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朝日が森を照らし出したとき、私とリツはダンジョンへ向かう旅に出た。リツの話によると、この世界のダンジョンはこの森を抜けた少し先の山の洞窟にあるらしい。森の中を進んでいけば鳥の鳴き声が朝を知らせてくれる。
だけど、私の中で今、気になっていることがある。
(神社は大丈夫かな…?)
人も訪れない、神社を…いや、あの狐の像を傷つける人がいるのに、私がこの異世界にいるとそれを守ることも手入れすることも出来ない。特に、あの狐の像が隣にいるリツだと知ったからこそ、余計に心配だ。
リツは私の手を握りながら私の歩幅に合わせて歩いてくれている。私はそんなリツに聞いてみることにした。
「ねえ、リツ。聞いてもいい?」
「なんだ。」
「元の世界…あの神社は大丈夫かな…?あの神社だけじゃない…リツの封印されたあの狐の像は何もされていないかな…気になって仕方がないの…。」
リツは立ち止まり私を見つめる。
「神社が心配か?」
「…うん。あの神社はずっと一人で巫女として守ってきた。人が訪れることはなくても、神社は神聖な場所だから。綺麗にしていないとダメ。だけどそれ以上に、私はリツが封印されていたあの狐の像が汚されたり、傷つけられている所は見たくないの。」
あの神社は私の家。
リツの封印されていたあの狐の像は私の家族。
だからこそ、あそこだけは守りたい。
するとリツは優しく微笑んだ。
「安心しろ。お前がこの世界に来る前にあの場所には結界を張っておいた。あそこを汚す人間も、あの像を傷つける人間もいない。」
リツの言葉で私はそっと胸を撫で下ろした。
「あの神社は俺の居場所であり、お前がずっと祈りを捧げた場所だ。あそこは俺とお前の全てで、お前の祈りがあの神社を支えているんだ。」
私のおかげで…
「麗。あの神社はただの建物ではない。あそこはもう、お前の魂の一部のようなものだ。たとえ、戻ることが出来なくても、あそこにはお前の祈りが残り続ける。永遠にな。」
優しい風が吹き、リツの髪と私の一つに結ばれた髪がなびいたのが分かった。それと同時に私の不安が一瞬にして消え去ったような気がした。
「リツがそう言うなら大丈夫だね。安心した。」
「当たり前だ。あそこは俺もずっと守ってきたのだからな。」
「確かにそうだね。ありがとう、リツ。」
「礼を言うのは俺の方だ。お前がいなければ今の俺はいなかっただろう。それに、あの神社が今でも綺麗なのは全てお前のおかげだ。」
私は思わず笑ってしまう。
「なんだか変な感じ…。毎日話していた像に封印されていたリツとこうして手を繋いで、会話をしているなんて…。」
リツは照れることはないけれど、私に優しく声をかけてくれる。
「これからはただ会話するだけの相手ではない。これからは、俺とお前が共に並んで歩んでいくんだ。」
その言葉に涙が出そうになった。
もう私は孤独じゃないと言われてる気がしたから…
私がリツの手を強く握れば、リツも少し力を入れて握り返してくれる。きっと、力を弱めているのは私のことを考えてのことなのだろう。
大丈夫。きっと彼となら…
この異世界でもやっていける。
そう自信を持って言えるほど、リツの存在が安心できたから。
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