第4話 魔族の種と、畑の決戦! 野菜で王国を救えるか?
「——確認します。対象は《黒種子》と呼ばれる、魔族領から飛来した呪われし種子」
「王都南東、フォルセの村にて自生・増殖を確認。成長速度は異常に早く、既に周辺一帯の植物を駆逐。魔力を吸い、怪物化する危険性ありと判断」
王城作戦会議室に、緊迫した空気が流れていた。魔導師、騎士団長、宰相までが揃い、王が口を開く。
「ユウト殿。おぬしの“収穫適期”の力に、すべてがかかっておる。頼めるか?」
いやいや、俺、ただの農家ですって。
そう言いたかったが、もう言い飽きた。言えば言うほど、俺の職業は「農家(戦闘特化型)」という謎カテゴリに分類されてしまっている。
そして何より——
「……ユウト様、私も行きますわ」
王女のその瞳が、まっすぐ俺を見つめていた。逃げられない。
「しかたない、畑と野菜の未来を守るために戦いますか!」
*
そして翌朝。俺たちは問題の村、フォルセ村に到着した。
「……うわ、何これ……」
辺り一面が、黒い“植物”に覆われていた。
まるで茨。ねじれ、絡まり合い、地を這い、家屋を飲み込んでいる。よく見ると、時折ぬめりを帯びたツタが蠢いていた。
その中心に、そびえ立つ“黒い樹木”のような存在。まるで、畑に生えた魔の巨木。
「魔力の根源……あれが、“黒種子”の母体ですわね」
「うへえ……あれ、畑にいたら泣くわ……」
スキルを起動する。すると、黒いツタの中に“わずかに金色に輝く点”が見えた。
「あった……あれが、急所だ。たぶん、魔力のコア……!」
俺は腰のカマ——【農神の鎌(※王都の鍛冶師が名付けた)】を手に取る。
「……いくぞ。農家は、雑草も敵もまとめて刈り取るんだよ!」
「ユウト様、わたくしも援護しますわ!」
クラリス王女は謎の装備、自作の“マジカルじょうろ”を装備していた。
魔法水を放出することで、周囲の魔力を“洗い流す”という効果があるらしい。王立魔導院の協力のもと、3日で作られた狂気のアイテムである。
「いくわよ! 《清流スプリンクラー・改》!」
ぶしゃあああああ!!
「何そのエフェクトぉぉ!?」
まさかのお姫様が、放水魔法で前線を開きつつ、俺は鎌を構えて突っ込む!
*
ツタが絡む。刺が迫る。
だが、俺のスキルが教えてくれる。「そこは切ってOK」「そこはダメ」——
農家の経験とチートスキルが融合し、俺は“自分の畑の中を歩くように”魔植物の隙間を進む。
そしてたどり着いた。中心の、黄金に光る種子——魔力の核。
「収穫の、時間だッ!!」
振り下ろされる鎌。その軌道は、稲光のように鋭く、美しく。
——ザクリ。ヌルッ!
黒樹の中心に一閃が走り、あたりが静まり返った。
次の瞬間、黒い植物が、ゆっくりと、音もなく崩れ落ちていく。
「……終わった……?」
「いえ、まだですわ……!」
クラリスが指さした先——黄金の光が根本に入ったかと思うと、黒樹の根元から、禍々しい“黒い実”が浮かび上がっていた。
小さく、丸く、ねばついた皮に包まれたそれは——
「なにこれ、野菜の……なり損ない……?」
その“実”が、びしっと俺を睨んだ。
ズズッ……と音を立てて、根をズルズル引きずりながら、それは立ち上がった。
胴体はカボチャ、頭はとうがらし、腕はナス——まさに、邪悪なる魔野菜の融合体。
クラリスが息を呑む。
「こ、これが……魔族の作った、“悪魔の農作物”……!」
「なんでそんなホラー映画みたいなもん作るの、魔族ぅぅ!!」
*
「クラリス、いけるか!?」
「ええ、わたくしのじょうろが、今こそ花開きますわ!」
こうして、俺とクラリスの共闘が始まった。
炎を吐くトウガラシ頭を、ジョウロの水で中和!
ナスのトゲのムチを、鎌で受け流し!
最終的に、俺の収穫適期が光る——
魔野菜の“芯”、中心に一つだけ、収穫適期のきらめき。
「そこだああああああああ!!」
「グギャーーー!」
カマが突き刺さり、魔野菜は爆ぜるように弾け飛んだ!
——静寂。
残されたのは、黒く萎れた畑と、空に差すまばゆい光。
「……収穫完了、っと」
*
王都に戻る道すがら、クラリスが笑顔で言った。
「ユウト様、やはりわたくし、貴方のそばで農業を学びたいと思いましたの」
「え、ええと……俺、そんな立派な人間じゃ……」
「いえ。あなたがいると、どんな野菜も“生きてる”って感じがしますわ」
そう言って微笑んだクラリスの笑顔は、まさに満開のひまわりだった。
(……ああもう、なんでこうなるのやら)
俺の農業ライフは、まだまだ波乱の連続のようだ。
次回予告:
「王都農園、始動! そして迫る“王女の婚約者問題”」
クラリスに政略結婚の噂が? ユウト、謎の貴族と激突!?
恋と土と鍬のトライアングルが、今、うねり始める——!