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少年の夢の先

アリエル視点。

子供らしいところもあるんです。

 過酷な冬が終わった。


 僕の暮してた町はきっとここよりずっと遠くなんだと改めて思い知る。それほどこの国の冬は過酷だった。


 社交シーズンが終わり、子爵領へ戻ると葬式が行われているのが馬車の座席から見えた。ぬかるんだ土を深く掘って、その中に何人も丁寧に寝かされていく。


「身寄りのない者達はああして集団埋葬します」


 先生が僕の視線の先を見て説明してくれた。視線を丘の上から逸らさずに僕はつぶやく。


「僕のいた場所は雪は降っても1日だけとかで、それでも凍えるくらい寒かったんだ」


 布で覆われた彼らの顔は見えない。丘の上とは距離があり、布で覆われた遺体は年齢も性別も分からなかった。


「きっと、どれほど寒かったのかも、僕にはわからないね」


 そうつぶやいた時、周りの護衛がざわついた。馬車がとまる。子爵様ご一家の乗る馬車と違い、屋根のないこっちの馬車では護衛の視線の先をすぐにとらえることが出来た。


「すごい。綺麗な鳥だね」

「真実鳥……?」


 メイドの誰かのつぶやきにざわめきはピタリとやんだ。ただ皆が沈黙の中、その鳥の行方を目で追う。


 その鳥は例の葬儀の場に来て、最後の1人が横たえられたのを確認すると近く木にとまった。


「あっ!」


 丘の上から悲鳴が上がったのと同時に思わず声をあげる。これから埋められるはずの遺体をいれた穴から火柱が立ったのだ。


 凄い光景だった。自然には見られない超常現象を目の当たりにして僕は胸がどきどきと高鳴った。


 幸い葬儀の参列者にけが人はいなかったようで、火柱がおさまる少し前に真実鳥はどこかへ飛んで行ってしまった。


「先生、真実鳥って何?」


 夢見心地でそう尋ねると、先生はこわばった声で応えてくれた。


「神話の中で人よりも先に存在していた唯一の生物です。神の飼い鳥、ゴッドラプタ、真実鳥などと呼ばれる伝説の鳥です」

「伝説?そんなに凄いものなの?」

「最後に人前に現れたのは600年ほど前。神殿に灯り続ける聖火は聖女を通じてゴッドラプタから譲られたものと言われています」


 確かに、先ほどの火力は凄かった。それでも何も知らないぼくは思っていた。珍しい鳥を神の飼い鳥として崇めてその火を聖火とするなんて教会も良く考えるな、と。


「真実鳥の名の由来はここから来ています」


 先生の言葉に意識を戻して話の続きに集中する。


「最高裁判まで引っ張られた罪人は聖火で燃える部屋へ入れられます。ここからは聞いた話なので真実は定かではありませんが、その炎は虚言に反応し熱をあげるのだとか」

「え?既に燃えている部屋が更に熱くなるの?」

「嘘さえつかなければ部屋に入っても幻の中にいる様に熱を感じないそうです。嘘をつくと熱に巻かれて黒こげになるまで焼かれるのだとか」

「……」


 その話を聞いて、僕はさっきの火柱がただ綺麗なだけのものじゃない事をようやく知った。


「また、真実鳥には他にも神の飼い鳥としての伝説があります」


 先生の言葉に、さっきまでのワクワクした気持ちはもう持てなかった。だってあんまりじゃないか。寒さに凍えながら死んだのに、死後業火に見舞われなければならないなど。


「聖火と呼ばれるくらいですからね。真実鳥の火柱は現世の罪を焼き、天国への導く役割もあるんだとか。先ほどは天にも届く高い火柱でしたね」

「うん」


 先生の話を聞いていた他のメイドたち使用人は肩の力を抜いておしゃべりを始めた。馬車の中にいた子爵様たちは何故馬車がとまったのかを護衛に確認し、また馬車は動き出した。


「先生、戻ったら神話を教えてください」

「構いませんが、勉強量が増えますよ」

「はい」


 いつかあの鳥にまた会えた時、僕なら話しかけることが出来るだろうか。話せたら、どんな事をきこうか。


 僕はすっかり真実鳥に魅了されてしまった。先生さえいれば、あの鳥と話す技と知識が身につけられると思うと、今までよりずっと強い気持ちで、長くこの人に付き従いたいと思うほどに。


 そして数年後、イヴ様の屋敷に戻ったら憧れの真実鳥が敷地内にある竈の中に住んでいる事を知り、まさかの再会を果たすのだった。



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