2
「リツ。あなたの言っていたLv100ってどういう意味なの?」
ついさっきまで昼だったのに、私か時間が過ぎて辺りが暗くなり始めた。リツが焚き火を用意してくれたときにその意味を聞いた。
「この森…いや、この世界には大魔王と呼ばれる封印された存在がいる。この世界は今、その大魔王のせいで酷く荒れている。」
大魔王…
「もし、大魔王が目覚め、本気を出してしまえばこの世界を一瞬にして滅ぼしてしまうほどの力を持っている。そして今、その大魔王が目を覚まそうとしている。」
この世界を滅ぼす力を持つ大魔王は封印されている。だけど、今その封印が解かれそうになっていていつ大魔王が目覚めてもおかしくないということね…
「だけど、それとLv100はどういう繋がりなの…?」
「大魔王を倒すには条件がある。それがLv100だ。俺のLvは現在99。だが、Lv100になるには相棒と呼ばれるようなものが必要だ。」
「それが…私。」
「そうだ。お前が持っている霊格。それがLv100になるには確実に必要だ。相棒を見つけたところで魂が崇高出ない限りLv100になるのは時間もかかるだけでなくほぼ不可能に近い。」
「でも、どうして私の魂が崇高だと思うの…?」
私の魂を除いたわけでもないのに、どうして分かるのか…
「お前は毎日、神社で一人、祈りを捧げていただろう。純粋なその信念、祈りを捧げるその姿、忍耐、あれはそう簡単にはできない。お前が崇高な魂の持ち主という証拠だ。」
それだけだと思われるかもしれない。
でも、孤独に生きて、祈りを捧げ、どんなに辛くても耐えて来た私を認められた気がした。
リツは私が存在を認めてくれたと言ってくれたけれど、それは私にも言えること。リツは私の存在を認めてくれた。学校でも居ないもののように扱われ、家族も居ないたった一人で過ごして来た。誰かに存在を認めてもらえる日など二度とないと思っていたのに…リツは私を認めてくれたんだ…私という存在を…。
「リツ…ありがとう。私の存在を認めてくれて。」
リツは今、人間の姿だけど表情は豊かではない。
だけど、ほんの少しだけリツが微笑んだ気がした。
「話を戻すが、俺がLv100になるにはお前の力も必要だが、それだけではなれない。」
「それ以外に何か必要なの…?」
「ダンジョンでの勝利だ。」
ダンジョン?
よくアニメとかゲームに出てくるあのダンジョン?
「この世界にあるダンジョンは九つの層に分かれている。その九つの層の地下に大魔王が封印され眠っている。俺がLvを上げるにはそこにそれぞれいるボスを全て倒さなければならない。」
「私には何もできないよ。戦うこともできなければ、魔力もない。そんな無力な人間の私に何が出来るの…」
「お前のその存在が必要だ。お前はただ俺の隣にいればいい。俺と契約するだけだ。」
…契約するだけ。
「その契約が婚姻なのね。」
「ああ、そうだ。」
「もし、その大魔王を倒したらどうなるの?」
「この世界に平和が戻る。ただそれだけだ。」
この荒れた異世界が平和に戻る。
この世界にいるものたちにとって平和は戻ってほしいものだ。
「話は分かった。ところでもう一つだけ聞いてもいい?」
「なんだ。」
「私は元の世界に帰れるの?もし帰れたら、リツはどうなるの?」
異世界に転生したんだ。
元の世界に戻れるかどうかが重要。
「帰れるかは分からない。もし、お前が帰れば新たな婚姻は無くなるだろう。そして俺は今まで通り、あの神社で狐の像に封印されたまま生きていくことになるだろう。」
「リツはあの狐の像に封印されているのは嫌だった…?」
狐の像の話をしているときのリツは少し寂しそうだったから思わず聞いてしまった。
「嫌ではない。お前の話も聞けるしな。だが……お前に答えることが出来ないのは嫌だな。」
「ずっと答えたかったの?私の話に…」
「ああ、昔からな。相槌も出来ないのは胸が痛い。」
リツは妖狐というより、人間という感じがする。
人の気持ちに敏感というか、人が好きなのかは分からないけど、ただそう思う。
「リツは人間が好きなんだね。」
「まさか。あり得ないことだ。俺はお前とお前の家族以外の人間は嫌いだ。」
私や家族は例外ってことがなぜか嬉しく思えた。
いつぶりだろう、この落ち着く感覚は…
それも全て今までずっとそばにいたリツのおかげなんだね。
「ねえ、リツ。その契約しようか。」
「ほ、本当か?」
驚いた様子を見せるリツ。
「リツには嘘はつかないよ。」
神様の使いに嘘なんてついたら罰が当たるもの。
「契約をするのに何が必要なの?」
「…口づけだ。」
…?
口…づ…け?
「無理。」
「なぜだ。」
「それは…その…」
「初めてか?なら俺も同じだ。早く契約しよう。」
本気で言ってるの…?
なんか…他の方法はないわけ?
「他に方法はないの?」
「ない。」
即答された…
ちょっと待ってよ…
私そんなことしたことないのに…
どうしよう。
「遅い。もう待たないからな。」
──ここにいる石神麗を妻として迎え、今ここに魂を共存させる。
リツがそう呟いた瞬間辺りが眩しい光に包まれた。
その光景は私がこの異世界に転生させられたときのようだった。あまりの眩しさに目を瞑ると唇に触れられた柔らかな感覚。その感覚が無くなり目を開ければ光はすでに消え去っていた。
「これで契約は完了だ。」
ということはやっぱり、さっき唇に感じたあの感覚は…いや、終わったならもう構わない。
「麗。俺も一つ聞いていいか?」
「何?」
「お前は元の世界に戻りたいか?」
…契約をしてから言うのは違う気がするけど。
だけど、戻りたいか戻りたくないかなんて今は分からない。
「まだ分からない。もし戻れるなら神社の狐の像を早く手入れしてあげたい。でも二度と戻れないなら、この世界で私の存在している意味、それを探したいかも。」
隣を見れば私の方を見ながら優しく微笑んでいるリツ。
「お前は強いんだな。」
「強くなんかないよ。ただ、孤独が嫌いなだけ。」
「なら安心しろ。お前には俺がいるからな。」
自信満々に言うリツに私が笑えば少し怒られた。
この幸せは今だけかもしれない。
だけど、もしこの世界に平和が戻るなら私はリツと共にいることを選ぶ。
それがたとえ、二度と元の世界に戻れなかったとしても。
いつも読んでいただき誠にありがとうございます!もしよろしければ、ブックマークや☆評価を頂けますと今後の作品づくりの励みになりますのでよろしくお願いします!!