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すってん小町  作者: 奈良松 陽二
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太朗の前に現れた不思議な老人、その正体はなんと本物の安倍晴明だという。なぜ、未来世界に晴明がいるのか?

   三


(いかん。早いうちに堰を掃い流れを戻さねば、大変なことになる)

星の軌道を乱す原因を追求しようとも、正直それを調べる手立てがない。例え多少未来を読むことができても、微細にわたって変化に気づける程ではない。所詮、占いは占い。大雑把にしか知りえないのだ。

 正直手詰まりで困り果てていた晴明の元に、妙な男が弟子にして欲しいと訪ねて来た。

 外見から話し方まで特に変わった所はなかったが、どこか違和感を覚えた。


(物の怪の類か・・・)


 彼の目を通して見える、目の前の人物が纏うオーラが異常だったのだ。そのオーラが本人から発する薄いものに加えて、明らかに人為的に作られた妙なオーラが包み込んでいる。


 晴明は、その男に、感じた全てを率直に話した。

 すると、その男は、

「素晴らしい・・・。さすが、晴明博士。私が欲しているのは、まさにそれです。その見識、その眼力、その能力が欲しいのです」

 そう言った。

「いや、答えになっておらん。わしは物の怪かと聞いておるのだ」

「は・・・。いや、これは申し訳ない。・・うまく偽装しているもの、たしかに私はこの世の者ではありません」


 ただ、物の怪ではなく、間違いなく人間だと言う。

 では何者かと尋ねると、こともあろうに「未来から来た」と言い出した。

 普通なら、相手にしないその言葉に晴明は、すぐに納得した。

 そして確信したのだ。

「貴様かっ! 星を乱す元凶はっ! 」


 男を即座に術を用いて動きを封じ、その場には拘束した。

 しかし、男はかけた術に感心するというより感動してばかりで特に抵抗する様子もない。それどころか、自分の持っていた疑念と不安を全て言い当てた。


(こやつ、只者ではないな)


「私は星の軌道を乱している者の正体を知っている」

 男は、そこまで言った。


 聞けば、この男はその者を追って未来から来たという。

 その者について語る時だけ、男の顔は、まるで親の仇であるように険しく、言葉の隅々まで怒りと憎しみが困っているようだった。


「さすが、当代随一と呼ばれた陰陽師です。いち早く、歴史の改ざんに気付かれるとは・・。やはり、ここに訪ねて正解でした」

 男はその者について一通り言うと、そう言った。


 その者とは、茨木堂次郎という。約千年もの後の世から時間を遡って来たというのだ。


「目的は? 」

「・・・わかりません。それを調べるために私は来たのです。・・博士、是非、この私を弟子にしていただけませんか。共に奴の企てを暴き、歴史を取り戻すのです」


「・・・と、まあ、こんなことでな」

 老人は、そこで一旦、話を切った。

「いや、全然、わからへんねんけど。何者やねん、その男は? 」

「何者? わしと同じで、博士と言っておったな。大学で学生に教えている教授じゃと」


 大学教授? 


「なんでも、時間を超える術式を編み出した一人で、天才じゃと、豪語しておったな」


 タイムマシンを作っただと?


 太郎は聞けば聞くほど、ますます分からなくなった。作ったタイムマシンが茨木に悪用されている、それを阻止しようと動き出した開発者って構図か、と素直に思ったものの、

「いやいや、篁さんの話とどうにも整合性がとれへん」

 一体、どこがどう整合性がとれないのかというと、この時代に飛ばされてきた自分に対する対応が厳格であることから、かなり厳格に運用されていると推察できる。さらに、それを悪用する茨木については、検察まで動いている。

(だとしたら、わざわざ開発者でもある大学教授が個人的に動く必要があるのか? しかもわざわざ茨木を追って時代まで飛んで)


「・・・そこまでする必要があったという事じゃのう」

 太郎の思考を読んで、訳知り顔で晴明は言う。

「だから、その事情を聞いてるんやけどなぁ・・・」

 思考を読まれていることに明らかに不快と伝えるように不機嫌に言った。

「まぁ、深い事情はさておいて、その男がわしの時代に来た理由の一番は単なる興味じゃ」

「はぁ? 」

「そんな驚くことか? 考えてもみよ。作った本人で、目の前にその道具がある。試してみたいと思うじゃろう。それに、時代を遡り、見たこともない古き時代に行けるのじゃぞ。そこに明確な動機があれば行きたいと思うのは至極当然のことと思わぬか? 」


(ああ・・、まぁ、確かに・・)


 太郎は納得した。確かに自分も同じ立場ならしている。

「なんでも、わしに弟子入りしたいというのは、単にその茨木とやらの調査のためだけでなく、陰陽道に興味があったからじゃと言うとった。特にわしの得た様々な術に並々ならぬ関心があると、な。是非にも、その術を会得したいと、そりゃもう、ものすごい勢いで言うてきて、わしも根負けして弟子にした」

「・・はぁ、タイムマシンを作るような科学者が、オカルトに」

「おいっ! わしがわからんと思うておるのかっ! わしの術をそのような胡散臭いものと一緒にするな、若造がっ! これは立派な学問じゃぞっ! 」

「はあ・・、すみません」

「・・・ただなぁ」

 晴明は、突然、ため息をついた。

「は? 」

「お前と同じで理解は早い。よほど賢いのだろうが、いかんせん頭が柔らかいようで固い。この世の森羅万象を受け入れはするが、全て自分の頭で理解しようとする。だから、術を教えても、全く使えん。逆に妙な公式を使って術まで分解しようとしよる」

(ああ、なんとなくわかるわぁ~。理系はそうやろうなぁ)

「常にわしは言うんじゃけどな、考えるな、感じろと」

(ブルース・リーかっ! )


「どうしておぬしらの時代の人間は、こう全てを分かったつもりでおる奴ばかりなんじゃ。森羅万象など、矮小な人なんぞが全て理解できるはずがなかろうに」

「まぁ、それを言ってしまうと科学者なんて必要なくなっちゃうんでね」

「いやいや、違う。知ろうとすることは大事じゃ。わしが言うのは、無理やり、自分が知ってる知識に当てはめてしまうことじゃ。それがいかんと言うとる。わからんものはわからんと素直に認めて、そこにある未知の存在を受け入れ、その意志に耳を傾けて信じることが必要じゃと言うとる。そうすることで、分かってくることもある」

「・・・はぁ・・なんとも、哲学ですね」

「若造・・・、とても大事なことじゃぞ。しかと肝に銘じておけ。これからのお主にとって、これはとても大事なことじゃ」

「はぁ」


 この老人の見る未来、いや、この言い方だとこの話では紛らわしいかもしれない、老人から見た太郎のこれからの行動はどのように見えているのだろうか。恐らく聞いたところでハッキリと教えてはくれないだろう。なぜなら、この老人の言う事を思い出すとき、それは究極ともいうべき選択と犠牲をも伴う重大な判断を一瞬で下さなければならない状況となるだろうからだ。太郎自身は、そこまで思ってはいなくとも、晴明はそう思って太郎に言っている。


 話は変わって行く。

「で、なんでまた、ここに? 」

 晴明がいるのかということだ。

「・・・今言ったじゃろ」

 晴明は半分あきれ気味に言った。

「は? 」

 察しがいいのが太郎のいいところだが、それでもこの答えでは全然わからない。

「いや、まったくわからへん。どういうこと? 」

「使えん。ただただ、使えん。さらに申せば、全くやり方も考え方も合わん。これでは、奴らを利するだけじゃ。ま、残念なことに、わしのやり方では、あ奴に協力している公卿どもらも炙り出せんのでな。そこで・・・」


 つまり、互いの興味を優先しようということで、晴明は男の持ち込んだ奇妙で奇々怪々とした様々な道具に関心があり、これらを生み出す未来世界に興味があった。かたや、男は晴明の地位と立場、素養が全くないに知れても、陰陽道についてもっと学びたい上に、この時代における茨木堂次郎とそれに協力するこの時代の有力者の正体を暴き、陰謀を阻止したいという理由から、男は晴明を名乗り、この時代に留まり、晴明は男のいた時代へと飛んでいくということになった。


「無茶苦茶やな・・・」


 そう無茶苦茶だった。歴史的偉人を未来に連れていくなんてことを、仮にもタイムマシンを作った(男の自称を鵜呑みにすれば)人間がするなんて、無茶苦茶という以外、適切な言葉が思い付かない。


「・・俺が許可した」


 頭の中で、篁の声がした。

「はぁ? 」


 篁は、太郎の頭の中で、理由を端的に説明した。

 安倍晴明は、すでにこの時は老齢であり、歴史的に見ても死期が近く、時代が影響を受ける可能性が乏しいこと。特に彼の持つキャラクターが極めて神秘的で、実在していたにも関わらず非現実的であるため、いかなる事象が起こっても当時の人には受け入れてもらいやすいこと。何より、晴明自身が、我々の想像以上に聡明であり、科学的で、アカデミックで、現実主義で、合理主義であった、であるにもかかわらず、彼の持っている知見、見識、何より能力がとてつもなく我々の知りえる科学では到底及びもつかないような非科学、いや、超科学と言っていいものだったこと。

 今や潰えてしまった、この技術は未来の科学においてもぜひ学びたいものだった。


 ちなみに、この脳に直接語りかける通信技術はまさに晴明によってもたらされた技術だという。


「・・・嘘やろ」

「未だに解明不可能な技術は山ほどあるがな」

「ほな、逆に向こうにこっちの技術を持ち込むようなことして大丈夫なんか? それこそ、とんでもないことになりかねないのと違うんかいな」

 太郎の問いかけに、晴明が答えた。

「あの時代の者らに、わしの術とこ奴らの持つ科学の違いなぞわかるものか。わしの口から言えば、いかなるデマでも鵜呑みにしよるような奴らじゃ」


(聞いとったんかいな)

と太郎が思った瞬間、

(ああ、なるほど、それで・・)

と納得した。このテレパシーのような通信機能をこの老人が必要としないのは、そもそも、その能力を持っていて、しかも、それを通信機能にまで落とし込める技術論まで有していたからか、と。

(改めて恐ろしい爺さんやの)


「別に褒めても、何もしてやらんぞ。しかも、これはお前らが勝手に捨てていった力じゃしの。あの男と同様で、お前らは理屈に囚われ過ぎなんじゃ」

「はぁ」


「先生・・」

 篁が何かを促すように伝えてきた。

「うむ」

 晴明は、そう答えると、ポケットをまさぐり何かミミズがのたうち回ったような文字が書いてある人型の紙を取り出した。

「あれ、なんかそれ、映画とかで見たことある」


 晴明は二枚を床の上に置き、一枚は太郎に貼り付けた。

 そしてゆっくり立ち上がると、施錠された扉に行くと普通に扉を開けた。

「はぁっ? 」

 施錠されていたはずだった。鍵を持っているわけでもない。


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