拒絶された大人達
「…ここの住民は外では生きづらいものばかりです。ただ生きるために場所が欲しいならいくらでも招き入れます。人も獣も魔物も関係なく。でも、ここで一息ついた住民に不穏を与えるなら、絶対に許可を出しません。」
今までにない冷ややかな気持ちで私は彼らを拒絶する。それに一瞬怯んだ様子を見せたが、それでもクレアと名乗ったテイマーは語気荒く食って掛かってきた。
「っ!!私は!私たちは、治すって言ってんのよ?!」
「子供の意地で囲われるフルルフォーンの気持ちを考えたことはありますか?大人に判断を任せるべきところを見誤っちゃいけませんよ。」
クレアとルーサーの言葉が右から左に流れていく。ダリルを見ると視線が同じく問いかけてくる。先ほどのクレアのテイムしたいという欲求を除けば、彼らから出る言葉はフルルフォーンを案ずるものばかりだった。
「彼らは、私たちが思うよりこっちの言葉を理解しているように思えます。あなた達に自分を任せたかったら、ここから出てあなた達に頼るくらいの知能はあると思います。さっきも自分で薬を選んでましたし。…見てませんでしたか?」
「……。」
「いつだったか、フルルフォーンはストレスに弱いってクレア様が仰っていましたね。」
誰も相槌をうたないので勝手に続けることにした。
「大人が何でも正しい判断を下せるなら、きっとフルルフォーンの飼育問題も解決が近いんでしょうね。
私はここから出る気はないので、きっとこれからもずっと世情には疎いままだけど、成功をお祈りしております。
それと、私はあなた方を敷地内に入る許可を絶対に出しません。住民が嫌がっていますし、私もあなた方が恐ろしい。『もう二度とここへは来るな』」
「…っ」
まだ何か言いたげなメンバーを説き伏せているのはダリルとヒューバードだった。言いたげだが、何も言えないのは制約書を破り捨てていなかった証拠だ。もし彼らがここへ訪れた時は制約書が廃棄された証拠だ。そうならなければいいなとおもった。
背を向けて歩みを進めていると並走していたメリアキリサが一匹。指を差しだすと大人しくとまった。本当に、言葉を理解しているとしか思えない。
「人と関わるのは疲れるね。」
メリアキリサの首のふわふわに唇で触れる。警戒音も出さず、首だけでこちらを窺う小さな護衛は私が顔を離してもしばらく指にとまったままでいてくれた。
彼らは本当に仲間思いだとおもう。良いチーム。でも、彼らにとっていいチームメイトが私にとっていい人であるとは限らない。仲間を思えば思うほど、私にとって迷惑な行動になってしまうのだからしょうがない。こういうのはどうしようもないのだ。
また、子爵婦人の顔が浮かんだ。そして彼女に愛される兄と妹の姿も。
「早くみんな来ないかな…。」
恋しい仲間に思いを馳せると、メリアキリサはそっと指から離れて行った。
アラネペレの糸を巻き付けた木の棒が半径5cmになったところで新しい棒を持って小屋へ行ったら巣を巻き付ける前にアラネペレに棒を奪われた。
「え、えええ?!そんなことできるの?!」
カメレオンの捕食みたいに持っていかれた棒は雲のように張られた巣から半分だけ顔を出しウゴウゴしている。
「おじゃましましたぁ~…。」
どうやら怒らせてしまったらしい。まあ、一生懸命作った物を完成してから壊されたらそりゃ怒るよなぁ…。今度持っていく献上品に気合を入れよう。うん。
翌日、ネズミを食べるなら鶏も食べるだろうと、献上品の鶏肉と畑でとれたバッタを持ってアラネペレの小屋に入ると入り口に押しつぶされてしぼんだ綿あめのようなものが上からぶら下がっていた。
「え、罠みたい…。」
思わずつぶやいた言葉に上から顔を出したアラネペレは「いらんのか?今日は棒持ってないね。よしよし。」とでも言いたげにこっちを眺めていた。
「糸ありがとう。あとこれ、食べる?」
いつものバッタが入った麻袋に反応して降りてきたアラネペレは隣の鶏肉に反応を示している。つついて、一口齧ったらもう夢中だった。食べなかったらもったいないから5cmくらいの大きさにして持ってきたのだが、お気に召したらしい。
私は籠ごとアラネペレを床の綺麗な部分におろし、そっと糸玉を回収したのだった。




