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そしてメガネは神になった  作者: なかみゅ
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第七話 キラタ・ピカオの最期

「自信を持って下さい! きっとうまくいきますって!」

「そ、そうだね」

「あ、そうだ。プレゼンに使用するピッカリアなんですけど、もしかしたらレーザーの安全装置解除されてるかもしれないっす」

「ああ」 

「実は昨日、遅くまで残って残業してたんですけど、窓からIDを下げないでウチの敷地を歩いてるヤツが見えたんですよ。だから一応念のため遠隔操作でプレゼン用ピッカリアの安全装置を解除して、機体に搭載されたカメラの映像をパソコンから見ながら販売用の商品が保管してある倉庫に見張りに行かせたんですよ」

 ピカオの会社では社員は常にIDを身に付けることが義務付けられている。ピカオは商品開発担当主任を任されるのは初めてだったので、新商品を盗んだり破壊するライバル会社の刺客が現れることを用心深く想定して遠隔操作によりプレゼン用ピッカリアの操作とレーザーの発動が行えるようにしていた。

 また、ピッカリア標準装備のカメラ機能も常に稼働させて外部から映像にアクセスできるようにしていた。

「それでずっと見張ってたんですけど、結局誰も来なかったんですよ。後で残ってるメガネに聞いてみたら、どうもうちの社員がIDかけ忘れてただけだったみたいなんですよ。問題がなかったのは良かったんですけど、なんとなく興ざめしちゃって。それで帰ったんですけど、安全装置をかけ直すの忘れてたかもしれないんで、一応プレゼン前に確認お願いします。本当は朝の会議の時確認するべきだったんですけど、すっかり忘れてました。すみません。それにしても大きな会社ですねぇ。ここで俺たちが使ってるピッカリアが組み立てられて――――――」


 あああああぁあっ!? そこまで思い出したピカオは、心の中で絶叫した。そう、ピカオは緊張してよく聞いていなかったが、マルイはあの時安全装置のことを話していたのだ。完全にピカオの不注意だった。

 ピカオの胸中は絶望という名の色に塗りつぶされていった。暗黒の未来予測が頭の中で次から次へとシミュレートされてゆく。一方でライトニング社長も自らのピッカリア機体の頭頂部に搭載されていた五百万ヒカルン(ヒカルンはお金の単位。五百万ヒカルンは約五億円)はくだらない装備(金髪)が消滅していたことにようやく気づいたようである。この金髪の表面には純金が使われていた。

 ピカオもライトニング社長もあまりのことに失神して倒れてしまった。その後二度とレンズを合わせることのない四眼のピッカリアの手は仲良さそうに繋がれたままだった。


 ピカオは目を覚ますとライトニング社長に謝罪を申し出たが受け入れてはもらえなかった。社長は怒りで拒絶しているというよりもピカオのことがトラウマになってしまい会うことはできないという。それどころか彼はこの一件でメガネ不信になり、ピッカリアの操縦も機内で行い、外に出て来なくなってしまったという。その後半年間は抑鬱の傾向が見られ精神病院に通い詰めたということだからこの時の事はよほど社長の心に深い爪痕を残したのだろう。

 ピカオの会社とライトニング社の取引も全て白紙になった。ピカオは自社に戻るとピッカリアから降り、レンズを地に付けて社長のヒカリスギに謝ったが問答無用で即刻解雇された。その上泣きっ面に蜂というべきか、彼は自社やライトニング社に多額の損害賠償を請求された。その中にはライトニング社長の金髪の弁償代も入っている。総額は一ギラリン(お金の単位。約10億円)を超えた。

 ピカオは借金に塗れ、挙句の果てには妻のキラエと息子のピカタロウにも見捨てられてしまった。ピカオは絶望していた。あれは、確かに事故だった。けれど、自身が手掛けていたあの新商品を本当に信頼していればあんなことにはならないはずだった。

 あの機体には落下防止効果特化表皮が使われていた。あの機体に乗っていてそうそう落下することはないのだ。そもそもあの時操縦席から位置がズレていると感じたこと自体が錯覚だったのである。

 ピカオは最後の最後で、わずかな不安に負けて自分の商品を信じることができなかった。自分の力を信じることができなかった。失敗は誰にでもある。しかしこれはピカオが自分の力を信じていれば防げたはずの失敗だったのである。ピカオはそう考えて嘆いた。 

 そして結局、全ての希望を失ったピカオは自宅で自らのピッカリアに踏みつぶされて自殺。自身のレンズが割れるパリンッという音が、彼が最後に聞いた音だった。

 その後、この世に中途半端に未練を残したピカオは浮幽霊となってさまようことになるのである。


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