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ままならない恋と立場

器用貧乏なヒーロー視点


「オリファント様、あの、どうか受け取ってください…っ」

「すみません…。私には心に決めた人がいます」

「ぁ…っ」

「ですが、お気持ちは本当にうれしいです。好いてくださりありがとうございます」


 キューっといろんな痛みに声を詰まらせた女性は、ハンカチだけでもと言って最近はやりのプレゼントをくれた。


贈られたハンカチの刺繍を口元に持って行く。今度は自分の胸がキューっと痛んだ。


このハンカチは春を迎えた辺りで市場に出回り始めた商品で、その商品説明に女性から爆発的な人気を得た。


手作りの贈り物はとにかく手がかかる。魔道具ともなれば描く陣も正確でないといけないので器用さも求められ、雑念が完成を阻害することもある。形として残る手作りの贈り物は魔道具じゃなくても器用さが求められるのはどこの世界も一緒だが、この商品はそこを完全にクリアしていた。


使い方は簡単。用途に合った魔法陣のハンカチを買う。箱を開けて陣に触れ、魔力が陣を満たすまで流して蓋を戻す。リボンを結んで完成。


ハンカチの陣に流された魔力は送り主本人のものだから、心のこもった贈り物といって差し支えないだろう。実際には魔力のこもった贈り物だが。


人は自然と魔力を持ち、微弱に発しながら生きている。

そんな常人が、長時間触れた魔法陣に自分の魔力を移さずにいられるかと言えばかなりのプロフェッショナルでなければ不可能だろう。


魔力保有値が0の人を除けば。


このハンカチが市場に出回るとソリの時と同じ騒ぎが起きた。商業ギルドは真っ先に作成方法について確認をし、大々的に魔力0の人員雇用を張り出した。


ソリの時と違ったのはその製造権がフリーだった事。また、作り方も丁寧に記載されていて最後に一言。


【この商品の作成者に売り上げの最低5%を還元することを条件とする】


この記載の最後に書かれていたイヴリース・フォレストの名を読み上げた製造ギルド長は鳥肌が立ったと酒の席でみんなに言って聞かせていた。


「悪魔と契約した気分だった。莫大な金が入る対価は人の良心のギリギリを責める物だったんだ。欲を出したら簡単に破っちまう約束だ。流石はソリの発案者だ。」


 これから魔力0の人が職に困る時代が終わる。そんな風が今街に吹いている事を彼女は知っているだろうか。


 とはいえ、貴族の教養である刺繍も一般市民ではそうもいかない。今は教育期間という事でまだ市場に出ているのはイヴリース・フォレストの作品だけだ。

 箱の裏に押された彼女のイニシャルと葉の模様の蜜ろう印を見る。その刺繍を彼女がさしたと思うと贈ってくれた令嬢には申し訳ないが、気持ちがそちらに傾いてしまうのを止められなかった。


「お、浮気か?」


 そんな軽薄な言葉と共にやってきた親友に気持ちを引きずりもどされた。


「あぁ、イヴリース嬢の手作りか」

「わざとらしい。分かってて言ってるだろ」

「俺もいくつか贈られたな。いるか?」

「……もらう」

「あっはっはっは!」


 陣に流し込まれる魔力もずっとそこに留まるわけではない。消費されたり浪費したりでいつかは空になるのだ。


 商品としてはそこも売れ文句になるようで、箱の裏には大量生産型のメッセージカードにこう添えられていた。


【陣の魔力が切れる頃、どうか私に会いに来て】


「充電式をうまく使ってるなぁ」

「じゅうでん?」

「何でもない」


 城の廊下を歩きながら贈られたハンカチを置く為にロッカーへ向かい、その足で隊に合流する。


「さて、気合入れるぞ」

「ああ」


 これから、雪解けによってあらわになった凍死体や半壊した建物の撤去の応援部隊と、冬眠から目覚めた魔物たちによる人的被害を食い止める戦闘部隊に分けられる。先輩の話だととにかくこれが予想以上に厳しいという。応援部隊はここで初めて死体を見る騎士が多い為心を病む者もいるんだとか。


「戦闘の時のハイな状態と違うしな。日常の中で転がる遺体を見たショックは戦場のそれと全く別だよ」


 そう言った先輩は戦闘部隊を希望したそうだ。きっとフォーマルハウトは王子という立場もあるし応援部隊に回されるだろう。安全な場所だからという事ではなく、王族が自分たちに心を割いてくれていると思えば民間人の気持ちも救われる。そう言った意味では王族も駒にする騎士団には少し呆れもする。


「やっぱりお前は戦闘部隊か」

「魔物はどこにでも湧くからな。行ってくる」

「おう」


 戦闘部隊はこの時期必ずと言っていいほど死者が出る。冬眠あけの獣は空腹を満たすために人里におりてくる。アクティブな凶暴さは本当に厄介だ。民間人を守りながら戦闘する騎士の殉職が少しでも少ないといいと考える。と同時に、思うことはただ一つ。


 どれだけ早く終わらせることが出来るだろうか。


 もはや俺の頭には生きて帰るなんて心配は皆無だった。とにかく早く済ませて、今度こそ君に会いに行きたい。仕事へのモチベーションもそれだけで十分なのだから、本当に恋とはどうしようもない。


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