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住民の為にも冬支度


 同じことを繰り返す日々の中にも変化ってあるんだなぁと思いながら、歩く私の肩にはフルルフォーンの角が2本。見た目ガラスのようだが結構な硬さのそれは獣舎にあると邪魔なようだ。「はよもってけ。」と言わんばかりに鼻先で寄越されたので遠慮なく貰った。相変わらずオスのフルルフォーンは出たり入ったりしているので数はまばらだが、メスと子供は私の知る限り敷地の外に出てはいないようだった。広場で運動しているのはよく見かけるが。あと人に慣れた子鹿にちょいちょい纏わりつかれるのが可愛いやら困るやら。やんちゃな子は時々「えいっ」て感じで人の事転ばして、振り返るとちょっと遠いところでジッとこちらを窺っているのだ。可愛いけどあまり連続してやられると作業が滞るので最近は作業の前に餌箱を満たして彼らの注意を移してから掃除をするようにしている。


 そうして小さな変化はありながらもつつがなく日々を過ごしていた時にドアベルが鳴った。

 いつも通りそっと窓から外を窺うと、見慣れない顔が並んでいた。前回の事もあり、苦い顔をしながら居留守を使おうか思案していると、それを察したように大きな声で訪問者がこちらに告げた。


「フォレスト殿!ご対応願いたい!アーロン・ビケットの依頼で来た者だ!」

 知った名を聞いて急いで外へ飛び出た。アーロンの顔に泥を塗るわけにはいけない。正門へ走って向かい、改めて挨拶を交わした。

「対応が遅くなり申し訳ありません。イヴリース・フォレストと申します。」

「どうも、土木建設なんでもござれ。グランドテッラだ。はいこれ、紹介状。」


 敷地の中へ手を突っ込んでこないところを見ると結界の注意は受けているらしい。私は閉まっている門の隙間から手紙を受け取って目を通した。内容はアーロンからグランドテッラというパーティーへの仕事の依頼書だった。獣舎の改装とソリの開発依頼の件が細かく書かれている。そして最後の方に気になる一文が。


「特例通過証を受け取ってください。…特例通過証?」

「結界に入るのに必要なんだとよ。まさか分からねえとか言うなよ?」


 そのまさかだ。おそらく初日に受けた説明で聞いているんだと思うが、忘れてしまった。グランドテッラの皆さんに少し待っていてもらうように声をかけ、走って向かった先はおじい様の執務室。契約書などの大事なものは基本ここにあるのだ。結界の取扱説明書も確かここにあったはず。引き出しを片っ端から開けていくと目当ての物は意外と早く見つかった。首から掛ける使用のそれはドッグタグを連想させたが、文字らしきものは書かれていない。ざっと説明書に目を通し、急いで彼らの元まで走っていく。

「お待たせしました!」

 5人分のそれを持って行き、紐を首から掛けてからプレートに魔力を流すようにお願いする。彼らが言われた通りにするとプレートに紋様が浮かび上がり点滅を始めたので急いで彼らを敷地内へ招き入れた。


「えっと、今登録が完了しました。この敷地内にいるうちはそのプレートは首から外せません。外へ出るときは回収するのでまた声をかけてください。そのプレートを首から掛けている限り、外には出られませんので。」

「敷地内では外せないのにプレートを外さないと外へ出られないって、どうすんだ?」

「解除に必要な道具があるんです。なので、声かけてくださいね。えっと、作業の前にお昼はもう済んでますか?」


 私の問いかけに彼らは首を横に振った。せっかくだから打ち合わせもかねてみんなでお昼を食べることに。いつだか騎士団の人たちがそうしたように、庭に食事を運んでピクニック形式での食事をふるまった。


 6人で編成されたグランドテッラのうち3人はドワーフでその中の1人、バルドゥイドさんが親方的ポジションにいるようだ。リーダーのネイトさんはバルドゥイドさんの腕にほれ込み、面倒な人付き合いや交渉事を請け負う代わりにその手腕をそばで見させてくれと頼み、出来たのがこのパーティーなんだとか。もちろん作業に入ればみんな作業を行えるが、ヒューマンの3人は経理的な事から交渉まで行うから、今回のように最初から作業に参加できるのはあまりない事らしい。食事中とても嬉しそうに話す彼らにつられてワクワクしてきた。作業に取り掛かる前に、彼らは自分たちの寝床となるテントを張ってから野営の準備まで始めたので、食事だけはこちらで提供する旨を伝えた。我が屋敷の住民はみんな火が嫌いなので、火を熾す際は一言声をかけることを頼んでおいた。


 設計に1日、今ある獣舎の解体と材料調達に3日かけ、4日目に木を切ったり金づちで木を叩く音が響きだす。

「レンガも現地調達なんですね」

 ソリの相談に乗ってくれているパスカルさんに作業中の竈を眺めて言うと、話が脱線したのに咎めることなく話に乗ってくれた。

「この森は資源が豊富ですから。わざわざ業者から材料を買って焼いて持ってくるより手間も金もかからないんです」

「この森で粘土ってとれるんですね。木と魔素しか資源はないと思ってました」

「魔素を資源と言ってしまうところがビケット氏の縁者のかたですね」

 空笑いを零しながらパスカルさんは敷地の外に視線を向けた。魔素から身を護る魔法や防具をトップコートと呼ぶが、彼らのトップコートはパスカルさんに一任されている。素材を集める間、ずっと魔法を使い続けるのは大変だっただろう。即席で作られたテーブルの上に置いた菫の砂糖漬けを添えた紅茶のお代わりを労いを込めて注いであげた。


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