Bar
クロロは文字通り路頭に迷っていた。かつての戦地での輝かしい過去を振り返るたび、今の自分の惨めさが際立ち無性に腹が立った。彼は数枚のコインをジャラジャラと手の中で転がしながら、ただ歩いていた。すると、彼の前に初めてみるバーが現れた。
「こんなバー、あったかな。」
ピンクやらグリーンやらブルーやらの頭が痛くなるネオンを光らせ、扉の上にはデカデカと『RUSHMORE』の文字が表示されている。
「ラッシュモア、か。頭が痛くなるが、まあ初めて見るところだ。のぞいてみようか。」
現実逃避に酒を呑みたかったクロロは、そのバーに興味を持ち、入店した。
中は外のネオンよりもずっとうるさかった。広い店内のいたるところでほぼ裸の女たちがポールダンスを披露している。客たちはそれを見て馬鹿みたいに酒を浴びている。クロロは元来、このような場所は嫌いだし苦手だ。しかし一度入ってしまったのでそのまま出るわけにもいかない。クロロは比較的静かそうな真ん中のバーテンダーの前のカウンターに腰掛けた。
「ナイトウォッチャー、一つ。」
ナイトウォッチャーは星系で最も人気なカクテルである。真っ黒な見た目のドリンクに小さな果実を一つ乗せる。今のクロロの気持ちを体現したかのようなカクテルだ。
「あんた、初めてみる顔だな。」
立派なヒゲを蓄えた人間のバーテンダーが聞いてきた。あえて人間、と言ったのにも理由がある。この広い宇宙には人間以外の知覚種族も数多いる。ほとんどが二足歩行で人間と近しい見た目をしているが、そうでないものもいるし、姿形がまったく違うしなんの機能があるのかよくわからない触覚を持つ種族だっている。つまりは、なんでもありなのが宇宙というものである。
「ああ。そうだ。」
クロロは少しぶっきらぼうに短く答えた。
「この広い宇宙でニンゲンに会えるだけでも珍しいもんだ。あんたはこの汚い星でなにをしてるんだ?」
クロロが聞かれたくないことをいきなり聞かれた。
「なにも。俺は元傭兵なんだ。いきなり仕事がなくなって商人になろうとここへ来たが、この有様だ。」
そう言いながらクロロは腕を広げて自分の汚れた真っ黒の服を見せた。しかしバーテンダーは服装には目もくれず、こう言った。
「そうか、元傭兵か。おまえさんみたいなやつはここにも沢山いる。みんな急に路頭に迷ったもんで大変だなぁ。戦争が終わるってのは嬉しいことだが、あんたら元傭兵見てたら複雑な気持ちになるなあ。」
バーテンダーはコップを丁寧に拭きながら同情の顔をした。すると、その話を横から聞いていた、大柄で肌が黄緑で目が触覚の先についているどこかしらの星の種族の男がクロロに聞いてきた。
「あんた、元傭兵か。それなら面白え話があるぞ。あそこに1人で座ってる男がいるだろ。あんたと同じ種族の。あいつに金が欲しいって言ってみな。あんたに悪くない話が聞けるぜ。」
男は店の一番奥の薄暗いボックス席を指差しながら、うっすら怪しい笑みを浮かべて言った。クロロは怪しみながら、
「面白い話ってのはなんだ。」
と男に聞いた。しかし男は、
「それはあいつに教えてもらいな。」
と言って答えなかった。クロロはやはり怪しんだが、金が底をつきそうな中で躊躇っていられないと思い席を立った。




