1
『Lv100になるにはお前の力が必要だ。』
狐が…言葉を話した…
銀色の毛が風に揺らされながら人間の言葉を話した狐に未だに理解ができない。私は夢でも見ているんじゃないかとさえ思う。
「まず…あなたの名前は?」
狐に名前を聞くなんて馬鹿だと思う?
私もそう思う。
「名はリツ…。500年以上前からこの地に暮らしている。」
「500年!?」
500年以上ってどういうこと…?
普通の狐はそれほど長くは生きられない。
じゃあ、あなたは…
まさか、、、
「ねえ、リツ。あなたはもしかして、妖狐…なの?」
「ああ、そうだ。」
妖狐が本当に存在するなんて…
それよりも気になる。
「私の力が必要ってどういうこと?」
金色に輝く目で私を見つめながらリツは一つずつ話してくれた。
「お前は誰もが羨ましく思い、欲しがる霊格の持ち主だ。ここへお前が来たのは偶然じゃない。………俺が望んだ結果だ。」
リツが望んだ…?
それに、霊格…?
「霊格って…何?」
霊格なんて知らないけど…
そんなものがあるの…?
「はあ……。霊格というのは魂の格式だ。霊格が高い=崇高な魂を持っているということだ。」
ため息をつかれたけど、ちゃんと説明してくれた。
「ということは、私の魂は霊格が高く崇高な魂だということ?」
「ああ、その通りだ。」
私はただの学生で、ただの神社の巫女だ。
そんな私が崇高な魂の持ち主?
そんなのあり得ない…信じられない…
「お前は信じていないだろう。だが、いつかは分かる日が来るだろう。」
「どうしてそんな風に言えるの…?」
「俺はずっとお前を見ていたからだ。」
ずっと…?
どこで…
私はこの妖狐に会ったことなんて一度もないけど…
「ずっと俺に話しかけていただろ。」
…!?
もしかして…
「狐の像…」
「あれは俺だ。俺はあそこに祀られた神様に使えていた。あの神社に封印された後、年月が経つにつれて人々があの神社から去っていき、誰も俺の存在をないものと扱っていた。人間たちに忘れられている間に俺も人間の言葉を忘れかけていた時だった…お前だけは俺にずっと話しかけてくれた。」
確かに私は昔からあの狐の像が好きだった。
幼少期は狐の像がある理由を知らなかったから、私は単純に神社に来る人たちを迎え入れるために置かれていると思っていた。だけど、年齢を重ねるにつれて狐の像が存在する理由を聞いて私は今まで以上に大切にするようになった。両親が無くなってすぐの時もあの狐の像にだけは毎日話しかけていた。
今、私の目の前にいるリツがあの狐の像だなんて…
「お前の両親が亡くなったと聞いたときは苦しかった。俺の前で泣きながら死んだと話すお前の姿は今でも覚えている。」
「…っ。」
「お前が学校で辛い思いをしていることも、俺の汚れを落とすために毎日必死に磨いてくれていることも。全部知っている。」
私はいつか、この狐の像がもし本物の狐になれば…なんて考えていた。それが今、目の前にいる。
「お前は、俺のことを守ってくれた。俺の存在を認めてくれた。」
「私が、リツを…」
「ああ。言ってくれただろ?」
────────────────────
『君は悪い狐じゃないのにね。』
『いつも見守ってくれてるのにね。』
『君は私の唯一の話し相手で、唯一私に残された家族だよ。』
────────────────────
思い出される私が狐の像に言った言葉。
「聞こえていたんだね…独り言のつもりだったのに…」
きっと聞かれていないだろうと思って言った言葉は本当にあの狐の像であるリツに届いていたんだ。
「お前の言葉は全て俺には聞こえている。そのおかげでこうして人間の言葉を忘れずに済んだ。全部お前が俺を守り、俺の存在を認めてくれたからだ。俺を孤独から救ってくれてありがとう。」
久しぶりに誰かから感謝をされた気がする。
それがまさか神様に使えていたリツに言われるなんて想像もしていなかった。
「お前の涙を見るのは、俺も心が痛い。お前は笑っている時が一番綺麗だ。一人であの神社を守っている姿を見て来た。だから俺は願った……」
リツは優しく目細めた。
「この世界に呼ぶ。俺に力を貸してほしい。そして、今度は俺がお前を守ると決めた。」
不思議ともう恐怖は無かった。
それはリツがあの狐の像だと知ったからだと思う。
リツはずっと私を見ていた。
それだけで安心して疑わないのはダメなこと?
他の人ならダメだと言うだろう。
でも、私には分かる。
リツは私を一番知っている。
私の唯一残された家族だ…。
「そこでだ。お前と契約したい。」
「契約…?」
突然の交渉に驚く。
交渉とは一体何をするんだろうか。
「婚姻だ。」
…え?
「婚…姻…?」
聞き間違い…だよね…?
「ああ、何か変なことを言ったか?」
聞き間違いじゃなかったみたい…
普通のことだろうと言わんばかりに私を見つめるリツ。
「はあ……。」
失礼だとは分かっていても一度息を吐きたかった。
「なぜ、婚姻なの…」
「俺の種族において絶対的な誓いは婚姻だ。」
当たり前のように淡々と話すリツに驚きだ。
「なかなか強引ね…だけど、妖狐の姿で結婚なんて出来るわけないじゃない…」
妖狐の姿のまま結婚なんてするわけないでしょ…
「なら、人の姿にならばいい。」
──ボンッ
一瞬にして目の前に現れたのは一人の男性。
銀色の髪に、長いまつ毛、金色の瞳に彫刻のように整った顔立ち。まさに人間離れした美しい男性の姿だった。
「リツ…なの…?」
一応聞いてみると首を縦に振り頷いた。
「どう見ても俺がリツだ。」
その証拠として狐の耳と尻尾を出した。
妖狐は人の姿になれると知っている。
だけど、それは都市伝説のようなもの。
まさかこの目でそれを見ることになるとは想像もしていなかった。
「人の姿でも神々しいね。」
「お前がこの姿を望むならずっと人間の姿でいよう。
「ずっと人間の姿でいることは疲れないの?」
「疲れる。」
「ふふっ!」
「何がおかしい。」
「ごめんね。あまりにもリツが正直だから。」
正直に疲れるなんて言われると、まあ妖狐の姿でもいいかと思ってしまう。
「久しぶりに笑ったな麗。」
…本当だ。
いつぶりだろう。
こんな風に笑ったのは。
もう思い出せないや。
「麗。俺と婚姻を結ぼう。」
「私に断る権利はあるの?」
「ない。」
即答された…
断る権利は私にはないのね…
「なら、もう少し話を聞かせて。リツの言っていたLv100というのが気になっているの。それを聞いてから考えさせて。」
「…分かった。だか、お前には断る権利はないからな。」
「分かったから…。」
彼の言っていたLv100というのはどういう事なのか。それと婚姻はどんな関係があるのか。
とにかく、私がここで生きるにはそれを知る必要がありそうだ。
いつも読んでいただき誠にありがとうございます!もしよろしければ、ブックマークや☆評価を頂けますと今後の作品づくりの励みになりますのでよろしくお願いします!!