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そしてメガネは神になった  作者: なかみゅ
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第五話 ある平凡なメガネの哀しき生涯について

 この世界の生物は基本的に皆光を屈折させる能力を持っており、メガネたちはそれを神の恵みだと考えている。だからメガネの名前に光の要素を含むことも縁起がいいと好まれているのである。実際ピカオの名前は彼の暮らすピッカピカ連合国では比較的ポピュラーな名前である。

 ピカオはフレームの色は黒、レンズの形は四角というどこにでもいそうな平凡なメガネである。ピッカリアの部品を製造する小会社に勤務しピカオの使用するピッカリアも人間世界のどこにでもいそうなサラリーマンといった体のものだった。妻子もいた。裕福というほどでもないがそれなりに幸せな生活も送っていた。

 しかし運命は彼に残酷な牙を向いた。

 ある時、仕事場で起こった不慮の事故でその全てを失ってしまうのである──────



 それは、春の陽気が包み込むような穏やかな朝だった。やわらかい日差しを受けながら、四眼(この世界のメガネの単位。二眼で一個体を表す)のメガネは並んで歩いていた。

「いや~、ついに完成しましたね! キラタさん」

「いやいや、君の尽力があったからこそだよ、マルイくん」

 ピカオは控えめに答える。

「そんな謙遜しなくてもいいですよ。あ、見えてきましたよ」

「なんだか緊張してきたなぁ。うまくアピールできるだろうか?」

「自信を持って下さい! きっとうまくいきますって!」

「そ、そうだね……」

「あ、そうだ──────」


 四眼はこれから彼らが勤めているピッカリアの部品製造会社の新製品を大手ピッカリア製造会社にピーアールしに行くところなのである。

 今回はキラタが担当主任として開発を手掛けており、これが長年務めてきた彼の初の手柄となりそうなのであった。

 開発チームはこの日のためにどのようなピーアールをするか緻密に計画を練ってきた。当日は朝から会議で最終調整をし、ピカオとマルイは打ち合わせのため走行して先にピーアール先の会社に出向く。商品は部下たちが後で車に乗せて届けることになっている。 

 車を使うのは商品を傷つけないようにするためである。ただ遠くへ行くだけなら元からピッカリアという巨大ロボットに乗っているのでそのうえから更に車を使う必要はない。

 プレゼンは午後からだった。会社到着後はピカオが応対に出たメガネに挨拶をし、予定通り打ち合わせを行い後から来る部下たちと商品を待った。彼らが到着すると、昼食を取りながら最後の確認を行った。

 午後、広いホールの中。壇上にはピカオとマルイ、それに数名の部下と商品が在る。ただしキラタはいつものピッカリア機体は使っていない。今回彼は自ら商品を使って宣伝をする予定になっている。

 商品となる部品が組み込まれているピッカリアの外観はさっぱりとした黒髪の標準的な人間の青年といった感じだった。

 観客席には、社長のライトニング・ライトニング氏並びに数名の重役が座っている。ライトニング社長は金縁の出自の良さそうなメガネだった。ピッカリアの頭髪も同じく黄金色に輝きファッションとしてのピッカリアにも気を使っている所に社長としての風格が感じられた。

「本日は、わが社の新商品を紹介する機会をいただき、御社ライトニング社社長ライトニング・ライトニング氏並びに同席してくださった社員の皆さまに誠に深い感謝を捧げます」

 ピカオの挨拶と共にプレゼンが始まる。拍手が収まるとピカオは続けた。

「本日わが社が紹介させていただくのは、私が運転しておりますこのピッカリアの操縦席に使われている落下防止効果特化表皮です。

 戦争が終わり、ピッカリアも一般化された現代、私たちは機体の外側に操縦席を置くようになりました。しかしそれからというもの、操縦席の顔面部分から落下して命を落とすメガネが後を絶ちません。落下そのものは耐えることができても、そのあと車やピッカリア、場合によっては自らが操縦していた機体に踏みつぶされてしまう悲劇もある。もちろんピッカリア機内で操縦すれば安全なことは確実です。しかし今やピッカリアの使用は日常になっている。メガネはそんな窮屈な日常には耐えられません。そこでわが社が開発したのがこの落下防止効果特化表皮です。この表皮の材料は──────」

 一通りの説明を終えた後、彼は実際にピッカリア頭部の角度を傾けたり激しい運動や逆立ちなどをしても本体がずり落ちないのを見せる事で新商品の効果を実証する。それも一通り終わると最後に未来のピッカリア業界の展望を述べて話を括った。

「……以上で、わが社の新商品の紹介を終わります。本日は、誠にありがとうございました」

 ピカオが挨拶の言葉を言い終えるとホールは拍手の喝采に包まれた。


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