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そしてメガネは神になった  作者: なかみゅ
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第六話 ライトニング・ライトニング社長

 社長のライトニング氏が壇上にやってきて評価を述べる。

「いやあ、貴社の商品は実に素晴らしい。これからのメガネの未来を真剣に考えておられる。ぜひその商品、我が社で使わせていただきたい」

 そしてライトニング社長は握手を求めてきた。

「本当ですか!? ありがとうございます!! よろしくお願いします!」

 ピカオはメガネいっぱいの感謝とともに差し出された手を握り返す。ライトニング社長はとんでもないという風に少し頭を下げて、

「いえいえ、こちらこそありがとうございます」

 その時のピカオは感極まっていた。ついに長年の努力が実を結んだのだ。妻や子にも喜んでもらえる。会社に帰ったら社長や同僚にも褒めてもらえるだろう。出世もできるかもしれない。そう思うとあまりの嬉しさに目の前が滲んできた。と言っても濡れるのはピッカリアの目ではなくピカオのレンズだが。

 そして同時にそれを抑えようとしてピカオ(メガネ本体)の身が震える。前が滲んでよく見えないが微妙に自身の位置が操縦席からズレてしまっている気がしてピッカリアの手で直そうとする。

 手はピカオ本体であるメガネではなくピッカリアの鼻部分に当たった。別にそれ自体は珍しい事ではない。日常的にピッカリアという巨大ロボットを使用しているとはいえ、本当のメガネの手足ではない。 

 まして今のように目の前がよく見えない状態では微妙に動作がズレても当然である。問題はピッカリアが鼻部分を押したとき、カチッと妙な音がしたことである。

「ん?」

 瞬間、ピカオの乗るピッカリアの両の瞳が赤く瞬いた。強烈な紅色の閃光が発射される。それはピカオのレンズを通過し、直線状にある物体を全て焼き切る。 

 ホールの端まで届くとドオオオオォォン! と派手な音を立てた。向こう側はもう瓦礫の山だ。閃光の通過ルートにはライトニング社長のピッカリアの頭があった。不幸中の幸いというべきか、頭を少し下げたおかげでライトニング社長本体は無傷だった。しかしその上、ライトニング社長のピッカリア頭部にあったはずの金髪の髪は消し炭と化し、肌色の表皮が丸出しになっていた。

 ライトニング社長のピッカリアは人間でいうところの禿げたオッサンとなっていた。人間はロボットの髪が消し炭になったところでどうということはないと思うかもしれない。

 だが彼らにとってピッカリアはファッションであり、それ全体がスーツやドレスや宝石のような装飾品なのである。だからライトニング社長のピッカリアの金髪が消し炭になることは、身に付けていた宝石が消し炭になるようなものなのである。

「え?」

 当のライトニング社長は頭上を何か物凄いものが通り抜けていったことを風圧で気づいてはいても、まだ自分のピッカリアとこのホールに起こった惨状までは把握できていないようだった。

 ピカオはあまりのことに状況を飲み込めずにいたがともかく自分がとんでもないことをやらかしてしまったことだけは直感的に理解した。商品アピールに使ったピッカリアもピカオの感情を反映して青ざめてゆく。

 とりあえず今の状況を整理しようとうろたえた頭で必死に考える。ピカオのレンズを通過して前方を焼き切った赤い光、あれはピカオが使うピッカリアから放射されたものだ。

 ピッカリアによる戦争が終結した後、民間に開放されたピッカリアからはほとんどの武装が取り払われることになった。しかし万が一の護身用に一つだけ全ピッカリア共通の武器が残されることになった。それが機体の両目から発射されるレーザーである。

 しかしこれは民間で使用されるピッカリアの装備なので間違ってうっかり発動してあたりを焼いてしまうようなことがないよう安全装置が用意されている。ピッカリアはメガネのつるから接している表皮に人間でいう脳波のような電気信号を流すことで操作するのだが、レーザーを使う時にはまず、この電気信号を介して決められたパスワードを入力する必要がある。

 このパスワードを入力されると安全装置は解除される。その状態でピッカリア機体外側のどこかに設置されているスイッチを同じ機体の指で押すとようやくレーザーが発射される仕組みになっている。スイッチの位置は機体によって異なるがこのときレーザーを発射した機体の発動ボタンは鼻の部分だった。それはもちろんピカオも知っている。

 だがピカオには安全装置を解除した記憶がない。だというのになぜレーザーが……? そこまで考えたところで、今朝マルイと歩いていた時に緊張のためほとんど上の空で話していた会話の内容が不意に蘇って来た――――――


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