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【6話】アリスという少女

「ここが私の家です」


 ローデンブルグの中央より少し北。立派な民家が立ち並ぶその一つがアリスの家らしい。


「立派な家だな」


 ここに来るまでいくつもの民家を通ってきたが、この辺りの家はかなり大きかった。恐らく高級住宅地のような場所なのだろう。


「お褒めいただきありがとうございます。早速中へどうぞ」


 アリスに案内されるまま、家の中へ入る。そのまま階段を登り、リビングのような部屋に着いた。扉を開けた俺とアリスを、部屋にいた三十代後半くらいの夫婦が驚いた顔で見つめている。


「アリス、その格好はどうしたの! 外で何があったの!」


 アリスの母親が急いで駆け寄ってくる。


「ちょっと色々あって……この方は私を助けてくれたの」


 アリスが俺を見てそう答える。



 その後、一旦アリスは汚れた体を洗いにお風呂に入ることになった。残された俺は一人になってしまい、初対面の夫婦とテーブルを挟んで向かい合っていた。


「この度は娘を助けて頂いたようで、ありがとうございます。私はミレアと申します。こちらは夫のクレイブです。」


 夫婦は二人揃って頭を下げる。


「カズトと申します。たまたま現場に居合わせたもので……」


 上手く言葉が見つからず、歯切れの悪い言葉を返す。


「あの娘は正義感が強くて、強情なところがあるんです。そのせいでトラブルに巻き込まれることも多くて……今日は何があったんですか?」


 俺も最初から何が起こったか知っている訳では無いが、アリスにあの最低な出来事を思い出させるのは酷なことだと思い、知っている範囲で説明した。


「そんなことが……」


 両親は絶句していた。それもそうだ、もう少しで大切な娘を失っていたかもしれない、そんなことは考えもしていなかっただろう。


「もう一度お礼を言わせてください。この度は本当にありがとうございました。是非お礼をしたいのですが、何かお困りのことなどはありますか?」


 お気持ちだけで十分ですと言いかけたが、ミレアとクレイブにとって俺は大切な娘の命の恩人だ。お礼も何も無しは受け入れ(がた)いだろうと考え、こう返答する。


「それではローデンブルグのことについて色々教えていただけませんか? お恥ずかしながらここには来たばかりで、何の情報も持っていないんです」


「そんな事でいいのでしたら、いくらでもお話し致します。晩御飯はまだでしょう? そろそろ日も暮れてきましたし、お話ししながらご一緒にどうですか?」


 チラッと時刻を確認すると、もう十九時を回ろうとしていた。


「そうですね、お邪魔でなければお願いします」


 そう返答すると、ミレアはアリスによく似た満面の笑みを浮かべ、買い出しに出かけて行った。クレイブは仕事がまだ残っているらしく、三階の自分の部屋へ向かった。リビングを出るとき、アリスがそろそろお風呂から出る頃だから相手をしてやってくれと頼まれる。


 クレイブの言葉通り、その後すぐにアリスがリビングに入ってきた。少し濡れた髪の毛、長袖に短パンのモコモコのパジャマは(あで)やかさと可愛らしさを引き立たせている。

 アリスに、ミレアは買い物、クレイブは自分の部屋に戻ったと伝えると、お風呂上がりで赤く染まっていた頬を、さらに少し赤く染めた(気がした)。


 晩御飯の間までアリスとソファで隣り合って話した。あの最悪の出来事を思い出させないように他愛(たあい)ない話を。その中でアリスが十五歳だということが判明した。


「お互い敬語はやめて、軽い感じで話そうよ」


 そう俺が提案すると、アリスは少し笑って言った。


「カズトは最初から敬語じゃなかったじゃない」


 そういえばそうだったと苦笑する。初対面の人とは敬語で話すことにしているのだが、状況が状況だったからか、自分を強く見せてアリスを安心させたかったのかもしれない。その手段がタメ口で話すことだとは我ながら馬鹿らしい。


「そう言えば、カズトは晩御飯の後はどうするの? 宿に帰るの?」


 アリスのその一言で思い出した。そういえば俺は宿代を稼ぐためにクエストを探していたのだ。今の俺は文無しだ。だがその動揺をアリスに見破られるわけにはいかない。英雄にそんなダサい姿は似合わない。


「まだ今夜の宿は取ってないから、ご飯の後に取ろうと思ってたんだ。」


「そうなの? じゃあ今夜はうちに泊まって行ってよ!」


「そうは言っても、寝る場所がないじゃないか」


 ありがたい提案だったが、流石にこれ以上お世話になるのは申し訳ないと思い否定的な態度をとる。 


「大丈夫よ。私の部屋は広いから、来客用の布団を敷けばカズトが寝れる場所は作れるの」


 アリスはドヤ顔でそう言った。しかし俺としては、今日会ったばかりの女の子と同じ部屋で寝るのは気恥ずかしかった。少し顔をしかめて悩んでいるとアリスがボソッとつぶやく。


「カズトが近くに居てくれると安心して眠れるんだけどな」


 そうか、気が強いとはいえまだ十五歳の女の子。あんな体験をして一人でぐっすり眠れるわけがない。とことん気が利かないなと自分の対人能力を恨めしく思う。が、今は落ち込んでいる場合じゃない。アリスに精いっぱいの笑顔を向けて答える。


「じゃあお言葉に甘えて、お世話になろうかな」


 俺の返事を聞くと、アリスはとびきりの笑顔を浮かべて言った。


「うんっ!」


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