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契約が完了したとはいえ何が変わったのかは分からない。私は自分の胸に手を当ててみるけれど、よく分からない。
「どうした。自分の胸に手を当てて。」
「本当に契約は完了したの?何が変わったのかは分からないけど…」
「契約は完了した。今まさに俺の中にお前の魂が共存している。お前の身に変化が起きることはない。だがもし俺の鼓動が止まったとき、お前も俺と同じように鼓動が止まる。」
…ん?
ちょっと待って。
ということは、リツが死んでしまえば私も一緒に死ぬってこと!?
「もし、私の鼓動が先に止まった場合はどうなるの?」
「同じだ。俺の鼓動も止まる。」
当たり前だと言いそうな表情をしているけど、私には全く理解が出来ない話だ。
「ねえ、リツは500年以上も生きてきて一度も結婚しなかったの?」
「ああ。俺は一人が好きだった。そんな俺をお前が変えたんだ。」
「そうなんだ…。」
私がリツを変えた。
それがリツにとっていいことなら良かった。
「リツ、これからどうするの?」
「まずは第一の層に向かう。ダンジョンの入り口まではここから約半日の距離だ。歩いて行くぞ。」
半日の距離を歩くの…?
ため息しか出ない。
まあ仕方ないよね。
「今から行くんでしょ?」
「いや、もう夜も遅い。出発するのは明日の早朝だ。今日はもう寝よう。」
そう言われたけど…
異世界なんて初めてだし、まだこの環境が信じられない。
「眠れないんだけど…」
「それなら俺がお前の抱き枕になってやる」
──ボンッ
狐の姿になったリツは私に身を寄せる。
銀色の毛並みが柔らかくて温かくて、心地いい。
「温かいね…リツは。」
「そうか?俺はお前の体温の方が暖かいと思うが。」
狐には人間の体温が熱く感じるのだろうか。
分からないけど、リツは温かい。
「もふもふしてて気持ちいいね。」
「くすぐったいぞ。」
「ごめんね。あまりにも気持ち良くて、心地いいから。」
「お前が満足しているのならそれでいい。お前は俺のずっと昔からの家族で、今は俺の妻だからな。」
今考えると、私は狐の嫁入りをしたのね。
実感はないけど、悪くはないかも。
だけど、このまま元の世界に戻ったら、また狐に憑かれてるとか言われるのだろうか。
まあ、いいか。
私には関係ない。
この狐の良さを知らないなんて損してる。
リツだけが私の味方だ。
「そうだね。私の家族はもうリツだけだよ。」
目を細めたリツのおでこに一度口づけをした。
これは私に今出来る最大限の表現だと思う。
今はこれで許してね、リツ。
「おやすみ、リツ。」
「ああ。おやすみ、麗。」
不安でいっぱいだ。
これからここで何が起こるのか。
ダンジョンで待ち受けているのは何なのか。
だけど、リツとならなんとかなると信じてる。
──大丈夫…だよね?
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