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愚かな妖精のワルツ 1

イヴリースの妹・フェリチータの序章。


誤字報告、ありがとうございます!

のろのろ更新にもかかわらず高評価をしてくださる皆様に感謝を込めて。

フォレストの魔女という呼び名がじわじわと浸透して行っている。魔の森での休息所として冒険者の間で知れ渡ったのが始めだ。戦闘に疲弊した者にとって、最低限の装備とされるトップコートであっても省けるのなら幸いで、魔道具が自ら魔素を飲み込んでいくその屋敷の傍があの恐ろしい森で唯一気を抜ける場所だった。


そして先日、ハイポーションの素材としてフルルフォーンの角が流通されていた件について、自分たちに必要な分以外を産業ギルドへ寄付した戦闘パーティーが王城へ呼ばれた。国王自ら彼らに角を手に入れた過程を問うたが、彼らが口を割ったのは森で所有者と取引したとだけ。その取引内容に関しても口を割らず、取引相手に関しても口を割らない。アルベルト・グラックスは彼らの瞳を見てこう思った。


あれは口を割らせるのに苦労しそうだ。


拷問の訓練を受けていなかろうが、それでも口を割らない者はいる。パーティー全員が知っているならだれか一人の口を割らせればいい。不可能ではないが、やるか否かの問いかけに王は首を横に振った。


「罪人でない者にそのような事はせん。ましてや彼らは金に換えられる余った角を無償で寄付した者たちだ。その行いに見合った褒美を用意し、そのまま帰す。…故にグラックス。そのような目をするな」


 その言葉に上官の目を見たいのをグッと堪えて王宮の良心、アルベルト・グラックスの笑い声を聞くにとどめた。


 そして現在、熱気で雪が解けているその場に居合わせた俺は曇天を仰いでため息を吐いた。


「こいつが抜かしたんだ!!俺が並んでいたのに!!」

「何度も言ってんだろ!!ここの店は予約制なんだよ!俺は先に台帳に名前書いてんの!」

「なぁ、どうでもいいからさっさと買わせてくれよ。ソリを早く買って来いって母ちゃんに言われてんだよ」

「おい警備兵!こいつら黙らせろ!!!店の前でうるさくてしょうがねえ!!!」


 殴り合いがおこるほど人気な商品の開発者にイヴリース・フォレストの名が記載されていた時も同じように空を仰いだものだ。

 暴れる男たちを宥める警備隊に手を貸しながらソリの在庫確認をして並んでいる途中の人に「ここで在庫終了です」と声をかけて帰らせた。騒動を起こした人は警備隊の詰め所に連れて行かれ、彼らの分のソリは料金を支払ったのを確認して伝えられた彼らの家に届けてやった。そこまでしてやる義理はないが、オイルショックのような負のイメージを残したくはなかった。未だ会えずじまいの魔女殿に思いを馳せながら、ソリを届けた礼に貰った飴を頬張ってまた、ため息をつく。


 それにしても、イヴリース・フォレストは目立ちたくないのではなかったか…?


 フォルから聞いた彼女の過去を思い出しながら、俺は家族のいるタウンハウスへ足を進めるのだった。


「きゃーっ!アレキサンダー、もう一度!」

「母上、もう休みましょう。目が回りました」


 ここにもソリで大騒ぎしている人がいた。この世界になかったソリが流通したとき、我が家にもそれはやってきた。貴族にはお抱えの魔法使いが大抵いる。いなくても魔道具を使用したりして雪を溶かして馬車を走らせていたので、なくても困らないのだが、話題の物を知っておくことは貴族の仕事の1つだ。使用人ですら初級魔法を使える公爵家では本来の用途で使いそうにないソリを見て、俺は不用意な発言をしてしまう。


「結構頑丈そうですね。人も乗れそうだ」


 それから母は舞踏会がない日の日中は屋敷の庭で兄を共にソリ遊びに興じまくっている。兄貴よ、本当にゴメン。


「母上、兄上、ただいま戻りました」

「あら!レグ、おかえりなさい。休暇はどれほどいただけたのかしら?」


 母がこちらに興味を示した事に兄は明らかにホッとして使用人にソリを片づける様に手渡してこちらに近づいてきた。


「積もる話は中でしましょう。レグルス、着替えておいで」

 

 鼻の頭を赤くしながらそう言った兄は優しく母をエスコートして屋敷へ入っていく。領地の屋敷からこれから雪が解けるまで、多くの貴族は首都に集まり過ごす。貴族出身者は休暇申請を出せば休みやすくなる時期だが、大抵の騎士は社交より仕事を選ぶ。俺もそうしたかったが、いくら次男と言えど未婚の貴族が全日欠席するわけにもいかない。


 着替えを終えて家族が待つリビングへ行くとローテーブルには絵姿の山が出来ていた。うんざりしながら声をかけると既に疲れ果てた兄が苦笑いで手招きした。


「レグルス、今年も凄いラブレターだよ。今年は去年より増えてる」

 差し出された一通の手紙を受け取ってその差出人を見て、トリハダが全身に立った。

 そんな俺の反応に兄だけが気付いたようだったが、母の楽しげな声に質問を阻まれた。

「さあ、レグルスの恋人はいるかしらね~」

「いえ、ここにはいません」


 断言した俺の言葉に母と兄は同じ色の瞳をこちらに向けた。


「それより母上、次の舞踏会はいつですか?」

「規模の大きいものなら今夜ありますよ」

「ご一緒しても?」


 俺の言葉に母は嬉しそうに笑って言った。


「それでは今夜のエスコートはレグルスにお願いしようかしら。ふふふ、ドレスを選びなおすわ」


 そうしてメイドを連れたって出て行った母を見送ってから兄がようやく話しかけてきた。


「その子爵家、なにかあるのか?」

「んー、ちょっと。どんな面してるのか見てやろうと思って」

「……楽しい興味じゃない事だけは分かったよ」


 そして兄は今夜ヘーゼルダイン公爵家主催の舞踏会の招待者リストを見せてくれた。そこには先ほどの手紙の差出人、フェリチータ・プラスティラスとその家族の名が記載されていた。


 この寒い中、ご婦人は腕や肩を出して非常に寒そうだ。馬車の中で上着を母にかけてやると嬉しそうに笑った。

「家族そろって出かけるなんて久しぶりだわ。それで、レグの運命の恋人は招待客にいたの?そろそろわたくしにも教えてくださいな」

「実は目星はついているのですが、まだ会って確認していなくて。ただ、今回の会場にはいません」

「なに、実在したのか?!」


 母の質問に答えれば父から失礼な反応が返ってくる。家族に前世の話をしたとき、一番葉月の話に食いついたのは母だった。見つけたら応援するからちゃんと教えてねと何度も何度も耳にタコが出来るほど言われたので、いない事だけはしっかり伝えておいた。でないと勘違いして暴走しかねない。


 そして到着した舞踏会にて、標的は探すまでもなく見つかった。


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