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この上の世も雨が降る。4コマ目

 その後、外の光をじっと見つめながらいくらか悩んだ末、私はそっと部屋の戸を開けに行ってみた。とにかく寒い。

 「寒い。もう起きてるのかな。」

 廊下の奥に目をやると空気の色が少し濁っているのが分かった。足元には昨晩なかった彼のと同じようなタイプと見受けられる上着があった。(畳んであるから生地の感じとかしかわかんないけど。)

 「これ着て良いのかな。寒いしなぁ。」


 ばたん。

 突然の音に凍りついた空気の中、力いっぱい体に力をいれて固まる。誰の気配もなかったのに、多分彼が外に出ていった音だ。外で足音もするし。

 気づくと私は部屋の前のローブを羽織って、小屋の戸の外まで来ていた。彼の影はとても小さくなっていたが、追いかけることにした。この世界の雨上がりと朝はすさまじく冷たい。吐き出した息も真っ白で地面に落ちていくように流れた。


 草原は少し濡れていて、空気には水が溶け残って白く濁っていた。吸う息は冷たく、吐く息は惜しい。


 彼は私より上背があって、足も長いからだろう歩くのが速い。しばらく追うと、あの白い霧の海が見えてきた。彼は迷わず進んでいって、あと数歩でそこに入ってしまうようだ。


 え?

 今足が霧に沈んで。

 なんだか見ている側なのに息がちょっと荒くなる。ちょっと急いできたからすでに息上がってるけど、空気も冷たいし。

 彼はもう膝のところまではその濃い霧に踏み入っていた。私を待つこともなくすんすんと潜っていき、最後には腰をおろして頭を下げながらくぐるようにして姿を消した。

 「これって私も触って良いのかな。ていうかこの下ってどうなってるんだろ。」

 ふぅぅ…。

 深呼吸して気持ちを整える。空は正直暗雲なので見上げても良いことはないから、目の前の不思議な霧のにぎやかな波を見つめてみる。いきます。


 私はついにその霧の中に一息に、自らの芝生に濡れ始めていた寒さなどに震える右足を踏み入れた。目を強くつぶって、歯を食いしばって、心のなかでは進退どちらも強い力でぶつかりあってギシギシしている。

 「ぎゃ!」

 思ったより霧に隠れていた丘の一部が傾斜していた。前にバランスを崩し体が倒れそうになって、今もうすぐ倒れる。手をつきたいが、まだ目の前の不思議な霧に恐怖が抑えられずうまく体が動かない。

 「ちょっと待って!うわ、落ちる!」

 どすん。

 地面は見えてなかったがギリギリのところで手をついたけど、前に倒れたときの勢いが収まらなくてこれは!

 ごろん。

 体を前に一回転、転がって私は芝生に手とおしりをついて起き上がった。頭までさっきの霧の堺の下だ。なんとか目を見開いてみる。いや、もしかしたら目に入ったらまずいのかな…。

 私が見た光景はその心配を裏切った。目に入るもの全てが新しくて、鮮やかで、予想外で、怖くて、不思議だった。

 澄んだ景色だった。霧が充満しているわけではなく、あの丘との水平の境界になっているだけみたいだ。だから、私の目の前の奥の方に見える壮観はさらに印象的だったろう。


 「大きい。橋?」

 えっと、説明するとさっきまでの丘はとんでもなく大きな山だったみたいでここからずっと下に続いている。そしてとにかく一番目を引くのは橋だ。こんなに澄んだ視界なのに一番奥は目を凝らしても全く、見えない。

 いくらかぼーっとして、ちょっとふんわりした気分になりながら、橋を渡ることにした。

 「なんで、あの霧を通り抜けられたんだろう。」

 もとから通れたのかな、じゃああの人嘘ついたってこと?私のこと閉じ込めようとして?時間帯の問題?私は特別だったのかな、やっぱ変な世界にも連れてこられてるし。


 橋は重厚なレンガ造りだ。足元のタイルにも渦のような、角張った調子の模様があしらわれている。遠目には魚の骨がうまく抜き出せたように、見上げる木造の柱が無数に続いている。とにかく大きく広い橋だ。

 どうしてこんなものがつくれようか。頭では人工物とわかっているけど、人気ひとけのない橋は、”人には作れない人の理想”であり、夢のような雰囲気を醸している。

 「お腹すいたな。この世界って何食べてんだろ。あの人朝ごはん食べたあとあったっけ。え、なかったよね。」

 あったかいのがほしいよ。おばあちゃん家だったらストーブもあったろうに、さむ。


 私はそんなことを考えながら歩みを進め、また思い返す。

 いま夏か。


 「ちょっと待てよ、私このまま進んで良いのかな。それどころかこれどうやって帰るの。一応これって転生じゃないよね。生まれ変わりとか、ここで暮らせそうにないし…。」

 そもそもこの軽装で、上着はもらいもので、異界を探検するのって大丈夫なのか、なんか危険な…。


 「私って、あの人以外で生き物見たっけ。なんか誰も何もいなくない?」

 静かすぎるといえばそうだ。今朝は雨も降っていないのだから私の足音くらいしか…。

 私の鼓動と呼吸する音が一気に大きく感じられる。朝霧に冷えた頭で混乱の霧を晴らすとそこは。


 「きり!?」

 さっきまで澄んでた辺りの様子がおかしい。あのときの海のような白い霧が上からゆっくりと降ってくるように濃くなってきた。

 振り返ると、奥の方が霧で覆われた全く同じ景色が続いていた。

 「え?まだそんな歩いてないんじゃ。」

 この世界で曖昧になりつつあった、生死の狭間を覗く恐怖。感情にならないもの。頭の中では生き抜く方法を見つけるため、持ち得る全てを振って神経を駆け巡る強力な電流。

 その全ての刺激を吸い込んで、頭という立体の中心に集中していくが、思い返すとそれは質量を持たない。

 もはや関係ないかもしれないが、どちらから来たのかさえわからず私は駆け出した。


なんだかこれは、緊張が続きますね。もしかしたらどこかへ連れて行かれるんじゃ…。彼(彼女?)(ごめん名前決めてなかった)の話した世界の構造をそろそろ決着させないと物語がうまくかけないので頑張ります。

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