表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/11

第3話 畑に現れた令嬢は、クワを握った

 王都に設けられた、俺専用の畑――その名も《勇者ユウト様農園・王都出張所》。

 名前が目立ちすぎて、嫌な気分しかしないが場所は意外と悪くない。街の南端、川のそばにあり、水は豊富。土質も悪くない。


「ま、ここでなら……トマトも育つかな……」


 やっと畑と向き合える日々が戻ってきた、そう思ったのも束の間だった。


「そこのアナタ! ここが噂の“勇者農園”ですのね!?」


「……誰?」


 振り向くと、そこには目も覚めるような金髪碧眼の美少女がいた。

 ドレスは白に金の刺繍、腰にはリボン、頭には麦わら帽子……手には……クワ。


「いや、なんでクワ持ってんの!?」


「もちろん耕すためですわ? おほほ、畑デビューですわ!」


 なにこの外国人コスプレイヤースタイルで農作業する勇気の化身みたいな人。


「ええと……お嬢さん。ここは王都直轄の管理地なんで、無断で……」


「わたくし、クラリス・フォン・ルミエール。第三王女にして、この国の農業改革を夢見る者!」


「えっ!? 王女!? えっ、ちょ、土いじりしていい人種じゃないって絶対!」


 良く見ると、目の前の王女は長靴を履いている、やる気満々だが、へっぴり腰でクワを振っていた。


「今日の目標はウネ作りですわ!」


「いや、騎士団とか従者とか止めようよ!?」


「ご心配なく、護衛や影のものは常についておりますわ!」


「どこに居るか、全然解んないんだけど!? 怖すぎる!」


 その後、クラリス王女の耕した畑は、はっきり言って――ド下手だった。

 クワの角度が甘く、畝の高さもバラバラ。力が無いせいか、浅くしか耕せていない。だが彼女は、汗をかきながら、泥だらけになりながら、満面の笑顔で言った。


「すばらしいですわ……この“命が芽吹く感覚”。とても……貴族的ですわね……!」


「その感想、農家人生で初めて聞いたわ」



 その日から、クラリス王女は毎朝やってきては俺の農園を手伝い――いや、むしろ妨害し――賑やかな日々が始まった。


「ユウト様、あの苗は植えましたの?」


「植えたけど、あなたがその上に座って台無しだよ!」


「ではこちらの肥料を……あっ、間違えて高級香水をかけてしまいましたわ!」


「なんでそんなもん持ち歩いてんだよおおおおお!!」


 俺のスローライフは、平穏とは程遠い“農業系騒動”と化していた。

 だが、ふと気づく。


 彼女は王女という立場なのに、畑を“下に見て”いなかった。むしろ、土を耕すことに純粋な情熱を持っていた。


「クラリス様……その、なんで農業なんかに興味あるんですか?」


 俺の問いに、彼女は少し照れたように笑って答えた。


「子どもの頃、郊外の村で食べたトマトが……人生で一番おいしかったんですの。あんな野菜を作れる人になりたいと……ずっと思っていましたのよ」


「……なるほど、素敵ですね」


「ええ。わたくし、本気で“世界の食卓を変える”つもりですわ!」


「急にスケールが世界レベルぅ!?」


 やはりこの王女、どこかズレている。そして眩しいくらい真っ直ぐだった。



 数日後。


 俺たちが育てていた野菜たちが、ようやく“収穫適期”を迎え始めた。

 カゴいっぱいに並んだトマト、ナス、きゅうり。色も形も、完璧に美しい。


「クラリス様、貴女が初めて育てた野菜です。食べてみて下さい」


「えっ、いいんですの?」


「もちろん。農家の特権です」


 彼女はおそるおそる、真っ赤なトマトをかじる。

 その瞬間、目を丸くして――涙を浮かべた。


「……あの時と、同じ味ですわ……」


 その顔を見て、俺は思った。


(……ここで、もう少し頑張ってみても、いいのかもしれない)


 ――平穏ではないが、確かに幸せな“収穫”が、そこにあった。



 その夜。王都に奇妙な報せが届いた。


「魔族の領から、呪いの“黒い種”が流れてきた!? しかも、植物型魔物として急速に成長していると……?」


 そして、宮廷魔導師たちは口を揃えて言った。


「対応できるのは、あの“収穫の英雄”しかいない!」


 ――そう、農家兼勇者(仮)である俺の出番だった。


 次回、「魔族の種と、畑の決戦! 野菜で王国を救えるか?」


次回はアクション回!

クラリスとの距離もグッと近づき、共闘&野菜バトルの幕開けです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ