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一体のモンスターを倒して奥へ進むとまた音が聞こえだす。
──カサカサカサッ
だけど今度は数が多く感じる。
リツの後ろにいるのは安心だけど、リツは大丈夫なのだろうか。
(うっ…さっきよりも匂いがキツくなってる…)
進んでいくたびにキツくなる匂い。
早くここから出たい…
──カサカサカサッ
「麗。気をつけろ。」
「…うん。」
──ガリッ。シャーー!!
今度はさっきのモンスターとは違い、サソリのようなモンスターが五体も現れた。サソリと違う点は尻尾が二本あるところ。赤く光った目に口から伸びる鋭い牙。その牙からはどろっとした液体が垂れている。
(…リツ。)
「やれ、狐火。」
呟いたリツに答えるように狐火が現れ、サソリのモンスターに放たれる。
──ギャァァァァァ
モンスターが悲鳴のように痛みに悶える。
五体もいたモンスターは次々と燃え焦げていく。
五体のモンスターが死んだことを確認し私たちはまた奥へ進み始める。
「麗、怪我はないか?」
「うん。リツが守ってくれているから…。リツは怪我してない…?」
「大丈夫だ。今出ているモンスターは雑魚ばかり。こんなものを倒すのに時間は必要ない。」
リツは強いんだね。
心も体も全部。
私とは違う…
それを改めて気づいた。
──カサカサカサッ
来る…
またモンスターが。
──カサカサカサッ
音を立てて現れたのはアリのように小さな虫の集団だった。壁に登るものもいれば、こちらへ向かって来る。壁に登るモンスターは一気に回り込み、私の後ろに飛び降りた。
「リツ…!こっちにモンスターが!」
「麗、俺の手を握れ。」
「え!?」
「いいから、早くしろ。」
私は言われた通りリツの手を握る。
「麗、そっちのモンスターに手の平を向けろ。一体目のモンスターを倒したときの俺のように。」
「わ、分かった。」
私はモンスターに向けて手を向ける。
リツも同じように手をモンスターに向けていた。
片方の手は未だにリツと繋がれている。
(一体、これで何が出来るの…)
「やれ、狐火。」
リツが呟いた瞬間だった。
(…!!)
私の手から狐火が放たれた。
どういうこと…
私には何も力はない。
それなのに、どうして私の手から狐火が…
モンスターは音を立てることもなく静かに燃え尽きていく。私の前にいたモンスターは何一つ残らず消えた。リツの方もどうやら終わったらしい。
「リツ…どうして…どうして私の手から狐火が…」
「俺と契約をしたからだ。俺の中にもお前の魂があり俺たちは共存している。共存しているということは、触れていればお前も俺と同じ力が使えるということだ。」
私がリツに触れれば同じ力を使える…
ということは…
「私もリツと一緒に戦えるってこと…?」
「ああ、そういうことだ。だが、一つだけ言うことがある。」
「お前は俺とは違い人間だ。体力に限界がある。あと一回が限界だろう。」
確かに、妖狐と人間は違う。
仕方のないことだけど…
「私もリツと戦いたい…」
「ダメだ。」
「…どうして。」
「俺はお前を傷つけたり、苦しめたくはない。俺が必要とするときだけでいい。お前には無理をさせたくないからな。」
リツが真剣に考えて出した答えなんだろう。
それはリツの目を見ればすぐに分かった。
「…分かった。」
「進むぞ。」
「…うん。」
どんどん進んで行くけど、何かがいる気配はない。
だけど匂いは更にキツくなっている。
この匂いの正体は一体なんなの…
──カサカサカサッ
「…嘘でしょ…」
目の前に現れたのはリツの身長よりも大きい蜘蛛。
黒の体に後ろには黄色のしま模様。
他のモンスターと同じように赤い目。
──ピューー
「危ない。」
「きゃっ!」
リツに体を抱きかかえられれば、ジャンプしてモンスターから出された蜘蛛の糸を避ける。
「麗、そこの岩に隠れていろ。こいつはどうやらここの中ボスらしいからな。」
中ボス…
さっきよりも強い敵…
「リツ…」
「俺は大丈夫だ。早く隠れろ。」
「分かった。」
私はリツの言う通りに大きな岩の後ろに隠れた。
顔をそこから出せばリツが狐火を向けている。
「やれ、狐火!」
狐火がモンスターに放たれたがモンスターから吐かれた蜘蛛の糸に防がれる。
「いでよ、狐上の剣。」
突然、リツの手に現れたのは一本の剣。
あれが、狐上の剣…
「やれ、狐火。」
そう呟くと同時にモンスターに向かい走りだしたリツ。やはり吐かれた蜘蛛の糸に狐火が防がれるけれど、今度は違う。リツが一つ一つ邪魔する蜘蛛の糸を切っていったのだ。そしてモンスターの目の前に行くとリツは飛んで、狐火を放った。狐火を浴びているモンスターにリツは狐上の剣を振り下ろす。モンスターは半分に切断され、その体は炎に飲み込まれて消え去った。
「リツ…!」
私は隠れていた岩から飛び出しリツの方へ向かう。
「リツ、その剣…」
「これは狐上の剣と言われるものだ。妖狐の中でも使えるものは数少ない。」
「すごいんだね。リツは…」
「…そうか?当たり前だろう。俺はお前の方がすごいと思う。」
私の方が?
どうして?
「お前は嫌な顔一つせず俺とここに来た。今でも逃げ出せるのにお前は俺といる。それだけじゃなく、俺と一緒に戦おうとまでした。お前だけだ。そんな人間は。お前はすごい。」
こんな場所なのに、どうしてそんな泣けることを言うの…。泣かないけれど、私の心の中は涙で溢れていた。
「次に待つのはきっとボスだ。麗、安心しろ。お前がいる限り、俺は負けない。」
「うん………!」
私たちは第一の層の一番奥に向かう。
この匂いの酷さはボスの仕業だったのね…
「麗、後ろにいろ。」
「分かった。」
少しリツの後ろから顔だけ出せば目に入ったのは今まで倒してきたトカゲのようなモンスター、サソリのモンスター、アリのモンスター。そのモンスターたちが守るようにしている後ろにいるのは…
「あれは…人間の…顔…」
ボスのモンスターに着いているのは人間の顔ばかり。
「あの人間の顔は全てこのダンジョンで死んだ奴らのだろう。」
…なんて酷いことを。
「あのボスは大蛇だな。あいつはここに来た奴らの遺体を丸呑みし、顔だけを表面に出したんだろう。」
蛇…まさかここに蛇がいるなんて…
「あの雑魚モンスターが先だな。やれ、狐火。」
狐火が雑魚のモンスターたちだけを綺麗に消し去る。
残るはあの大蛇だけ。
だけど、どうやって倒すの…?
あの人たちの顔を傷つけてしまうのだろうか…
「リツ…なるべくあそこの人間の顔たちは傷つけないで…」
「…。お前はやはり俺の妻に相応しいな。安心しろ。そのつもりだ。」
リツは私を認めてくれている。
それだけで胸が熱くなる。
だけど、今はこっちに集中しなければ。
「やれ、狐火!」
狐火がボスへあたるがまるで効果がない。
なぜ効かないの…
「いでよ、狐上の剣。」
リツの手に現れた剣。
でも、狐火が効かない以上、簡単には近づけない。
するとその時だった。
──シャーーーー
長い舌がボスの口から出てくる。
リツが危ない。
そう思ったとき、リツの顔を見るとニヤッと笑っていた。
(笑ってる…)
「やれ、狐火。」
狐火…
でもそれは効かないんじゃ…
だけど、リツの狙いはその舌にあった。
舌に直接当たった狐火でボスが悶え苦しんでいる。
リツからはどんどん狐火が放たれ、次第にその狐火はボスの体内に入り込んでいった。
──ギャァァァァァ
その悲鳴の出所は、ボスの表面についた人間たちの顔からだった。悲痛な叫びに思わず耳を塞ぐ。
(許して…。今、楽にしてくれるから…)
そこから何分がだっただろうか。
大きな音を立ててボスは倒れた。
そしてリツは最後のトドメとして、持っていた剣で一突きした。
「…終わったの?」
「ああ、もう大丈夫だ。」
やっと終わったのだとホッとした。
「リツ、怪我はしていない?」
「ああ。お前は大丈夫か?」
「うん、大丈夫。ありがとう、リツ。」
優しく微笑むリツに私は思わず頭を撫でてしまった。
「あっ…ごめん…」
「…いい。安心するからもっとしてくれ。」
素直にそう言うから驚いた。
リツは甘えるようには見えないのに…
「ふふっ…!いいけど、リツは背が高いからこのままだと疲れちゃうよ…」
「…そうか。」
──ボンッ
「この姿なら出来るだろう。」
確かに、狐の姿になれば簡単に出来るね。
「その前に、この先は行き止まりだけど、第二の層はどこに…」
「一度、外へ出てまた移動する。」
「また、歩いていくんだね。」
「ああ、そうだ。」
「なら、早く外に出ようか?ここはまだキツイ匂いが残っているし、外の空気が吸いたい…。それに、撫でてほしいんでしょ?ここでは落ち着かないから早く出よう。」
「ああ、そうだな。」
──ボンッ
今度は人の姿になったリツ。
私の手を握り、二人で隣に並んで歩き、無事に洞窟の外へ出ることが出来た。
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