その一等星の望むもの(1)
ヒーロー視点
「帰ってたのか。おつかれ。」
「あぁ、ただいま。」
昨夜眠るころにはいなかった同室の友人はあくび交じりに応え、身支度を始めた。俺は自主練終わりのシャワーから上がったところだったので、せっかくなら一緒に朝食をとろうとフォーマルハウトの身支度が終わるのを待つことにした。
「ダンジョン遠征ってやっぱり時間かかるんだな。丸5日もかかるのか。」
「明日からはお前もだ。最後のほう本気でしんどいから、覚悟しておけよ。」
とはいえ、新人教育の一環だ。分隊長が班の力量のギリギリを見定めて、進む深さを決めていく。つまり、隊長の見極めが生死の境を分けるといっても過言ではない。まぁ王子であるこいつの所属する班の長は選び抜かれた人選によるものだ。心配はしていなかったが、だからこそ力量ギリギリの見定めも的確だったらしく、疲労困憊な様子。ちなみに俺の班の長も当たりだと思う。家柄で見下す奴もいるが、実戦経験の数は申し分ないので俺としては何の不満もない。
「そんな事より、レグルス。吉報だ。新しい無能力者を見つけたぞ!それも絶世の美少女だ!」
その言葉に全集中力がフォーマルハウトにむかう。もちろん美少女の部分ではなく無能力者という部分にだ。
「国内か?!」
ニヤリと笑ってもちろん、と答えた。こちらの焦燥を知っているだろうに、奴は呑気に「飯食いながら話す」と言ってくるもんだからイラッときたのは仕方ない事だと思う。
「で?いつもとずいぶん感じが違うじゃないか。」
なるべく周りに人がいない席に座ってから問い詰めるとようやくフォーマルハウトは真剣に話し始めた。
「その前に。お前、フォレストって聞いて何か思う浮かぶことあるか?」
「フォレストって…。森?あー、あと向こうで飼ってた猫の品種がノルウェージャンフォレストキャットってやつだったけど…。何で?それが何?」
話していくうちに友人の笑みがどんどん深くなっていく事に期待半分、気味悪さ半分でせっつくとようやく話し始めた。
「やっぱりな!おい!やったぞ!!多分あの子で当たりだ!」
大興奮のフォーマルハウトについて行けない俺はとにかくこいつの話を聞くことに徹した。
要約すると、遠征帰り、明らかに不自然な場所に建てられた屋敷に閉じ込められるように美少女がいた。王城ですら見たこともない堅固な結界魔法に守られた少女は王族ですら食べた事のないスープをふるまい、聞いたことのない屋号を名乗った。そして、それは想い人の飼っていた動物の名前にも用いられていたというのだ。
「…でも、それだけで断定はできないだろ。転位者がすでに広めた名である可能性もある。」
実際、向こうの世界からの転位者というのはかなり珍しいがいないわけではない。魔力を必要としない動植物には向こうと同じものが存在しているし、星座という概念を向こうの世界から広めたのは異世界人だ。どういう原理か、星の位置も向こうとこっちで同じというのだから根本的な世界のベースは同じなのかもしれない。つまり、自然固定種であるノルがこっちの世界で生息していても不思議はなかった。
「だから、今から調べるんだろ!少なくとも隊長含め俺の班でフォレストという言葉を知っている奴はいなかった。それに、あのスープ!王族とそれに連なる貴族が食べたことないって、もう十分期待して良いだろ!」
「……なら、今から会いに行こう。今日はお前も休みだろ?」
「いや、それが調べるべきはそれだけじゃないんだ。彼女は謎が多すぎる。」
そこで話を区切ってからまた人の悪い顔で笑って続けた。
「お前、明日からダンジョン遠征だろ?今日調べるとして、会うのは帰ってきてからだな。」
「ッお前!」
「いいじゃないか!生きて帰る目的なんて1つでも多い方が!な? そうと決まればさっさと食べるぞ!」
当事者の俺より興奮している友人に言われて釈然としないまま朝食を食べ終え、俺たちは図書館へ向かった。