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『ロックロック』高いAの壁

某ギルド視点です。ちょっと長くなるかも。


 ヒューバードが完全回復してからの俺らの生活は変わった。正確にはイヴリース・フォレストと出会ってから変わった。



 数か月前、俺らのパーティーはBランクからAランクへの昇格試験も兼ねた依頼を失敗した。絶対いけると思っていた。前日の夜には前夜祭だと酒場の客全員に酒を驕るどんちゃん騒ぎをし、支払いはツケ。Aランクの依頼報酬が手に入れば払いきれる額だったが、失敗した俺たちには大きな負責となった。それだけBとAのランク差は大きい。

 そして前日あれだけ大口をたたき大騒ぎをしたくせに仲間の1人は片腕を欠損させて戻って来た俺らを見る同業者の目は冷たいものだった。


「なんだっけ?『もうお前らとはレベルが違うんだよ』だけ?」

「おごりだっていうから聞き流したけど、結局払えてないんだろ?」

「ちょっと、聞こえるって。後にしよ、後に。」


 結局後で話すのかよ、と心の中で突っ込みつつもう慣れてしまった冷たい空気を知らんふりし、カウンターに本日の得物の記載と証拠となる身体の一部を提出した。

「はい、ヴォルカンドラゴンの討伐を確認しました。素材は換金していきますか?」

「いや。」

「では討伐報酬です。どうぞ。」


 ヴォルカンドラゴンという魔物の名を聞いた何人かの冒険者がざわついたが、やはりそれもシカトしてギルドを後にした。


「おかえり。」

「あぁ、傷は?」

「これくらいならルーサーとダリルで治せるわよ。」

 拠点にしている宿屋の一室でマージェリーが少し形が歪んだ耳を撫でながら答えた。戦闘の際に避け損ねた溶岩がひっかかったのだ。肩と胸元は綺麗に治ったが熱で欠損した耳は完全には治らなかったらしい。

「それより、クレアがフルルフォーンの情報を持って帰って来たわ。」

「本当か!」


 テイマーのクレアは今回の戦闘とは別行動をとっていた。マグマ地帯で戦力になる魔獣をテイムしていなかったのであと一つの素材の捜索を行っていたのだ。こちらが攻略に時間をかけてしまった事を差し引いても素晴らしい功績だ。


 ヴォルカンドラゴンは危険度こそSランクだが遭遇難易度はBとそこまで高くない。マグマ地帯にさえ行けば長くとも3日で顔を出すからだ。場所が場所なだけあって新鮮な肉に飢えた奴らはその戦闘力ゆえ外敵というものもほぼゼロ。簡単に顔を出す。なんならにおいを嗅ぎつけ数キロの距離を移動して自分からやってくる。ただそれを倒せるかはまた別問題。マグマの熱だけでも厄介なのにそれに加えて飛ぶは泳ぐはデカいわの大型ドラゴン。正直よく生きて帰って来られたと思う。勝利した時もみんなその場で崩れ落ち、喜ぶ気力もなかったが、フルルフォーンの捜索はそれとはまた別ベクトルで厄介極まりなかった。


 やつらはヴォルカンドラゴンと真逆で天敵だらけだ。あの角には薬効があるのは今更なので割愛。魔物も人間もみんな角を欲しがる。そして肉もうまい。高級品の為食べたことはないが聞いた話だと、味は普通の鹿肉だが、食べると能力上昇のバフがつくらしい。角に咲く花は高濃度の栄養素を含む蜂蜜がとれるし、その花は結晶化するとこれまた美しい。そんなフルルフォーンの毛皮には認識阻害の効果があるので捜索をする身としては厄介だが捕まえてしまえば捨てるところがないSランクの素材なのである。なら家畜化させた方が効率的なのだが、これがまた難しい。とにかくストレスに弱いのだ。ストレスが汚染につながるのか分からないが、人の手が加えられた環境で生かされるとフルルフォーンの角は透明度が低くなり、薬効もまた落ちる。そして雌のフルルフォーンは身ごもった子を死産させ、その際感染症にかかって母体も死亡。あちこちで未だに飼育を試みているようだが結果は似たり寄ったりだ。


 そんなフルルフォーンが唯一共存する相手はメリアキリサという昆虫型の魔物である。蜂の形態を模しているだけあってそもそもコロニーの中で生きる彼らに角に咲く花の蜜を提供する代わりに数で外敵を知らせてもらいいち早く逃げ出すというフルルフォーン。認識阻害という特殊能力を持っているのに徹底している。危険度はBと決して高くないが、見つけられないなら戦闘になりようもない。ヴォルカンドラゴンと足して2で割ってほしいものだ。


 そんなフルルフォーンを見つけたというのだから我が妹の優秀な事よ。はやる気持ちを押さえながらクレアとその周りをみてから俺は眉をひそめた。

「それで、角は?」

「結界の中にいて入れなかったの。信じられない光景だったのよ、兄さん…。」


 どこか夢うつつなクレアに自分の眉間にしわが寄るのを押さえられなかった。こっちは死ぬ思いをしてヴォルカンドラゴンの逆鱗を手に入れたのに、ぽけーっとした顔をして何故ここにいるのか。怒鳴りたいほど苛立ちを覚えるが、疲労でその力も出ないのが幸いだった。深いため息をついてから、クレアに話を聞くとまた荒唐無稽な事を言って聞かせてくるのだ。

 俺がその話を信じていない事を察したクレアは最後に「行けば分かるわよ。」と言って話を締めくくった。そしててきぱきとみんなの就寝準備を進めてくれる。

「とにかくみんなまず寝て!食事は用意しておくから。お風呂も全部あと!」

 「疲労がたまりすぎると逆に眠れない」とうだうだ言う俺たちを各々のベッドに押し込んだクレアはカーテンを閉め切り部屋を極力暗くして部屋から出て行ってしまった。

 こういう時の最年少は強い。俺たちは先ほどまでの興奮が嘘のように眠りについた。


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