プロローグ
久々に小説を投稿しようと思います!
ぜひ楽しんでってください!
ある日の昼下がり。
皆の瞼が重くなり、心なしか時計の進みも重くなる5限目の国語。
例に盛れず、僕の視界にも霞がかかっていた。
授業をするおじいちゃん先生の言葉が、まるで異国の言葉のように聞こえる。
「メロスは~した。かの…王を……」
さらに、追い打ちのように朗読を始めた先生の声を最後に僕の意識は遠い夢の中へと………
ガタッ
「先生!!!」
唐突に、そんな声が聞こえた。
心地よい夢に入りかけていた僕は、急に聞こえたそれで…
ガタガタッゴンッ
「ッ痛~~ッ!!」
いってぇーーー!!
誰だよ、せっかく気持ちよくうとうとしてたのに!
と、授業中に寝かけていた自分を棚にあげて、睡眠を邪魔した存在に心の中で悪態をつく。
意識を落としかけていた僕は、しかし突如聞こえた空気をつんざくような声によってたたき起こされた。
ついでに膝を机の裏に強かに打ち付けた。
これ絶対アザになるやつ。
周りを見渡すと、僕と同じように夢の世界から強制的に引き戻されたクラスメートが全員、同じところを見つめていた。
…全員僕の方を見ている。
(え、何々もしかして僕が教科書を立ててこっそり寝てるのがバレた?)
と一瞬冷や汗が出たが、よくよく見てみれば皆の視線は正確には僕ではなくその後ろに向いている。
そこまで考えて、
(ああ、なるほど)
と後ろを振り向き納得する。
そういえばこの前の席替えで、僕は彼の前の席になったんだった。
席を立っていた彼、暁煌也君は言った。
「先生、今すぐクラス全員を校庭に避難させてください」
……ほら、また始まった。
思わずため息をつきそうになる。
「暁君、今は授業中だ、冗談をいうのはやめなさい」
「本当にまずい事態になっているんです。ここにいたら皆死んじゃいます」
おー、今日の"設定"はなかなか面白そうだ。
個人的には昨日の、『悪魔が取り憑いてる』っていう設定よりは好き。
「君は前回も私の授業を中断させて、この教室、いや学校の全員を外へと避難させたね?」
「あぁ、あのときは教室に爆弾が仕掛けられたって情報が入って危険だったので避難させました」
「そして昨日は理科の授業で暴れたそうだね?」
「あぁ、理科の実験に使う液体がいつの間にか悪魔の召還に使うやつになってて、危うく化物を呼ぶところだったんです、大変でした」
「そんな頻繁に事件が起こっていたら世も末ですよ」
「ええ、俺もそう思います」
「・・・」
クラス内に微妙な空気が流れる。
先生が説得の言葉を探して黙っちゃったじゃないか。
皮肉って言葉をしらないのか、暁君は。
そんな風にさっきとはうってかわってどこかピリッとした緊張感を含んだ空気の中、
カタンッ
と控えめに椅子を引いた音がした。
クラスの全員(暁君を除いて)が藁にも縋る思いでそちらを向いた。
もしかしたら、現状のこの空気を変えてくれるかもしれない
と、そう願って。
全員、もう耐えられなかった。
聞いているだけなのに、全身をかきむしりたくなるような羞恥に晒されるのはもう勘弁だった。
その生徒は期待の視線を浴びるなか、まるで意に介さないように立ち上がった。
そのまま無言で先生の元へ歩いていく。
教室の生徒も、先生も、空気でさえも固唾を飲んで見守っているようだった。
そして…ついに先生の前に立ち
「……、…?」
んん、何て言ってるのか聞こえないや。
何を話しているんだろう?
すると、ちらりとその生徒の頭ごしに先生の顔が見えた。
(…困惑してる?)
「…どうぞ行ってください」
先生のその言葉を聞くと、その生徒は先ほどよりも足早で教室を出ていった。
俯いていたため顔は見えなかったが、髪の隙間から覗く耳が赤かったような気がする。
…まさかトイレか?今?
結局、教室には先ほどよりも微妙な空気が残った。
…早く授業してくれないかな
「…再開します。21pの10行目時点のメロスは……」
嘘だろ、授業始まったんだけど。
この空気感の中よく再開できたな、ていうか暁君のことはガン無視ですか、そうですか。
「やれやれ、これだけは使いたくなかったが…」
後ろから凄く不吉な言葉が聞こえた。
いや無視だ無視。
「先生、良いニュースと悪いニュースがある。どっちから聞きたい?」
め、めんどくせぇー!
今時そんなテンプレートな言い回し流行らねぇよ!
「・・・」
「オーケー、悪いニュースからだな」
わお、ついに暁君も先生の答えを待たずに喋りだしたよ
「いいか、悪いニュースはな…」
「今から火事が起こるってことだ」
…え?
今…なんて?
「はい?それは一体どういう」
ジリリリリリリ!
流石に聞き捨てならないと思ったのか、黒板に向かっていた先生の顔が彼の方をむく。
それと同時に、突如けたたましい音が言葉を遮って鳴り響いた。
これは…火災報知器の音?
まさか、本当に火事が!?
騒然とする教室。
既に先ほどの空気は弾けとび、今度は別の緊張感が全体を支配する。
そうして誰もが事態を飲み込むことができないままいると
「一階、東側階段近くにて火災が発生しました。生徒の皆さんは、先生の指示に従って速やかにー…」
避難訓練で嫌というほど聞いた避難の放送だ。
まさか実際の火事で聞くことになるなんて。
しかも思ったより近い。
この2階の教室、1年2組の最寄りの階段は東側階段だったはず。
「ほら先生言ったろ?避難しなきゃだって」
「皆さん慌てずに廊下へ!」
もはや暁君のことなど先生の頭の中にはないようだった。
いまはただ子供の命を預かる教師として、皆を避難させるという意識だけが先生を支配しているみたいだ。
クラスメートは未だ鳴り続ける火事を知らせるベルの音と、先生のそんな切羽詰まったような声を聞いて、ようやく状況が飲み込めてきたようだ。
授業が潰れたと喜んでいた生徒達も、事の重大さに気づいて静かになっていく。
先生の一言は、まさに鶴の一声といったところだ。
皆が先生の指示に従って、不安を紛らすように小声で喋りながら外へと出ていく。
僕もその流れに逆らわずにいくつもりだったが、ふと気になることを思い出して足を止めた。
「で、良いニュースってなんだったの?」
教室の慌ただしい空気の中で、1人堂々たる佇まいでいた黒幕に質問する。
…さっきから一歩も動いていない。逃げる気があるのか?
「良いニュースか。確かに悪いニュースだけで終わるってのは不公平だよな。もちろんあるぜ、良いニュース」
そういって彼はニヤッと笑うと
「そうだな、実際は火事なんて起こってない」
「―ってのはどうだ?」
………。
…こいつのこと嫌いかもしれない。
「それで、わざと火災報知機をならして学校中の人を動かす程の事態って一体なんなのさ」
「あぁ、ちょっとした軍隊がこの学校を占拠しに来てるのさ」
…なるほど、そう来たか。
あんまり驚きはしなかった。
僕も慣れてきているのかも知れない。
…イヤな慣れだよ、全く。
「ただ奴らとドンパチやるのにゃ構わないんだが、一般市民を巻き込む訳にはいかない。だから関係ない連中には一度ご退場頂いたってわけさ」
一般市民、ね。
まるで自分は一般市民じゃないみたいな言いぐさだ。
いや、しかし、なかなか筋のとおった"設定"だ。
いるはずのない軍隊と戦っているところなんて、見せられる訳がないもんな。
ごく自然な理由で茶番部分をやり過ごしているもんだと妙に感心してしまった。
「…おっと、そろそろ奴さんがお呼びみたいだ。お前も怖い目にあってピーピー泣くのが嫌なら、さっさと避難するんだな。…最も、好奇心に殺されない自信でもあるなら残っても良いが。」
いちいちムカつく言い方をするやつだ。
しかしまぁ、残るのは勘弁してやるか。
「遠慮しとくよ。今日は替えのオムツを持ってきていないのでね」
ついでに僕も彼の真似をして、芝居のかかった口調で返しておく。
彼はニヒルな笑いで返してきた。
やれやれ、こんな感じで合ってたらしい。
…けどもう二度とやらない、恥ずかしすぎるこれ。
「君たち!早く来なさい!」
っと、先生が呼びに来てしまった。
僕は暁君のような問題児とは違うので、素直に先生のいう通りに教室を出ていく。
どうやら僕らが話している間に皆は先にいってしまったらしい。
遅れたことで彼と同じ扱いにされたら嫌だ、足を早めてさっさといくとしよう。
……教室を出る直前に見た彼は、顔に黒い機械をつけていたような気がする。
見間違いじゃなければ、あれはインカムだった。
誰かと話していたんだろうか。
だとしたらその通話の相手は、彼の口調にずっと付き合うことになる。
僕だったら――
(蕁麻疹どころか、泡を吹いて倒れるだろうな)
だって今少し彼と喋っただけでも、全身が蚊に刺されたかと思うくらい痒いのだから。
相当、彼に嫌悪感を抱いてしまったらしい…。
僕は1人で火災報知機のベルの音を潜り抜けながら、そう独りごちた。
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次回からは暁君視点!