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たとえ手を伸ばしても

お読みいただきありがとうございます。ようやくひと段落ついたのでリハビリ兼練習として書きました。

一羽のとても美しく誰もが見惚れる鳥がいた。

その鳥は大きな翼で空を自由に飛び回っていた。


そして時々降りてきてはある一本の木で羽を休めた。

その木はとても細く小さく、その鳥が羽を休めるには心許無く見えた。


けれど決まってその鳥は羽を休める時その木にとまった。





俺が通う高校には女神がいた。

鳳翼。全てを持つ女性であり、俺の幼馴染でもある。

彼女は完璧だった。



美しい銀色の髪。

綺麗に整った顔立ち。

翡翠色の瞳。

服の上からでもわかる豊満な体つき。

誰からも好かれる性格。

全国模試でも上位になお連なる学力。

おまけに運動神経も抜群ときた。


そんな彼女と比べて俺には何もなかった。


顔も、

頭も、

運動も、


全てにおいて彼女とは較べるべくもなく、平凡だった。

そんな俺が彼女となんの因果か、幼馴染として生まれてしまったのには、果たしてどんな意味があったのだろう。


そんな俺達は2人揃って毎朝登校する。理由は単純。付き合っているからである。彼女はいい顔をしないがなぜ平凡で何もない俺なんかと付き合ってくれているのかというと、運良く彼女の幼馴染として生まれたからであるとしか言いようがない。


「おはよう、心。」

「おはよう、翼。」


心とは俺のことである。細木心。それが俺の名前だった。


「ねぇ、心は部活何にするか決めた?」


俺達は晴れて4月から高校生になった。俺達が通っている高校は文武両道を掲げており、生徒は何かしらの部活に入る事を強制されていた。

最も、それは形だけであり、実際はほとんど活動していないような部活も存在している。


「うーん、どうしようかな。翼は?」


「私はテニス部に入ろうかな。」


「テニスかー。翼は運動得意だもんな。それに比べて俺は運動苦手だからなー。」


「心も私に合わせるんじゃなくてせっかくなんだし自分の好きな所に入れば?」


「そうだなー。」


そう言いながらも俺は既に文芸部に入ることを決めていた。

文芸部は活動に時間的な拘束もなく、自由に使える時間が多い。俺は少しでも翼に並べる人間になりたくて、せめて勉強だけはと家に帰ったら時間の許す限り勉強に充てるつもりである。

勉強は唯一、努力した分だけ結果に現れやすいものである。誰でも時間をかければある程度のレベルまではいくことができる。


そんな話をしているうちに学校が近づいてきた。それに従って、同じ制服を着ている生徒達も増えてきており、当然学校一の有名人と言っても過言ではない、翼は注目を集めていた。


「見て、翼さんよ!今日もお美しい!」

「やっぱり鳳さんってすげー美人だよなー」


そこかしこから男女問わず翼のことに関する話が聞こえてくる。

そしてその隣にいつもいる俺のことも。


「見て、またあいつが隣にいるわ。」

「なんであんな冴えないやつが翼さんの隣に。」

「たかが幼馴染の分際で、つりあってねーよ。」


そんな言葉が聞こえてくる気がする。実際は聞こえていないのだが、心の中ではそんなことを思っていそうな顔をみんなしている。

俺と翼が付き合っていることは誰かに話したことはないがなんとなく皆んなが察しており、実際に嫉妬混じりの視線をよく感じる。


「翼、おはようー」

「翼さん、おはよう」

「鳳さん、おはよー」


そうこうしているうちに翼は人に囲まれてしまった。

誰もが翼と関係を築きたいのだ。


「みんな、おはよう」


そうして翼は俺に、小さな声で「心、また後で。」

と告げて行ってしまった。

俺と翼はクラスが違うので別れるのだが、最近はこのような感じでなし崩し的に別れることが当たり前となっており、翼は後でと言っていたが休み時間の度に人に囲まれており、放課後も誰かしらに誘われて遊びに行っているため会えるのはまた明日になる。


教室に入ると既に何人かの生徒が席についていたが、毎朝余裕を持って登校しているため、まだ空席が目立っていた。


「細木、おはよう。」

「おはよう」

そうして席に着くと、隣の席の田中や話していた人達が声をかけてきた。


「おはよう。」


そう一言話すと彼らはまた話の続きを始めた。


こんな感じで別に嫉妬が理由でクラス全体でいじめられていたり、無視されていたりするわけではない。それなりに話す人も多くいる。


そんな感じでたまに入ってくる人と話したり、授業の準備をしていると、朝礼の時間となった。


そうして1日がなんのこともなく過ぎていく。今日特別なイベントがあるとすれば部活の希望届けを終礼で配布されたことくらいだ。


そうして放課後になると俺は希望届けに文芸部と書き、職員室に提出しにいった。


「細木が一番乗りだな。見学にいったのか?」


出しに行くと担任の太田先生がそう質問してきた。


「いえ、ですが初めから決めていたので。」


「そうか、別に文芸部が悪いわけではないが、他のところを見てから決めてもいいのでは?」


「大丈夫です。好きで決めていますから。」


「ならいいか、これは預かっておくな。」


「はいよろしくお願いします。」


そうして職員室を辞すると翼から連絡が入っていた。


「ごめん、友達に誘われたから今日は一緒に帰れない…また明日の朝ね!」


毎日のように遊びに行ってるし、一緒に帰る約束もしていないのでわざわざ毎回連絡してこなくてもいいと思うのだが、それも翼のいいところだと思う。


「りょーかい!また明日!」


そう送ってスマホを閉じる。もう長い付き合いなので、付き合っているといってもそれほどずっとメッセージでやり取りをしっぱなしであったりはしない。


そうして家に帰る。両親は共働きなので夕方までは帰ってこない。


入学して1ヶ月が立つが、これが俺と翼の今の生活だ。中学の時と比べてすれ違う時間が明らかに多くなったが、翼には翼の生活がある。過去の件から翼は周りに合わせることを大事にしている。それに土日のどこかでは必ずデートしていたためそれほど寂しさを感じることはなかった。これから部活なども始まるので毎日放課後遊びに誘われたりということはないはずだから一緒に帰れるようになるだろう。

それにもう少しで中間テストもある。

だから俺は翼に少しでも釣り合えるように勉強を頑張ることにしよう。

このすれ違いの日々は今のうちだと。

俺は楽観的にそう考えていた。










少し考えればわかることだが、そうはならなかった。


翼が入ったテニス部はとても力を入れている部活であり、朝練や休日にも練習があった。


朝の登校も毎日一緒に行っていたのが週に2日になり、翼と話す時間はさらに少なくなって行った。


たまに放課後や休日に部活が休みのことがあっても、必ず何か予定があると断られてしまう。


メッセージでのやり取りが増えた分、どうしても伝達が遅れてしまうため、彼女に先に予定がはいだしまうのは仕方のないことだった。


たまに移動教室などで見かける彼女は多くの人に囲まれてとても充実した日々を送っているように見えたため、忙しい彼女に無理に俺に合わせてくれとは言いにくかった。

たとえその囲んでいる人の中に距離感の近い男がいたとしても。彼女の考えを1番知っていて尊重している俺は無理に離れろとは言えなかった。



そして中間テストが終わり上位者は掲示板に張り出されていた。


俺はまずまずいい成績だったので少し期待して見に行ったのだがそこで愕然としてしまった。


俺の順位は学年9位。学年一桁であったことに喜んだのも束の間。

その上の4位に翼の名前があった。


「え!翼さん4位!?すげー」


「翼すごーい!4位じゃん、4位!」


「ありがとう!」


人に囲まれながら喜んでいる翼の姿が見えた。


「あ、ここ…」


翼が昔からなんでもできるのは知っていた。だから今回も上位にはいるとは思っていた。だけどまさか俺よりも上だったとは思わなかった。


悔しくて翼が俺を呼ぶ声が聞こえた気がしたがそれどころではなかった俺は覚束ない足取りで教室に戻った。


「細木、9位ってすげーじゃん!」


隣の席の田中や他の人から祝福の言葉を貰ったがそれに対して俺は曖昧な笑顔と返事しかできなかった。


その晩、テストの振り返りをしていたところ、珍しく翼からメッセージではなく電話がかかってきた。


「もしもし」


「もしもし、翼?」


「うん、見た?テストの順位!4位だよ4位!」


「うん、見たよ。すごいね。」


「でしょ!心は何位だった。」


「…9位だったよ。」


答えるのに一瞬詰まってしまった。

翼よりも順位が低かったのもだが、翼が俺の順位を知らなかったのが実際は見る暇がなかったからだろうが興味がないといわれている気がしたからだ。


「え?9位?心もすごいじゃん!」


「…ありがとう。」


「これは2人でお祝いしないとね!」


「…そうだね。翼には何かプレゼントを買っていくよ。」


「え?ほんと!?楽しみにしてるね!」


……悔しいな。部活も翼に比べて積極的にやってなくて、放課後も遊んだらせずに勉強をしていたのに忙しくしていた翼よりも下だったなんて。


もっと頑張らないと…




けどそのお祝いの会が開かれることはなかった。

理由は単純。勉強もできると知られた翼がますます人気者になったからだ。


なかなか予定が合わなかったから諦めてある朝にプレゼントだけ渡すことにした。



「翼。これ前言ってたプレゼント。」


「えっ!あっ!テストの時の?ありがとう!」



プレゼントはリストバンドだった。テニスを始めた翼の役に立つものを考えた時にラケットなどは何がいいとかよくわからなかったので1番貰って困らなさそうなものにした。


「わっ!これリストバンド?かわいいー!ありがとうね。」


そうこうしているうちにいつものように翼は人に囲まれてしまう。


それを予想していた俺は静かにその場を離れた。



(ピシッ)

どこから枝に亀裂が行く音がした。



そうしてしばらくの月日が経った。

夏休みも翼は部活に遊びに忙しかった。

何回かデートをしたけど海も夏祭りも花火も全て翼は先約だった友達と行き、俺と行くことはなかった。


そして2学期。数々のイベントがある季節。

翼はさらに忙しくしていた。

文化祭や体育祭の準備にクラスの中心として、また実行委員として毎朝早くから登校していて俺と一緒に登校することはなかった。


文化祭は当然の如く翼のクラスが優勝。また翼はミスコンでも当たり前のように優勝した。

そんな翼と当然のように一緒に見て回るような時間はなかった。


体育祭でも翼は持ち前の運動神経を生かして大活躍。クラスとしては優勝こそ逃していたものの、翼はクラスどころか学校の中心だった。


それらがひと段落して彼女はますます人気者になった。休み時間も放課後も引っ張りだこ。空いている時間など皆無になった。


けれど俺の誕生日だけは一緒に過ごした。

彼女は張り切ってパーティーを開いてくれて久しぶりに長時間彼女と2人で過ごした。


「誕生日おめでとう!これプレゼント!」


「ありがとう。開けてみてもいい?」


プレゼントはオシャレな財布だった。


「そろそろ古くなってきたっていってたでしょ?だからと思ったんだけどどう?」


「ありがとう!大切にするね。」


「よかった!」


「なんだか2人っきりってのも久しぶりだね。」


「そうだね。翼は忙しいから。」


そうして俺たちは様々なことを話した。翼がたくさん話し、俺が相槌を打つ。落ち着いた時間が流れていた。


「やっぱり心と過ごす時間が1番好きだなー。友達と一緒にいるのも楽しいけど疲れちゃう。いつもありがとうね。」




ピシッ




けれどそれ以降、彼女と2人で長い時間過ごすことはできなかった。

クリスマス、正月、果ては彼女の誕生日まで。


そしてそれは2年生になっても変わらなかった。

翼は充実した学校生活を過ごす一方で俺は勉強ばかりだった。けれど一度も翼には勝てないままだった。


そして2年生の夏。翼はテニスで全国でベスト32まで勝ち進んだ。


彼女はずっと着用していたリストバンドを試合に勝つ毎に掲げていた。



「翼、お疲れ様。」


「うん、ありがとう。」


その夜。俺と翼の家族でバーベキューを開いていた。


「惜しかったな。」


「そうだね。来年はもっと頑張らないと。」


「翼、悔しかったら泣いていいんだぞ。翼は今までよく頑張っていた。」


その俺の言葉を皮切りに涙を見せなかった彼女は堰を切ったように泣いた。


「ありがとう、心。私を支えてくれて。大好きだよ。」


そう言って微笑んだ彼女は更に大きく羽ばたいて行った。

何も持たない俺の元で疲れれば羽を休め、更に大きく、大きく。



ピシッッ



文化祭ではミスコンで3連覇を達成した。




ピシッッ!



体育祭でも大活躍。3年では彼女の活躍で優勝していた。



ピシッッッ!


そして三年生の最後の大会で遂に全国優勝を果たした。



…そこで掲げたリストバンドは俺があげたものではなかった。

俺があげたリストバンドは長い間使われ擦り切れて役目を終えて彼女の部屋に眠っていた。



ポキッ!




こうして高校3年の彼女の誕生日。部活も引退した彼女の部屋に俺は呼ばれていた。

今彼女は部屋にいない。なぜ彼女が部屋に呼んだのかは想像がつく。受験も終わり後は卒業を残すのみとなったこのタイミングでということだろう。

俺と彼女は都内の別の大学に進学する。彼女の方が上の大学だ。


俺は高校での彼女と俺との関係を振り返っていた。

多くの輝きを残し大きく羽ばたいていった彼女とそれを支えた俺。彼女の輝きを陰からどんなに追いつこうと手を伸ばしても届かなかった俺。

目の前にあるのは擦り切れたリストバンド。


俺は疲れてしまっていた。彼女に追いつこうと多くのものを犠牲にし、それでも手を伸ばし続け、けれどなお届かず。

ひしひしと1番近くで彼女との差を見せつけられ。

結局俺は彼女に釣り合わなかった。

一等星の輝きを持つ彼女を支えるには俺はあまりにも平凡だった。


だからこうなるのは当然のことだったのだと思う。


戻ってきた彼女は風呂上がりで肌が上気しとても美しかった。


「ねぇ、心。今日、親は遅くまで帰ってこないの。」


だから彼女と離れるならここしかなかったのだと思う。

支えられない俺が彼女の大切なものをもらうことなどできない。


そんな俺から彼女に告げる言葉は一つしかない。


「……翼、俺たち………別れよう。」

最後までお読みいただきありがとうございます!もしよかったら高評価、感想などお願いします!


4/4追記 多く感想いただきありがとうございます!

続きが気になる、中途半端な終わり方との声があったので少しだけ考えを書かせいただきますが私自身はこれ以上書いても蛇足になると考えています。


まずリストバンドですが最初は心があげたものを使っており、心自身も支えている実感あり、翼のことを誇らしく、輝かしく見ていたが、次第にリストバンド擦り減っていったと同様に心の精神が擦り減っていった暗示として書いています。また、他のリストバンドが使われていた事により自分以外にも翼を支える人が大勢いる事を突きつけられて精神にきている感じです。

そして枝の表現は折れた枝は2度と元に戻らない事を暗示しています。つまり翼と心の関係も2度と元に戻らないため、心が別れを決めた時点で破局は決定事項でありその後のやり取りは不要と考えました。

そのため個人的には満足しているため続きを書くつもりはあまりありません。(翼視点を書いてみたいと思っている自分もいる…)


また近日中には拙作、「自己肯定感皆無の男のラブコメ」も更新していこうと思いますのでそちらの方もよろしくお願いします!!

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― 新着の感想 ―
個人的に満足してるというけど、むしろこれで満足しちゃうんだ筆者さんって、的な感じ。 まぁ他の人が仰ってる通り未完成品以外の何物でもない。 もしかしたら、ヒロイン側にもいろんな思いがあって、葛藤があっ…
>夏休みも翼は部活に遊びに忙しかった。  何回かデートをしたけど海も夏祭りも花火も全て翼は先約だった友達と行き、  俺と行くことはなかった。 久しぶりに読み返しました、そして前回読んだときは流してい…
[気になる点] 確かに結がないな あと彼女の心理描写がないから、話の背景がさっぱりわからない 謎が多すぎて、物語が理解できんわ
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