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『ロックロック』魔女の住む屋敷


 そして翌日、クレアに案内されて異様な屋敷にたどり着いたのだった。

「こんなところに屋敷があったなんてな…。」

「触れると弾かれるから触っちゃ」

「いっで!!」

「……。」


 クレアとダリルとルーサーの視線が冷たい。

「いい訳を聞いてくれ。」

 お好きにどうぞ、という妹の心の声を読みとって続ける。

「一応ディスペルの籠手つけてるから解けると思ったんだよ!」

「勝手に話すし。もうヤダこの馬鹿兄。」

 心の声は気のせいだったらしい。その後ろで本業のマージェリーが術式を解析してディスペルを発動しているのを今度は黙って見る。


「え?」

 つぶやいたのはクレアだった。マージェリーは性格に見合わず魔術は慎重だ。まず解析をしてから必要なら新しい式を構築する技術力を持っている彼女が失敗した。

「キャア!」

「ルーサー!」

 マージェリーの放った術が跳ね返されたが、彼女の使った術はディスペルだ。コンマ数秒で焦りを打ち消し、そして彼女の悲鳴でヒーラーの名を呼ぶ。何が起こったのか、もう一人の魔術師に解析を求めるとそれに及ばないとマージェリーが腕を上げる。コートを脱いで見せた彼女の腕は既に内出血が浮かんでいたがそれ以上の外傷がないようだ。

「反射で衝撃を返す式が組まれていたのね。解析した時には見えなかったのに…。しかも追撃機能付き。誰が作った魔道具かしら。こんなの作れるなんて、フロイス教授の功績にだって載ってなかったはずよ。」

「過去の遺物か?」

「それにしては媒体となっている支柱が新しいわ。」

 魔術師2人がここへ来た目的を見失いそうなので痛みのひいてきた手を打ち鳴らして注目を集めた。

「フルルフォーンと謎の結界。どっちもこの屋敷の主に会わないと解決しないな。」

「そうね、そうよね。ご丁寧にドアベルもあるけど、鳴らす?」

「警戒を強められても面倒だ。」

「じゃあ散策からだね。」

 こういう怪しい屋敷の攻略に正攻法は愚策だ。屋敷の外周は等間隔で支柱が立っていた。半分ほど歩いたところで俺たちはその少女に出会った。


 クレメント・フロイスを信仰と呼べるほど尊敬しているマージェリーが彼以上の技術力と言わしめる魔道具の内側にいた少女。その美しさにそぐわぬ使用人のような衣服と汚れ仕事がアンバランスで、一瞬彼女も魔法で動かしている人形かと思った。けれど、俺らを認識した彼女の表情が余りに人間らしく動くものだから自分の想像がおかしくて笑ってしまった。そして彼女に声をかけた。


「そんなに警戒しないでくれよ。俺はロックロックのホレイシオ。なあ、そこのフルルフォーン、あんたのかい?」

「ここは私の私有地ですが、彼らの権利は彼らにあります。なにか?」


 そして再度の驚きが俺を襲った。推定10歳くらいの少女は「はい」か「いいえ」で成立する会話に曖昧で応えたのだ。まるで腹の中を読ませない商人か、質の悪い精霊か、おとぎ話の魔女の様だ。

 先ほどから止まらない自分のバカな想像を誤魔化すように笑って誤魔化すが、後頭部への衝撃で浮ついた脳内が現実に引き戻された。


「このクソボゲ!…あぁ、申し訳ないお嬢さん。実は仲間が重傷を負っていまして、フルルフォーンの角をひとかけいただきたいのです。この屋敷の責任者にお取次ぎいただけませんか?」


 ルーサーはことさら丁寧に少女へ声をかけた。先ほどの少女の言葉を聞いていなかったわけではないが、やはり現実的ではない。


「フルルフォーンの角だけでは薬になりませんが、Sランクの薬師に当てはあるんですか?」

「Sランク薬師は神殿に常駐しています。ポーション、ハイポーションと違い在庫が潤沢でないフルポーションは提供にも優劣がつけられる。けれど素材提供に貢献した者には最優先で提供されるんですよ。金額も多少値引いてもらえる。説明を省いたことをお詫びします。まさか知らないとは思いもせず。」


 少女の疑問にルーサーが一気に肩の力を抜いたのがわかった。冷静に見えたルーサーも緊張をしていたらしい。世捨て人を選択できる年齢でもない少女がこんな物騒な森にいる。貴族にふさわしい屋敷と美しい少女。この女の子の不遇な境遇が透けて見えてきたが、こっちも譲れない目的がある。この屋敷の本当の主人の機嫌を損ねるわけにはいかないのだ。


少女は先ほどの怯えた目とは打って変わって意思を持った視線をこちらに向けた。


「知りません。あなた方の仲間が怪我を負った事も、神殿の事も確かめるすべがありません。それから、私はあなたの名前も知りません。」

 今度はルーサーがたじろぐ番だった。立場が下の者が先に名乗るのは貴族の常識。そして頼みごとをする側であり訪問者のこちらが名乗るのは世の常識。それを指摘されては何も言えない。やはりこの少女、ただものではない。機嫌を損ねるべきではなかったのは、存在しないこの少女の主人ではなく、この少女自身だったのだ。


「私はフォレストといいます。落ちた角を提供すること自体は別に構わないのですが、その後起こりうる面倒ごとは御免被ります。どうしてもというなら私にとってあなた方が無害だと証明していただきたい。」


 魔女だ。

 これが商人なら明確な見返りを求めるだろう。貴族なら、少女への人権侵害を盾にとれば交渉も可能だったはず。けれど、魔女はおとぎ話の住人だ。少女は「しないでほしい事」は口にしても「してほしい事」は言わなかった。


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