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第8話 農家、貴族になるってよ!? 王女との結婚と畑の両立問題

 翌朝。目を覚ました俺は、まだ昨夜の話が夢だったんじゃないかと願っていた。


 だが現実は、俺の寝床の枕元に置かれていた一通の手紙によって、否応なく現実に引き戻された。


《王国貴族評議会より通達。農業公爵ユウト殿の爵位認定式並びに、王女クラリス殿下との婚約に関する事前面談を、今週末に執り行う》


「やっぱりマジだったーーーーーー!!」


 俺の叫びは、王都の朝焼けにむなしく吸い込まれていった。



「ユウト様、顔色が悪いですわよ?」


「だって俺、貴族とか無理だし! 王女の婚約者なんてもっと無理だし!」


 農園の休憩所。クラリスは紅茶を優雅に飲んでいる。なんだこの貴族然とした余裕は。


「でも、嫌では……ないのでしょう?」


 クラリスが、少しだけ頬を赤らめる。俺はむせた。


「ご、ごほっ! いや、そりゃクラリスは……その、いい子だし……でも!」


「“でも”?」


「畑のことが手一杯で、誰かの旦那様になる自信がないっていうか……! 貴族なんて、会議とか人間関係とか……絶対、野菜より手間かかるって!」


「まぁ……野菜に負けましたわ」


 あ、ちょっとしょんぼりしてる。かわいい……ああもう、どうしてこうなんだ俺は!



 その数日後。俺は仕方なく、王都の貴族屋敷で開かれた“農業貴族就任レセプション”に出席していた。


 緊張して胃が、耕す前の荒れ地のように荒れている。クラリスは隣でにこやかに笑っていた……そこに、アイツが現れた!


「見よ、この《俺の思い濃縮じゃがいも(マイハート・ファイヤーポテト)》を!そこの凡庸な男の作物とは一線を画しているッ!」


 そう豪語したのは、自称元婚約者エルヴィン・フォン・ガルネリ。


 奴は“貴族農園”をさらに展開し、育てたじゃがいもを持って、レセプションに乗り込んできたのだ。


 そして言い出した。


「皆様!王都農業品評会が近いのはご存知だろう? 今年は“王国認定品種”の選定を兼ねた、重要な場だ。ここで王女の婚約者の座を掛けて、どちらの作物が優れているか――決着をつけようではないか!」


「また、公式イベントで決着つけるの!? 目立つの好きだな、お前!」


「公平な審査。審査員は王立料理ギルド、王宮医師団、そして庶民代表。まさに味と栄養と大衆性の公平な勝負だ!」


「それっぽく言ってるが、勝手過ぎる、そしてドヤ顔が腹立つ……!」



 そして、迎えた王都農業品評会当日。


「エントリーナンバー七番! 勇者農園所属、クラリス・フォン・ルミエール王女の《黄金の雫じゃがいも》!」


 俺が育てたじゃがいもは、淡い黄金色の皮を持ち、蒸しても揚げてもほのかな甘みが広がる、極めて珍しい品種だ。


 料理ギルド代表が一口食べるや否や、目を見開いた。


「……これは……ホクホクで、まるで栗のような甘味……!」


 王宮医師は言う。


「炭水化物とミネラルのバランスが非常に優れている。食養としても極めて優秀」


 そして庶民代表の少年が叫ぶ。


「うまいっ! これは、ポテトにしたら最高だよ!」


 続いてエルヴィンのターン。


「我がじゃがいも、《俺の思い濃縮じゃがいも(マイハート・ファイヤーポテト》! 食べれば私の、焼けるような情熱を知るであろう!!」


 ……だが。


「っ!? か、辛っ!? なにこれ、じゃがいもなのに……スパイス爆弾!?」


「な、なんだこれは!? 新種の唐辛子なのか、本当に、じゃがいもなのか!?」


「か、辛い……」


 料理ギルド代表は困惑し、王宮医師は首をかしげ、庶民代表は涙目になっていた。


 結果、勝者は――


「優勝は、勇者農園所属、クラリス・フォン・ルミエール王女の《黄金の雫じゃがいも》に軍配!」


「ぐぬぬ……! 貴族の面目が……!」


 俺は思わず言った。


「……お前、どう品種改良したら、辛いじゃがいもが作れるんだよ?逆に天才か?」



 こうして勝敗は決し、観客の拍手と歓声の中、クラリスが俺の横に歩み寄ってきた。


「ユウト様……勝ちましたわね!」


「ありがと、クラリス……毎回出てくれて助かるよ!」


 エルヴィンはふてくされながらも、じゃがいもを握りしめて言った。


「覚えていろ……次はトマトで勝負だ……!」


「もう来年のイベントの話してるー!?」


――次回! 「王都に現る、新たなる魔族“害虫王”! 作物を食い荒らす、最凶の天敵!」


 恋と畑のトライアングルを超え、今度は虫との全面戦争!? ユウト、ついに禁断の“精霊農薬”と向き合う!?

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