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第一来訪者到来

 この屋敷はドアベルさえも魔道具なのかと現実逃避気味に思いを馳せながら外を窺う。外のベルを鳴らすと連動して室内のベルが鳴る仕組みらしい。


 若い男女、10人ほどが屋敷の外に見える。急いで移動した2階の窓から様子を確認していると、何人かと目があった。なぜか悪い事をしているような気持になって慌てていると、良く通る声が響いてきた。

「我々は魔物討伐に来た国家公認騎士団の者です!ご対応願いたい!」


 もう逃げられない。覚悟を決めて玄関から外に出た。手に持った前世のトランシーバーに似た道具に話しかけると外門に形だけつけられた郵便受けの上、設置したフクロウの置物からこちらの声がでる仕組みのようだ。


 これは屋敷から門まで距離があるので必要かどうかはさておき作ってもらった魔道具だった。早速出番がきたその道具に話しかけながら門まで歩いて行く。

「あの、お勤め感謝いたします。何かごようでしょうか?」


 置物から聞こえた声に相手が躊躇うのを空気で感じ取る。それでも相手は王国騎士なだけあって立ち直りも早く、感も良かった。フクロウに向かって話しかけながら、視線は屋敷へ向けながら話し出す。


「あー、お嬢さん一人で住んでいるのかな?親御さんは?」

「一人で住んでいます。でも必要な物は全て揃っているので不自由はありません。」


ようやく玄関を開けて姿を現した私を見据えて彼は言葉をつづけた。


「そうか…。私はロイド・バークリー。王国騎士団で分隊長をしている。中に入れてもらってもいいだろうか?」

「イヴリース・フォレストと言います。」


 戸籍を子爵家から移されるにあたって新しくなったファミリーネームを噛まずに言えて安心した。小走りで門にたどり着いた私に丁寧に身分証を見せてくれたので、鉄でできた門を開いて彼らを招き入れる。足を踏み入れる瞬間、かなり緊張した顔をしている事を不思議に思ったが、全員が敷地内に入るとみんな詰めていた息を吐き出した。


 彼らはとても紳士的だった。12歳の無力な少女しか住まない屋敷の中に入れてもらうわけにはいかないといい、庭での休息だけを望んだ。どうやら私は人見知りだという事を自分でも今日初めて知ったわけだが、騎士団の中には女性もいたので少し肩の力を抜くことが出来た。


「あの、庭には許可を出さないと魔物は入って来れないんですけれど、メリアキリサは花の蜜集めるために出入りしているだけなので攻撃しないでください。」

「はい、わかりました。」

「あの、お昼は食べましたか?サンドイッチくらいしかありませんが、召し上がりますか?」

「よろしいのですか?」


 女性の騎士様は終始にこやかで3人とも麗人という言葉がしっくりくる感じだった。返事の代わりに小さく頷いてキッチンへ戻る。扉を閉めた瞬間、「可愛い~っ」「妖精みたい!!」という声がかすかに聞こえた気がした。さっそくメリアキリサに遭遇したのだろう。中々ファンシーな見た目だもんね。


 サンドイッチと一緒にスープも用意した。もちろん10人分なんて一気に運べないから何往復かしたのだが、みんな食べるのが早くてスープを味わってもらう頃にはサンドイッチは完食していた。満腹とまではいかないだろうが、帰るまでのエネルギーになればいいと思う事にする。


 最後の紅茶はご一緒させてもらった。流石にお客様用のティーカップは揃いで10個もなかったが、柄が違うものも合わせれば人数分はあったのでそれで間に合わせた。久々の紅茶はとてもおいしく感じられ、始めの緊張も忘れて御来客に感謝した。うまうま。


「じゃあイヴリースちゃんは最近ここに住み始めたんですね。」

「はい。相続手続きの完了と同時に。」

「それにしてもすごい技術ですよね。あの結界。イヴリースちゃんの許可がないと入れない仕掛けなんて、誰が組んだ術式でしょう?」

「すみません…。よくわからなくて…。」


 うそである。実家の魔術オタクの魔導師達なのは明らかだった。騎士の方々の話から、この敷地の外の結界術式が想像以上に高度なものであることが発覚したわけだが、面倒ごとのにおいがプンプンしたので「相続しただけなので分からない」で通すことにした。


 この結界は一度許可を与えた者はそれ以降出入りが自由にできるらしい。つまり許可済みの者からしたら普通の家と同じだ。が、所有者の許可が下りなければ魔物だろうが人だろうが、それこそ親でも王族でも進入不可の防壁となるらしい。許可を得る前に入ろうとして取っ手に手をかけた隊長さんはずいぶん痛い思いをしたようだった。それも、静電気が起きるようなものではなく、神経に直接痛みを与える形の警告だったらしい。彼らが敷地に入る前に警戒していた原因はこれだ。それがどれほどの痛みか想像できないが、次に実家の魔導師たちに会った時には設定を何とかしてもらおうと心に決めておく。


「それにしても、珍しいファミリーネームですよね。フォレストって。」

「森って意味らしくて、いわゆる屋号をそのまま使っているんです。……それと、好きな人が飼ってた動物の品種名にも使われています。」

「っか!」

「か?」

「…いえ、失礼、紅茶の底に砂糖が。溶けきっていなかったようです。」

「おかわり飲まれますか?」

「はい、ありがとうございます。」


 フォレストは自分で考えた苗字なのであまりつっこまれると少し恥ずかしい。しかも前世で憧れていた人の実家で飼われていた猫の品種からとったもんだからなおさらだ。説明した通り、森って意味だしピッタリだと思ったのだが、口にだしてみると思った以上に照れる。それなら言わなければいいのに、久しぶりの人との会話に浮かれすぎた。


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