まむ。糸だった。青い布の糸。ほとんど見えず、爪ほどの大きさ。
「これ見ろ」とレナに見せた。
彼女は糸を手に取り、匂いを嗅いだ。
「羊毛じゃない。染めた麻。インディゴブルー」
「それは何か意味があるのか?」
「追跡者の服じゃない。追跡者は生革を使う。染色なし。インディゴブルーは高い」
「なら、誰であれ、金がある。あるいは良い仕入れ先がいる」
「それか、追跡者と間違われたくない誰か」
糸をポケットにしまった。
「中に入ろう。温室を確認しなきゃ。それと、お前は……」
「西の亀裂の防柵を補強する。まだ脆い」
「一人でやらなくていい」
「あなたには植物がある。私には防柵の経験がある。それぞれの才能で」
「俺の才能はカブに水をやることか?」
「当面は」
笑った。レナは笑わなかったが、尾は揺れた。
午前中を温室で過ごした。カブの芽は速く育っていた——塔はマナ入りの水の効果だと言う。タマネギはもう長くて香ばしい葉をつけていた。そしてヒカリグサは……
謎の小さな植物は変わっていた。
元の二枚の葉が四枚に開いていた。そして中央に、小さな蕾が形成されはじめている——内側から照らされた露の滴のように、自らの光で輝く小さな球。
記録が現れた。
『塔の記録』
光り草の成長段階が進行しました
花芽形成の兆候あり
開花時の効果は不明です
注意:開花時にマナの放出が予想されます
「お前、花を咲かせるんだな」と、鉢の前に膝をついて言った。「そして塔は、開花したら何が起きるかまったくわかってない」
植物は応えて輝いた。
「よし。俺は光る植物と話している。しかも開花したらマナで爆発するかもしれない。これはまったくもって正常だ」
植物は答えなかった。良かった。
午後のはじめ、門が軺んだ。
開く軺みじゃない——何かが石に触れた軺みだ。レナと俺は同時に中庭へ出た。彼女は短剣を手に、耳を門に押しつけている。
「誰か外にいる」と彼女は呟いた。
「追跡者?」
「わからない。でも叩いてない」
「何をしてる?」
「待ってる」
待つことは良いことか悪いことか。商人なら叩く。追跡者ならこじ開けようとする。ただ待つ誰かは……謎だった。
記録が灯った。
『塔の記録』
外部訪問者を検出
種族:不明(人型)
意図:不明
武器:未検出(または隠蔽中)
状態:負傷の可能性あり
「塔は、その人が怪我してるかもしれないと言ってる」と俺。
「あるいは偽装」とレナ。
「開けたいか?」
「いいえ」
「でも開ける?」
「あなた、どっちにしても開ける」
「俺のことをよくわかってるな」
レナはため息をついた。
「少しだけ開けて。脅威なら私が攻撃する。そうじゃなければ……」
「そうじゃなければ、水をやる」
門を少しだけ開けた。
外には、女がいた。
ミリじゃない。追跡者でもない。見たことのない誰か——背が高く、痩せていて、短く切った黒い髪、そして埃まみれのインディゴブルーの外套。右手には明るい色の木の杖。左手には……何もない。左腕は胸に折り曲げられ、血に染まっていた。
彼女の目は緑だった。とても緑。新葉みたいに。
「ようやく」と彼女は疲れで掠れた声で言った。「誰も開けないかと思った」
「誰だ?」とレナが短剣を構えたまま訊いた。
「私の名は……」彼女は、名前が使いたくない硬貨ででもあるかのように躊躇った。「……アルテア。放浪の治療師です。追跡者から逃げていました」
「追跡者?」と俺は繰り返した。
「はい。三人。東の小川の近くで追い詰められました。逃げ切れましたが……」彼女は自分の腕を見た。「……無傷では」
レナが空気の匂いを嗅いだ。
「血の匂いがする。新鮮な血。嘘じゃない」
「確認ありがとう」とアルテアは疲れた皮肉を込めて言った。「さて、図々しくならなければ、入っても? それともこの敷居で血を流すべき?」
レナを見た。レナは俺を見返した。耳は低かった——不信。敵意じゃない。
「一時的だ」と俺。
「明日まで」とレナが付け足した。
「その後で決める」
門を開けた。
アルテアは塔の中へ一歩踏み出し——よろめいた。倒れる前に支えた。近くで見ると、血の匂いはもっと強かった。腕の傷は醜いが、きれいだった——鋭い刃でつけられたかのように。
「あなたたちは……管理者?」と彼女は塔の壁を見ながら訊いた。
「彼がそう」とレナ。「私は居住者」
「居住者のいる塔」アルテアは微笑んだ。緑の目が輝いている。「それは珍しい」
「塔について何か知っているのか?」と俺。
「ほとんどは死んでいること。生きた塔は危険だということ。でも、ここは……」彼女はリンゴの樹を、泉を、壁の青い脈を見た。「……ここは違うみたい」
「怪我人のわりに喋りすぎ」とレナは指摘した。
「喋ると痛みから気が逸れるの。治療師の小技よ」
アルテアを厨房へ連れて行った。腰掛けに座らせ、レナが水と清潔な布を持ってくるあいだ、待たせる。傷は深かったが、致命的なものは傷つけていなかった。アルテアは自分で手当てを導き、正確な指示を出した——「ここを押して」「そんなに強く」「今度は上に巻いて」。
「本当に治療師なんだな」と俺。
「疑ってたの?」
「ここではすべて、逆が証明されるまで疑わしい」
「賢明ね」彼女はあたりを見回し、厨房を吟味した。「生きた塔、機能する厨房、そして匂いからすると……パン?」
「不細工なパンよ」とレナ。
「パンはパン」とアルテアは答えた。
水と、昨日の残りの無発酵パンを差し出した。彼女は、飢えに慣れているが見せたくない者の抑えた貪欲さで食べた。
「追跡者から逃げていたと言ったな」と俺。「なぜ?」
「私が怪しいと思ったから」
「何が怪しい?」
「知るべきでないことを知っていること」彼女は俺の目を見た。「この塔についてのこと」
沈黙が重くのしかかった。
「どんなこと?」とレナが鋭い声で訊いた。
アルテアはパンを台に置いた。
「私は放浪の治療師。氏族や街のあいだを旅してる。三ヶ月前、灰色狼氏族の男性を治療した。怪我をしていたけど、肉体的じゃなかった。彼は……怯えていた。逃亡者について話していた」
レナは強張った。
「続けて」と彼女。
「彼はレナという名前を口にした。彼女は東へ、死の塔の方角へ逃げたと言った。追跡者が彼女を追っているが、彼女は奴らが考えるより賢いと」アルテアは間を置いた。「それから彼は死んだ。傷のせいじゃない。内側から彼を蝕んでいた何かのせい」
「何の?」と俺。
「恐怖」
レナは黙り込んだ。表情は石のようだったが、尾は動かない——最大の緊張のサイン。
「なぜここに来た?」と彼女は訊いた。
「追跡者が、私が知っていることに気づいたから」とアルテアは答えた。「私が共犯だと思った。森まで追ってきた。庇護を見つけなければ死ぬところだった。そして……塔を見つけた」
「どうやって?」
「匂いを感じた。死んだ石の匂い。でも、もっと何かも感じた。生きている何か」彼女は俺を見た。「あなたたちは塔を修復している」
「試みてる」
「それは注目を引く」
「もう気づいてる」
アルテアはパンを食べ終え、残りの水を飲んだ。
「長くは留まらない。癒えたら出ていく。これ以上問題を持ち込みたくない」
「それは問題にならない」と俺。「ここでは問題は頻繁だ」
「それは留まれという誘い?」
「回復しろという誘いだ。その後で決める」
彼女は微笑んだ——疲れた、でも本物の笑み。
「あなたたち、変わり者ね」
「前に聞いたことがある」とレナを見ながら言った。
「本当だから」とレナ。でも、その声には何かがあった。敵意ではない何か。
好奇心だった。
記録がアルテアの上に灯った。
『塔の記録』
訪問者を検出:アルテア(仮称)
状態:負傷/疲労/低マナ
推奨:一時的な滞在許可/医療支援
「塔が一時許可と医療を推奨してる」と訳した。
「塔が推奨?」アルテアは片眉を上げた。「それ、普通なの?」
「いいや。でも珍しくもない」
「興味深い」彼女は自分の額に触れた。何かを感じるかのように。「塔が私をスキャンしてる。痺れを感じる」
「正常だ。みんなにやる」
「それで、塔は何を見つけた?」
記録を見る。
「『低マナ』。消耗してる」
「追跡者から逃げながら自分に治癒魔法を使うと、マナがすぐに枯渇するの」彼女はため息をついた。「休息が必要」
第三の部屋を譲った——居住区が解放されてからずっと空だった部屋。アルテアは杖にもたれてゆっくり入り、石の寝台に腰掛けた。狭い窓を、外で輝くリンゴの樹を見た。
「良い場所ね」と彼女は呟いた。
「改装中だ」と俺。
「それでも」
彼女を休ませた。厨房に戻ると、レナは調理台にもたれ、腕を組んでいた。
「彼女は知ってる」とレナ。
「ああ」
「氏族についてのことを。私についてのことを」
「訊きたいか?」
「わからない。一部は知りたい。逃げた後に何があったか。もう一部は……」
「もう一部は?」
「もう一部は答えが怖い」
テーブルに座った。
「今、訊かなくていい。彼女はしばらくいる」
「彼女を信じてるの?」
「怪我していて、塔がスキャンしたことは信じてる。当面はそれで十分」
「多くはない」
「あるものだ」
レナはしばし黙った。それから、俺の前に座った。
「彼女の名前……アルテア。古い方言で『治療師』を意味する」
「その名前を知ってるのか?」
「語源を知ってる。エルフに多い名前」
「エルフ?」
「あるいは半エルフ。確信はない。彼女の匂いは……違う」
「どう違う?」
「人間。でも何かがもっとある。何か古いもの」
寝室へ続く廊下を見た。
「それは何か変えるか?」
「いいえ。ただ疑問を増やすだけ」
夜が落ちた。最後の石豆と一掴みの新鮮な玉葱——温室で収穫した緑の葉——でスープを作った。アルテアは部屋から出なかったが、レナが彼女に一杯運んだ。
レナが戻ったとき、表情は違っていた。もっと軽い、たぶん。
「何だ?」と俺。
「彼女、私に感謝した」
「それは良いことか?」
「……変なの。長いこと、誰も私に何も感謝しなかった」
「俺は昨日お前に感謝した」
「あなたは違う」
「どう違う?」
彼女は躊躇った。
「あなたは、普通のことみたいに感謝する。私が当然それを受けるべきみたいに」
「当然だ」
レナは答えなかった。でも耳が一センチ上がった。
そしてその夜、俺が眠りにつくとき、塔には三人の居住者がいた——一人の管理者、一人の居住者、そして一人の謎の治療師。
それは始まりだった。




