『ロックロック』熱意
「良き魔女が出てくる本はなんて題名だったっけ…。」
あまりにもあっさりと譲渡された高品質のフルルフォーンの角を持ち、そのまま神殿に駆け込んだ。最後の素材であるゴッドラプタの炎は神殿にあるので薬を作ってもらうまで後は待つだけ。その待ち時間で放心状態のままつぶやいた言葉に返ってくる言葉はなかった。
教会に素材を持ち込んだ時の騒動は酷いものだった。依頼主が必要な分以外の素材を寄付するのが通例な神殿での調合以来で、フルルフォーンの角が丸々一本渡されるのは珍しい。必要分以外は他で売って金に換えるのは騎士ならともかく冒険者には常識だが、俺たちにその選択肢はなかった。
『あなた方がお金欲しさに乞うていたとしても、結果的に薬の材料になって誰かの身体を癒すなら、私が飾っているより有意義でしょう?』
少女の言葉を聞いた俺たちに金に換えるという選択肢はなかったのだ。
フルポーションを受け取り解毒技術のある治療師の元へ真っ直ぐたどり着いた俺たちに受付の治癒氏は愛想なく視線だけ寄越した。
「今週の支払いはこないだ済んだだろう。なんの用だい。」
「フルポーションが出来た。入るぞ。」
「は、本当に作って来たのかい?ははっ、いいよ、勝手に入んな。」
本業の薬屋の奥、居住スペースへ勝手知ったる足取りで入っていく。ヒューバードは息をしているのが不思議な状態だった。ディリサヴラという魔物に噛まれた脇腹は毒で異様な色に変色していた。毒の所為で傷も塞げない。この毒の厄介なところは毒の性質が数分ごとに変わっていくところだった。ふさがらず、膿み続ける傷。そして失った片足の所為で出血もひどく免疫力も低下するばかりでここまで生きながらえたのはここの婆のおかげだが、それも今日までだ。
意識がない人間に250ml飲み切らせるのは大変だったがこれまでの素材集めに比べれば大したことではない。そして薬を嚥下していくたびに変色した腹が元に戻っていき、シーツで隠れた片足があるべき場所にふくらみが出来ていく。
「ヒュー、起きて、ヒュー。」
クレアの声掛けに薄っすら目を開けたヒューバードは残りのハイポーションを飲み干し、一言つぶやいた。
「疲れた…。」
そしてまた深く眠りについたが、俺らがそれに心配することはもうなかった。
薬屋の婆に改めて礼を言い、俺らはそれまでの冒険をヒューバードにきかせた。
「大分苦労させたなぁ。お前ら本当にありがとう。この通りだ。もうお前らは実質Aランクだな。」
「もうランクアップはしばらくいいよ。」
「すっからかんだから仕事はしないとだけどね」
「まず酒屋のツケを払わないとな。」
しばらくぶりの気がかりのない笑いが宿屋の一室を満たした。
「こうして考えると王国騎士団のレベルの高さがよくわかるよな。」
「そりゃ独学戦術の俺らとは違うだろ。」
「でも今回提出したフルルフォーンの角の品質は過去最高だったんじゃないかしら?」
「あぁ、さっき聞いたやつか。良き魔女?」
「そうよ!」
クレアは興奮を隠さず立ち上がっていかに空前絶後の状況だったかをヒューバードに語って見せた。俺らは実際に見たし、その前に同じ話をクレアから聞いていたので呆れ笑いを浮かべながら各々の飲み物を口にして話の収束を待つことにした。
人の良いヒューバードは人の話を遮りはせず、おまけに聞き上手だ。クレアは思いのたけをぶつけた後、思い至ったように叫んだ。
「そうよ!飼育のコツを教えてもらいましょう!そして私がテイムすれば安定した素材の確保が出来るし、危険な戦闘をしなくてもお金は稼げるわ!」
「冒険者をやめる気か?」
その言葉に何人かは難色を示したが、クレアは首を横に振った。
「あくまで無理のない範囲での活動に絞れるってこと!」
「まあ、そうね。それに制約書を返却されて流れてしまったけれど、あの魔道具の解析もあきらめたくはないわ。」
礼が言いたいというヒューバードの一声もあり、俺たちは再度あの屋敷に足を運んだ。ベルを鳴らして出て来た少女にヒューバードを紹介して回復の祝いの言葉を俺たちは受け取った。
「わざわざありがとうございました。」
「あ、待って!お伺いしたいことがあります!あなたはどうやってフルルフォーンを手名付けたんですか?」
イヴリース・フォレストは「手名付ける?」と音には出さずつぶやいてクレアの言葉を黙って聞いていた。




