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冬が来る


 竈は当たり前だがずっと熱い。広場から離れた場所に設置してもらったが、それでもフルルフォーンは迷惑そうだ。ボーリスお手製の庭と私の畑には入らせない様メリアキリサに通訳と誘導をお願いしていたフルルフォーン達は今までよりも敷地内の行動範囲を広げている。時々子鹿が近付いてきてちょっかいかけてくるが、テーブルの上に熱い飲み物があるとそっちには近づこうとしない。なかなか賢い子だ。


「わっ、」

「あぁ、また…」

 ただ、私が椅子をひいた瞬間を見計らって小突いてくるのは勘弁してほしい。もう何回椅子と一緒に転んだか分からない。これがパスカルさんや他の人にはやらないのはせめてもの救いだ。お客様にはやめてね。相変わらずこけさせた後は距離をとってこちらを窺う子鹿に心の中で念を送っておいた。


「あんたエルブエルバ飼ってんのかい」

 お昼を作ってみんなに届けに行くと、ドワーフの1人、カルメロさんに呆然とした様子で声をかけられた。1週間目にして初めてドワーフとおしゃべりの機会がやってきた。私は飼っているという認識のズレを訂正し、それからちょいちょい彼らとも話せるようになってきた。と言っても積極的に会話をしてくれるのは獣舎の内装の話だったり、ソリの設計だったりと雑談というより仕事の話になるが、大きな進歩だろう。


 そして、途中から親方までこっち(ソリ)に夢中になっていて、気づいたら獣舎より先にソリが完成していた。

「わー!ちょっと落ち葉の上滑ってみます!」

「いいですね。試してください」

 黙々と獣舎の方を作業していた人もこちらに来た。私はキックボードを蹴る様にして片足をソリに乗せ、もう片方の足でソリを滑らせた。

「わー!!滑る!けっこう滑る!!」

「あはは!」

「ははは!そうか!結構滑るか!!」

 達成感も相まってドワーフもヒューマンもゲラゲラ笑う。ドワーフのハイメさんは駆け寄ってくれて停止に協力してくれた。

「滑りすぎとかあるか?どれ」

 言いながら自分でも乗って試していたが、途中から目的が試乗ではなく遊びになっていた。顎髭の小さいおじちゃんがソリではしゃいでいるのは少し可愛かった。


「まあ、荷物を乗せて移動するならこれぐらい滑った方がいいじゃろて」

 みんな一通りソリ遊びを楽しんで、フゥフゥと息切れをしながらハイメさんの一言で試乗を終えた。

「フォレスト様、ソリを動物にひかせる用に、こちらの説明もしておきますね」


 みんなが獣舎に移動する中で、パスカルさんはハーネスの調整とソリへの接続を教えてくれた。


「あの、私、このソリが動物にひかせる設計だって言いましたっけ?」

 私の問いかけにパスカルさんはキョトンとしてから「いいえ」と首を横に振った。

「ただ、この設計なら人が後ろから蹴って進むより前からひかせた方が効率的ですから」

 設計士ってすごい。プロには細かく説明しなくても大体察してくれるということをひしひしと感じた。例えば獣舎に関しても、火災の被害に遭った母と子のフルルフォーンの話をしたら、全ての仕切りを

扉のような形にしてくれた。大きくなったら扉を閉めれば個室になるが、親子が一緒にいた方がいいうちは扉を開けた状態でロックして大きな一部屋にできる。ソリに関しても、記憶にある図をそのまま描いただけなのだが、先端の曲線を描く木の必要性もアッサリ見抜いていた。曰く、障害物にぶつかった時のクッションだろうとの事。雪との接触面に油を塗るなどなど、私の適当指示に対して、彼らの対応は本当に、くどいようだが素晴らしいの一言に尽きた。


 そして3週間ほどで獣舎を完成させたグランドテッラのみんなは冬が始まる前に帰っていった。5年間のソリの独占作成権の契約書など、アーロンが作成していたらしい契約書にサインを頼まれた。内容は正直よくわからなかった。でも筆跡がアーロンのもので間違いなかったし、私はソリを一つ作ってもらえればあとはどうでもよかったのでグランドテッラのみなさんへお土産程度の気持ちでサインした。


「じゃあな。また面白い物作るなら声かけてくれや」

「はい、みなさんお元気で」


 見送りに振る手と反対の手にはさっきまでみんなの首にかかっていた通行証が握られいる。皆を見えなくなるまで見送って、私は屋敷の中へ戻った。これから長い冬が来る。


 雪が降りだしたのはグランドテッラのみんながここを去って5日後の事だった。夜に降り出した雪は翌日には庭を真白に染め上げていた。暖かい恰好をしてから庭に出てソリを滑らせながらパトロールしていく。まず向かったのはコンポストの中のスライムの救出だ。蓋を開け、生存を確認して一体だけ回収。いつの間にか増えていた他5体は申し訳ないが冬あけに素材として回収させてもらおう。


 家を持たないエルブエルバはアラネペレの小屋やフルルフォーンの獣舎、または農具を入れる物置など、各々屋根のある場所を確保していた。アラネペレは繭玉のような糸の球体の中で冬眠に入っていた。頼んでいた糸は出来上がっているのでそれを回収してから小屋の屋根に積もっている雪を落としておく。屋敷と獣舎はともかく、この小屋は雪の重みで壊れてしまいかねない。一日一回は様子を見に来るべきだろう。一度屋敷へ戻り、ソリのバスケットの中身を糸から食料に変え、次はフルルフォーンの元へ。みんな広くなった獣舎でお昼寝している。子供たちはさっきまで雪で遊んでいたのか、広場には蹄の後があちこちについていた。私は餌箱にバスケットの中身を入れてから獣舎の掃除を行い、屋敷に戻ってそれからはアトリエで糸をつむぐ作業に取り掛かった。


 雪が音を吸収してお昼の金の音すら今までと聞こえ方が違う。時折雪が屋根から落ちてドドッという音を鳴らす以外は自分の生活音しかしない。昼食は一番大きな鍋でクリームシチューを作った。しばらくはこればっかり食べていこう。身体を温めるにはあったかいものを食べるに限る。この屋敷には温泉もあるし、冬越えは思ったより苦はなさそうだった。


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