第1話:農家になりたいだけなのに、モンスターが収穫されました
俺の名前はユウト。かつてはブラック企業の歯車として、日本の片隅で働いていた。
朝は満員電車、夜は終電。上司の怒号と作り笑いでボロボロのメンタル。気づけば栄養ドリンクより濃い色の涙を流していた。
「もうダメだ……このままじゃ人生が腐る……」
そんなことを考えながら、帰り道にトラックに轢かれ、気がついたら異世界だった。
お決まりのパターン? そうだよな。でもそのときの俺には“生き返ったような喜び”しかなかった。
魔法? 剣? 英雄? まっぴらごめん。
俺がこの世界で目指すのはただ一つ――
「のんびり、農家になるんだ……!」
転移先の神様がくれたスキルの中から、俺は迷わず【収穫適期】を選んだ。
なんでも作物がもっとも美味しく実る“最適な瞬間”が一目でわかるらしい。
スキル説明を読んで、俺は確信した。
これは……野菜界のプロフェッショナルスキル!
俺の田舎ライフ、始まったな。
*
あれから三ヶ月。森の外れに建てた小屋に暮らし、畑を耕す日々。
「今日のカボチャ、そろそろだな……収穫っと!」
スキルのおかげで、野菜の収穫のタイミングが驚くほど快適だ。
まるで野菜たちが「今が一番おいしいよ」って教えてくれるみたいに輝いて見える。
いやあ、平和っていいなあ……。
そう思っていた矢先だった。
「ガアアアアァァッ!!」
獣のような咆哮とともに、森から巨大な影が現れた。
全身に鋭い棘を生やしたトカゲのような怪物――スパイクドラゴン。
「う、うそだろ!? なんでこんな凶悪そうなモンスターが、俺の畑にぃぃ!」
のんびりスローライフは、数ヶ月で終了した。
逃げようとしたそのとき、スパイクドラゴンの体に妙な“光”が見えた。
ちょうど、右目の上あたり――そこだけ、やたらと“刈り取り時”みたいに輝いていたのだ。
……あれ? なんか、カボチャみたいだ。
「ま、まさかな……でも、何もせずに、食われてたまるか!」
俺は手に持っていた農具――鋭く砥いだ鎌を構える。
狙うは、あのピカピカ光ってる部分……それだけに集中し、夢中で放った一撃が――
ザクッ!!
「ギャアアアァァァァァッ!!!」
――スパインドラゴの急所を貫き、その巨体が崩れ落ちた。
しばし沈黙。
「嘘だろ……収穫できた……ってこと?」
*
その数日後。
俺の小屋の前に、村人に報告を受けた王国の騎士団がやってきた。
「Sランクモンスターを、たった一撃で……!? そなた、名を名乗られよ!」
「いや、俺はただの農家で……」
「いやいやいや、ただの農家がモンスターを倒せるなら、我々は何を倒すのですか? 貴方は“勇者”様に違いない!」
「やめて!俺は、野菜が育てたいだけなの!」
「わかりました、そこまで言うなら、畑仕事の合間に魔物を収穫していただければ結構!」
「やだ、なに、その日本語こわい!」
その日を境に、俺の名前は王都中に広まり、「収穫の英雄」「鎌の勇者」「魂刈りのユウト」などという妙な二つ名が量産された。
そしてなぜか、冒険者ギルドのSランクに登録され、王城からは召喚状が届いた。
「……俺の平穏な生活が、どうしてこうなった……」
だが、このときの俺はまだ知らなかった。
この“収穫適期”というスキルが、ただの農業補助ではなく――
とんでもないチートだったことを。
次回、王都へ行く羽目になる農家(仮)!
彼の農具(武器)は、さらなる強敵たちを“収穫”していくことになる――!