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歩き始めて何時間が経っただろうか。
普通なら足も痛くて動けないほどに歩いている。
だけど、全く苦だとは思わないのは、リツと一緒だからだろう。長く続く森は風で揺れる木々と地面に咲いた小さい花たち。少し湿った土を踏めば足跡が残る。いつこの森を抜けられるのか…
「リツ。少し休憩しない?」
「ああ、そうしよう。今は無駄な体力は使うべきではないからな。」
私たちは一度、木陰で休むことにした。
──ボンッ
隣でそんな音が聞こえると、リツは人間の姿から妖狐の姿へと変わっていた。
「妖狐になるの?」
「ああ、こっちの方が楽だ。」
人間の姿で居続けるのは意外と大変なんだ…
リツがその姿の方が楽だと言うなら仕方がない。
そんなリツは私の背中に尻尾を当てて、クッションのようにしてくれている。リツの尻尾はもふもふ、ふわふわしていてすごく気持ちいい。
「ふふっ!リツの尻尾はもふもふしてて気持ちいいね。ずっと触っていたくなる。」
「寝てもいいんだぞ。」
「今寝たら起きれなくなっちゃうよ。だからやめておく。」
私たちは二人は笑い合った。
だけど、この時の私はまだ知らなかった。
この時間がどれほど幸せなものだったのかを…
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一度休憩を挟んだからなのだろうか。
足がどんどん前に進み、太陽が西に傾き出した頃、ついに山にある洞窟についた。
「ここが…ダンジョン。」
「そうだ。ここから入れば、まずは第一の層、蟲喰の層だ。」
私は思わず息を呑んだ。
洞窟からはただならぬ空気を感じる。
異様で不気味な空気…
それに層の名前が蟲喰の層…
虫ってことだよね…?
なるべく入りたくない。虫は嫌いだから。
だけど、これはリツのためであり、この世界の平和を取り戻すためでもある。
私は覚悟を決めた。
「麗。大丈夫か。」
「うん。大丈夫。」
「それならいい。行くぞ、第一の層、蟲喰の層へ。」
「うん………!」
私はリツの後ろに着いていき、洞窟の中へ足を踏み入れた。空気が重く、息苦しい。風は冷たく寒い。震えが止まらない。洞窟はやはり汚れているから、巫女の服がやはり汚れてしまっている。いや、これは森の中での汚れか…なんて頭の中では一人で冗談を言っているけど、心の中は落ち着かないほど焦っている。
何が起こるか分からないこの洞窟で、ただの人間が妖狐と共にボスを倒すんだよ…?普通に怖い。それに、入ったときから気になってはいたけど…
(なに、この匂い…!)
生臭いような、血のような匂いもする。
入ったときは少し気になるぐらいだったのに、進むに連れてだんだん匂いが強くなっている。
「リツ…なに、この匂い…」
「ここにいるモンスターたちだろう。血の匂いは多分だが…。ほら、麗。見てみろ。」
言われるがまま、私はリツの指差すところを見た。
「…っ!!何…これ…」
それは人間の指だった。
「指だな。しかも人間の。ここに入ったやつも俺たちと同じようにこのダンジョンに入ったんだろう。だが、この層にいるモンスターにやられた。」
その末に残されたのがこの一本の指…
「長さを見るに、小指だな。」
…なんて残忍なことを。
ダンジョンってこういうものなの…?
「リツ、もしかしてこの人間の人って、私と同じように霊格の高い魂の持ち主で、リツのような人に異世界に連れてこられたの?」
「それは分からない。なぜならこの世界にも沢山の人間は存在する。人間は揃って冒険者になっているからな。」
ということは、この指の持ち主は私とは違ってこの世界の冒険者だった可能性があるってこと。この方にも家族がいたはずなのに…なんて残酷な世界なの…
──カサカサカサッ
「何…!?」
「麗。後ろに下がっていろ。」
「うん……。」
私は言われた通り、リツの後ろに下がった。
だけど離れ過ぎないようにリツの一歩後ろに。
──カサカサカサッ
聞こえてくるのは何かが遠くからやってくる音。
だけどその音は人間のように二足歩行で歩く生き物のような音ではない。まるで…虫が這って歩く音…。
この層の名前は蟲喰の層。
やはり間違いじゃない。
この名の通り、ここにいるのは虫だ。
そして今、こちらに向かって来ているのは紛れもない虫だ…
──ガリッ。シャーー!!
「む、虫…!!」
私たちの目の前に現れた虫は骨は剥き出しになり、牙も出ていて、目が真っ赤なトカゲのようなモンスター。そのモンスターは私を見ている。
(気持ち悪い…怖い…)
「麗、離れるなよ。」
「う、うん……。」
リツは私を後ろに隠すように立つ。
リツがモンスターに手の平を向けて呟く。
「やれ、狐火。」
──ギャァァァァァ
炎がモンスターの体を包み、モンスターは焼け焦げた。
「一体目か…麗、大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫…」
「なら良かった。次に進むぞ。」
私はそのままリツの後ろに着いていくことしか出来なかった。
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