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1人ぼっちの冬の始まり


 相変わらず雪は深々と降り、ある朝ついに外の雪は2階の高さまで到達していた。

 とはいえ、床暖房のような機能で屋敷中暖かいおかげか、それともこの建物の保護機能のお陰か、屋敷の外3メートルほどは地面が見えている。そこから坂を作って雪の壁が出来上がっているのだ。


外に出てその山をソリで登り、上から見渡すとアラネペレの小屋は完全に埋まっている。死んでしまっただろうかとソリで移動しその真下まで近づくが、ここからどれほど掘ればいいのかも分からない。仕方ないので大人しく雪解けを待つことにした。


次に向かったのはフルルフォーンの小屋。木がたくさん生えている方へ向かうと緩やかに地面へ近づくのを感じ取れる。小屋を除くと子鹿は数頭いれど、大人はほとんど出払っていた。最近気づいたのだが、吹雪の日などに餌をあげない日は大人が木の皮などどこからか持ってきて子供に食べさせているようだった。案外私のおせっかいは必要ないのかもしれない。


それでもエサを入れておけば誰かしら食べているようなので来れる日は何かしら入れておくようにしている。とはいえ、こちらも冬越えは辛い。今までより量が減ったのは許してほしいところだ。


 そして外のこと以外にも私は機織りを頑張っている。3週間もみっちりやれば結構いい出来の布が出来るようになった。アラネペレの糸は横糸に使って、縦糸はそれより安価なものを使って仕上げる。更に慣れてきたら本を片手に模様を入れて見たりもした。なかなか楽しい。


 けれど、2か月も機織りをすれば材料は尽きてくるし飽きも来るというもの。始めたばかりの頃に練習で作った布を解いて糸に戻してからもう一度作り直して見たりもした。


「これはB級品だな…」

 流石に一発で仕上げた物に比べて艶が落ちて見えた。でもハンカチのように毎日洗うものならこれくらいでちょうどいいかもしれない。


「そうだ!刺繍とかしてみようかな」


 思い至って刺繍の本と一緒にまじないの本も図書室の棚から引っ張り出した。前に読んだことのある本だ。改めて見返してから、新しい事を始める楽しさにワクワクしてくる。


 その本に書かれていたのは魔法がおまじないだった頃の話。人の想いを物に込めてお守りにする、そんな魔法とも呼べない始まりについての記述にこんな文があった。


『想いと共に魔力が込められ、その図形は意味のある印となった。魔法陣の原点である。』


 つまり、魔力を持たない私が現在の効率化された魔法陣を描いたらどうなるのだろうか。


 それを買った人が魔力を流し込めば、想いのこもったプレゼントに最適ではないだろうか。


「前世でも出来合いのスポンジと生クリームでケーキをつくったりしてたし、仕上げだけでも結構楽しいよね」


 そうと決まれば今度は魔術書を引っ張り出して、色んな陣から最適なものを選び、早速作っていった。



 そして更に日々は過ぎ、冬も3月の後半に差し掛かった。機織りと刺繍、はぎれから出来た髪飾りで材料を使い切ってしまい、ハンドメイドで時間をつぶせなくなってしまった。


 が、私にはまだもう1つ冬の楽しみがあるのだ。

 食器棚の下、蓋つきの壷を取りだす。そう、魚醤だ。

「うっ!!臭っ!!!」

 蓋を開けた時の臭いに思わず叫び、その樽を抱えて換気口の下に移動。


 始めにザルでドロドロになった魚と液体を分け、避難させておいたスライムに固形の方を食べてもらった。水槽のような専用の容器に入ったスライムは冬の間に肥えてきているが、カナリアはひと冬はこれで平気と言っていた。外に出すわけにもいかないのでその言葉を信じるしかない。


 さて、魚醤の水分の方はろ過しながら別の容器に移していく。大きめの壷で作ったのでお玉を使って少しづつ。その日はこれで一日がつぶれた。ろ過、時間かかる。


 けれど出来上がった魚醤は中々の出来で、作りだめしていた豆の煮込みを食べ終えてから鍋を作ってみた。日本酒は無かったが、それでも美味しくできたと思う。


 みんなが来たら絶対鍋をしよう。そう思ってワクワクしながら待った。


 けれど、この冬は首都は大騒ぎだったとのことで、結局春になるまでお客さんは誰も来なかった。


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