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予想以上に凄い奴


 

 時折金属が軽く当たる音がすると冒険者が通ったんだと分かる。午前中の畑の作業を終え、敷地の端っこの獣舎へ行くと見慣れない人影が見えた。

 敷地の外だが、休んでいる様子はなくてどちらかというと散策という感じだ。


「お、」


 冒険者の1人がこっちを見て動きを止めた。他の者も同様にこちらを見てきて視線が私に集中する。


 ああ、嫌だ~。

 無害で無益な子供です、と心の中で唱えながら獣舎の陰に隠れようとしたところ、一番最初にこちらに気付いた冒険者に声をかけられた。顔だけ出して会釈を返す。


「そんなに警戒しないでくれよ。俺はロックロックのホレイシオ。なあ、そこのフルルフォーン、あんたのかい?」

「ここは私の私有地ですが、彼らの権利は彼らにあります。なにか?」


 ホレイシオと名乗った男の人はニヤニヤ笑って「ほぉ~」と言って顎をさすった。あまりいい気分じゃないので獣舎に入ろうとしたのを察したもう一人の仲間が彼をロッドで殴りつけた。


「あっで!」

「このクソボゲ!…あぁ、申し訳ないお嬢さん。実は仲間が重傷を負っていまして、フルルフォーンの角をひとかけいただきたいのです。この屋敷の責任者にお取次ぎいただけませんか?」


 いや、まあそれが本当なら可哀想だしこの間落ちていた角を上げてもいいんだが、でもその後に起こりうる面倒ごとが頭をよぎる。

 こちらを格下と決めつけ、少し頭を使った回答をしたら「頑張ったなお嬢ちゃん」とでも言いたげな返答をした男のパーティー。前はくれたじゃないか、また怪我をしたんだと乞われ続けるのは正直面倒だ。


「フルルフォーンの角だけでは薬になりませんが、Sランクの薬師に当てはあるんですか?」

「Sランク薬師は神殿に常駐しています。ポーション、ハイポーションと違い在庫が潤沢でないフルポーションは提供にも優劣がつけられる。けれど素材提供に貢献した者には最優先で提供されるんですよ。金額も多少値引いてもらえる。説明を省いたことをお詫びします。まさか知らないとは思いもせず。」

 私の質問に、メガネをかけた男の人は少し笑って言った。悪気があるのかないのか判断の難しい表情だ。ただ、本人の自覚はおいといて、真剣に話しているこちらとしてはやはりあまり気分が良くない。


「知りません。あなた方の仲間が怪我を負った事も、神殿の事も確かめるすべがありません。それから、私はあなたの名前も知りません。」


 暗に礼儀知らずを指摘すればメガネの男性はギョッとした顔で私を見た。そして目を泳がし口をつぐんでしまう。

「私はフォレストといいます。落ちた角を提供すること自体は別に構わないのですが、その後起こりうる面倒ごとは御免被ります。どうしてもというなら私にとってあなた方が無害だと証明していただきたい。」


 先ほどの浮ついた空気をもう彼らの誰も持ってはいなかった。ホレイシオと名乗った男性が一歩前へ出て来た。


「アンタがこの屋敷の主か?」

「共存している彼らの所有権は彼らのものです。ですが、敷地と建物の権利は私にあります。環境保護の為、放棄された無機物の撤去も私の責任です。」

「なるほど、無機物ね…。いや、先ほどの態度を詫びるよ。明日また出直す。今度は正面の門から来るからよ。」

「その際はドアベルを鳴らしてください。勝手に侵入を試みると結界魔法で痛い思いをしますから。」


 ホレイシオは苦笑いを浮かべた。後ろにいた女性は腕を、ホレイシオはお腹をさすって「身をもって知ってるよ。」と答えたので既に痛い目を見た後なのだろう。


 彼らが帰ってから私は図書室でフルポーションの事と、神殿について調べた。

「え、たった2.5グラムでフルポーション一回分?あの角一本で何リットル作れるの…?」

 ちなみに通常一回分は250mlとのこと。

 前世では鹿が増えすぎて害獣扱いされていたが、フルルフォーンはどうなんだろうか。金貨20枚って結構な額なんだろうけど、鹿の角って生え変わるわけだし、母数が大きい上に一頭から何度も得られるならなんでそんなに価値が上がるんだ?

 フルポーションの素材であるヴォルカンドラゴンの逆鱗と同じランクなのが正直信じがたい。だってこのドラゴン、マグマに住んでるとか。そもそもマグマ地帯とか人が行ってどれだけ生きていられるの?そこで戦うの?

「ホントにこれSランクであってるの…?」


 胡乱気な目でただ綺麗なだけのオブジェを見てつぶやいた言葉は誰に拾われることなく空中に溶けて消えた。


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