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『ロックロック』砕かれたのはプライドと…


 傍らで警戒音を出すメリアキリサに俺たちの誰もがいっせいに口を閉じ、臨戦態勢をとる。傍らのクレアが「やっぱり」と呟いた。

「何かのスキルで強制されてるんだ。じゃなかったら警戒音を出しながら攻撃しないなんて」

そんなクレアの言い訳じみたつぶやきを、イヴリース・フォレストの静かな声がかき消した。


「分かってる。入れないよ。」

 その瞬間警戒音は止み、メリアキリサは大人しく彼女の肩にとまった。

 クレアは顔を真っ赤にしてブルブルと震えている。無理もない。保護だなんだとフルルフォーンの為と言っていたのに、先ほどテイムしたいと大声で暴露してしまった直後だ。自分の正当性を誇示したいのにことごとく失敗に終わっている妹に憐みすら感じる。


 そして少女が一通りの手当てを終えた時、ダリルが珍しく他人へ魔法の事以外で声をかけた。

「なあ、うちのテイマーの目論見はさておきさ、もう少しこっちを頼ってくれてもいいんじゃねぇの。」

 正直、先ほど戦闘の構えをとったこともあり、みんなピリついている。クレアとルーサーにいたっては専門職にも関わらず一切頼られなかったこともあるだろうが、流石にルーサーは以前の失敗がある。顔には出さないが「申し開きがあるなら言ってみろ」というオーラを感じる。これも長い付き合いだから分かる程度だが。


「…ここの住民は外では生きづらいものばかりです。ただ生きるために場所が欲しいならいくらでも招き入れます。人も獣も魔物も関係なく。でも、ここで一息ついた住民に不穏を与えるなら、絶対に許可を出しません。」

「っ!!私は!私たちは、治すって言ってんのよ?!」

「子供の意地で囲われるフルルフォーンの気持ちを考えたことはありますか?大人に判断を任せるべきところを見誤っちゃいけませんよ。」


 クレアとルーサーの言葉はもっともだ。ただし、常識的な対応を彼女に求めることが正解かは疑問が残るところだ。彼女の行動はフルルフォーンへの思い遣りにあふれていたし、そこは疑いようもない。視野が狭く愚かな子供ではない彼女の真意を、俺を含め皆が知りたがっている。


「彼らは、私たちが思うよりこっちの言葉を理解しているように思えます。あなた達に自分を任せたかったら、ここから出てあなた達に頼るくらいの知能はあると思います。さっきも自分で薬を選んでましたし。…見てませんでしたか?」


テイマーではない俺にとって、魔獣の知能の高さは戦闘にどう影響するのかという視点でしか見たことがなかった。正直に言えば、魔獣は俺にとっての害獣で、手段で、そして金だ。

 テイマーの妹を持っているが、それでも今日初めて魔獣へ向けられる愛情というものを見た気がした。


「いつだったか、フルルフォーンはストレスに弱いってクレア様が仰っていましたね。大人が何でも正しい判断を下せるなら、きっとフルルフォーンの飼育問題も解決が近いんでしょうね。

 私はここから出る気はないので、きっとこれからもずっと世情には疎いままだけど、成功をお祈りしております。

 それとは別に、私はあなた方を敷地内に入る許可を絶対に出しません。住民が嫌がっていますし、私もあなた方が恐ろしい。『もう二度とここへは来るな』」


 そして覆らない拒絶をもって、俺たちはこの少女との関わりを永遠に絶たれることとなった。


 クレアは顔面蒼白で宿屋へ帰るまで口を開かず、そのままベッドに籠城してしまった。ルーサーは自分の発言の傲慢さを恥じて酒に逃げた。


 冷静に話が出来る4人で食事をとりながら、ヒューバードはいつもの柔和な表情が抜けきった顔で決定事項を口にする。


「制約書は俺が持つ」


 怒りを面に出さないながらも、ヒューバードが恩人に対して礼を欠き続けたメンバーへ腹を立てているのが良く分かった。俺たちがその言葉に否と返すはずもない。

 ただ、ヒューバードへ淡い恋心を抱いている愚かな妹に対し、憐みの情を抱くくらいは許してもらいたいところである。


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